勇者、シャイゆえにこっそりペロペロする系男子ですた
「エージ、抜毛防止帽子のことは後にしましょう。魔法が解ける前に、この方に真実を問い質さなくては」
「抜毛防止帽子言うな! 大体お前もわかっちゃいな……んげ!」
インテルフィにマントを掴まれ、俺はゲダヨの前に投げ飛ばされた。
そうだ、今は民衆にセンスとは何たるかを教えるより、ゲダヨに本当のことを吐かせなくてはならない。
「ゲダヨ、お前、リラ団長のことを嫌ってたのか? まさか彼女が消えた件に、関わってたり……しないよな?」
静かに問いかけると、ゲダヨはおすわりポーズのまま目を大きく瞠った。周囲からの笑いも消える。
時が止まったかのような沈黙は、すぐに破られた――――ゲダヨのプヒョッという間抜けな吹き出し笑いによって。
「んもー、いきなり何を言うかと思ったらぁー! 私がリラっちを嫌ってる? んなわきゃーないでしょう。だって私、リラっちのこと好き好き大好きなんですから!」
…………はい?
ラクス達の話と違いすぎる告白に、俺は唖然とした。おいおい、やっぱり魔法を間違えたんじゃ……。
「リラっちには、一目惚れだったんです。でも私は年が離れすぎてるし、身長も低いし、ヒゲもこんなにモジャってるじゃないですか? だから自信がなくて……この気持ちを振り切ろうと、わざと冷たい態度を取ってたんですよね」
そこで俺は、ビオウさんの言葉を思い出した。彼は『ゲダヨが団長を嵌めるなんてありえない』と言っていた。そうか……恐らくビオウさんは、ゲダヨの想いに気付いていたんだな。
まだ会ったことはないけれどリラ団長は完璧な女性らしいから、俺みたいに身も心も素敵度マックスな男以外はお呼びじゃないと考えてゲダヨは諦めようとしたんだろう。
身の程知らずの恋、か……辛かったろうに。
俺ほどパーフェクトだと常に選ばれる側だから、理解してやれないのが心苦しいぜ。
「副団長として側にいることが多くなっても、私にできることと言ったら、リラっちが使った消しゴムのカスとか捨てたゴミとかを集めたり、リラっちの座った椅子に頬ずりしてほんのり残る温もりを味わったり、リラっちが使ったカップを片付ける時にこっそりペロペロしたり、その程度です。それでも、他の奴よりもリラっちの近くにいられて幸せだったのに……!」
「おいエージ、そこを退け。そいつを殺す」
「どうか止めないでください。こいつはここで息の根を止めるべきです」
不穏な台詞を吐きながら、ラクスとパンテーヌが近付いてくる。それぞれの手には、やたら分厚い魔導書が。
ちょっとちょっと、もう詠唱始めちゃってるし! 殺る気満々!!
「ま、待て! 目撃証言に偽りはなかったか、それを聞かなくてはならないだろう? それにこいつを殺ったら、お前らはリラ団長を探しに行くどころじゃなくなるぞ? だから落ち着け、な!?」
必死に宥めると、二人は渋々魔導書を閉じてくれた。
ゲダヨに共感するあまり、俺も同じことを好きな子に全部やったわ……なんて、打ち明けなくて良かった。二人には絶対に秘密にしておこう、そうしよう。
「ゲダヨ副団長様、あなたの証言に嘘はなかったのですか? 本当にあなたは、リラ団長様の行方をご存知ないの?」
ああー!
二人に構ってる間に、インテルフィに肝心要の一番いいとこ持ってかれちゃったーー!!
魔法がいつ切れるかわからないから急いだんじゃなくて、単純にこの場にいるのに飽きてとっとと済ませようと思ったんだろう。
インテルフィよ、お前はもっと男を立てるということを学んだ方がいい。
「はい、嘘なんて言ってないです。リラっちがいなくなって一番辛いのは、私ですから……だって、まだ食事を終えたフォークとスプーンをペロペロしたことないんですよ!? 着替えを覗いたこともトイレに忍び込んだこともないのに、夢を叶えられないまま魔物に連れ去られるなんてあんまりだーー!」
「エージ、すまん。やっぱりこいつ殺す」
「ええ、殺すべきを通り越して殺さねばという義務感すら湧いてきました」
ゲダヨが真実を吐露してくれたのは良かったけれど、ラクスとパンテーヌがまた殺気立ってしまったからさあ大変。
仕方なく俺はプライドをへし折ってインテルフィにお願いして、何とか説得してもらった。
「……リラっちは、東の方に向かっておりました」
殺されずには済んだが、妥協案としてラクスにきゃんたまを全力で蹴られ、パンテーヌに魔法でヒゲを燃やされてボロボロになった状態でゲダヨが告げる。
「わかりました。では我々もそちら方面に向かい、聞き込みしながらリラ団長様の行方を追います。このお二人を、お借りしてもよろしいですわね?」
特徴的なヒゲがなくなったせいで無個性なありふれオッサン顔となったゲダヨを冷ややかに見下ろしながら、インテルフィが念を押す。
「いくらインテルフィ様のお願いでも、それは受け入れかねます」
しかし半焦げ顔を半泣きに歪めながらきゃんたまを押さえるという情けない格好とは裏腹に、ゲダヨはきっぱりとインテルフィの申し出を断った。
「この二人までいなくなってしまったら、私はどうすればいいのですか! 今はこの二人だけが、私の心の支えなのです!」
「ゲダヨ副団長……」
「そんなに私達のことを……」
ラクスとパンテーヌが呆然と声を漏らす。
仲が悪そうに見えたけれど、ゲダヨは本心では彼女達を頼りにしていたらしい。好きな子に冷たくしてしまうタイプみたいだし、きっと素直に気持ちを表現できない奴なんだろうな。
ゲダヨにとって二人は、普段は言えなくても心の中ではちゃんとリスペクトしている仲間。そして、大切な人を失った気持ちを共有し合える相手でもあるんだ。
何だよ何だよ、いい話じゃないか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます