勇者、えっちの時にいつ靴下を脱ぐのかいつも疑問
ゲダヨ副団長によれば、事件が起こったのは一週間前の真夜中だったという。
団長とは二人で深夜まで執務室に詰めて仕事をこなしていたそうだが、仕事を終えて宿舎に向かう途中で副団長は奇妙な胸騒ぎを覚えたらしい。
「団長も同じだったようで、念の為に二人で庁舎の見回りを行ったのです」
庁舎には、夜間警備当番の魔道士が何人か配備されていた。しかし持ち場についていた彼らに尋ねてみるも、誰一人として何の異変も感じておらず、また何の異常も起こっていないと口を揃えて言った。
「私とリラ団長は、魔道士団の中でも飛び抜けて魔力が高いのです。そのせいで『アレ』の存在を感知したのだと思います」
「飛び抜けて魔力が高い、とは笑わせる。団長については認めるが、それに次ぐ魔力の持ち主は私達トレッセス姉妹、貴様は三番手だと付け加えるべきだろう」
忌々しげに、ラクスが横槍を入れる。
「ムキー! お前はいっつもそうやって私をバカにして! だからエルフなんて嫌いなんだ! お前ら二人、永久に便所掃除当番にしてやるー!」
「ええー!? ちょっと待ってくださいよぅ、副団長! 私はお姉様と違って、ヘッポコ魔力のクソジジイがあの麗しの団長に張り合おうなんざ痛々しくて笑えるわーと思っただけで、口に出しては言ってませんよっ!?」
「モケー! 言わなけりゃいいってもんじゃないわー! というか、お前も思いっ切り言ってるじゃないかー! このバカバカバカバカ、バカエルフ!!」
ラクスとパンテーヌの発言から察するに、二人は魔道士団長を慕っているが、副団長との関係はあまり良好ではないらしい。
「なあ……『アレ』って何なんだ? 何が起こったんだ?」
仲裁するのも面倒だったので、俺は話を戻してもらおうと声をかけた。
「ああ、失礼。お見苦しいところをお見せしてしまいました。バカエルフ達には後できつく言っておきますのでお許しを」
「何だと、このヒゲチビオヤジ!」
「私達がバカエルフなら、副団長はドワアホですね!」
「うるさーい! お前達は黙ってろ! 話が進まんじゃないかー!」
いつもはレディの味方をする俺だが、今ばかりはゲダヨ副団長の意見に賛成したい。そろそろお腹も空いてきたし、何より服がほしい。この期に及んで、俺はまだパン一なのだ。もう慣れてしまって、恥ずかしいと思えなくなってきたことに密かに危機感を覚え始めているんだ。
インテルフィも早く話を済ませてほしいと思ったようで、ゲダヨ副団長に微笑みかけて先を促した。
「わたくしもお話の続きが気になりますわ。高い魔力の持ち主にしか感知できなかったということは、相手は高位の魔物なのかもしれませんわね?」
すると、ゲダヨ副団長は力なく項垂れた。
「恐らく、そうではないかと予想しております。庁舎には何も起こっていなかったようですが、休んでいる魔道士団のメンバー達が心配だったので、我々は二手に分かれて安全確認を行うことにしました。そこでリラ団長は女子宿舎へ、私は男子宿舎へと向かったのです。魔道士団最強を誇るとはいえ、団長とて一人の女性。しかも連日の激務でお疲れでしたから、何かあっては危ないと申しましたのに、別行動した方が早いとお断りになられて……」
「えっ、団長って女性の方なの?」
身を乗り出した俺に、ラクスとパンテーヌはフフンと揃って不敵に笑ってみせた。
「そうとも。女性ながらに誰よりも強く、それでいて誰よりも優しく、魔道士団のみならず町民の皆にまで愛される最高の御方なのだ」
「頭も良くてセンスも良くてユーモアもあって、お料理もお裁縫もお上手で、美人でおまけにスタイルも抜群なんです! 団長に出会えたことは、私達にとって最高の幸運と最大の幸福です!」
熱く語る二人に、俺だけでなくインテルフィまで圧倒されてしまったようだ。
「と、とても素晴らしい方なのね…………どうしましょう、ちょっと不安になってきましたわ? ねえエージ、目移りしてはイヤよ?」
インテルフィは上目遣いにこちらを見て、袖口を引っ張る代わりに俺の腕の皮をちょいちょいと引っ張った。
ああ、やっぱり服がほしい!
同じポーズでも、袖チョイが皮チョイになるだけで可愛さが激減する。
俺が死ぬまでに一回は経験したい、後ろから裾をきゅっと掴まれて『今日は帰りたくないな……』って言われるシーンなんて、背中の皮をつままれるのに置き換えたら台無し・オブ・台無しだ。もう裸族でいいかなーなんて考えたけどナシだ、ナシ。二人で一つマフラーもしたいし、ジャケットのポケットの中で手を繋ぐのもやりたいし、それに俺は着衣エロだって大好物なんだから!
俺のヒ・ミ・ツな性癖はさておくとして、それよりリラ団長だ。
この美エルフが崇拝するほどの完璧な女性ときたら、期待値が爆上がりするってもんよ。こいつら、口は悪いけど良く言えば素直なんだ。だから彼女達のリラ団長への評価は、大袈裟に聞こえたけれど誇張したのではなく、嘘偽りのない本音だと思われる。
俺がこれまでモテない苦難を強いられてきたのは、彼女に出会うためだったのかもしれない。恋の神様が、大切な人と巡り会う時のために俺に女の子を寄せ付けないようにしたのかもしれない。
ああ、リラ団長――きっと彼女こそが、俺の運命の人なのだ!
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