勇者、嫉妬されることには慣れてますので


 魔道庁舎なる場所に足を踏み入れたのは初めてだったが、雰囲気としては村役場に近い。様々な種類に分類された受付が横にずらりと並んでいる。


 ここには、魔道士の力を必要とする町民達が訪れるのだという。内容を聞いた上で魔法で解決するしかないと判断された場合は、目的に応じて魔道士を派遣するんだって。閉館時間が間もないから人は疎らだったけれど、お昼は混み合って行列になっているんだとか。


 俺の村には魔道士団どころか魔道士すら一人もいなかったから、やっぱり都会は違うなぁと軽くコンプレックスを刺激されてしまった。魔法の才能がある奴は皆、専門の学校がある都会に行って都会の色に染まって都会の人混みに流されて田舎を忘れて、帰らなくなるものなんだよ……。



 関係者専用スペースに入り副団長室の前に来ると、ラクスとパンテーヌは俺とインテルフィに目で待機するよう伝え、扉をノックした。すぐに低い声で返事がされる。


 二人はそれぞれの名と用件を伝え、入室の許可を得て中に入っていった。


 魔道士副団長ってどんな人なんだろう? 怖い人じゃなければいいな……と想像を巡らせる暇すら与えられず、ほとんど待つことなく扉は開かれた。



「おお、おおおおお! 扉を挟んでいても、ビンビンギンギン感じておりました……この凄まじいオーラ、そしてお美しいお姿、紛れもない女神様! サインください握手してください写真お願いします出会えた今日を記念日にします死ぬまで毎年祝います!!」



 扉の向こうでは、パンテーヌの控えめな胸にも届かないほど背の小さなオッサンが口周りにたっぷりたくわえたヒゲをモフモフと動かしながらピョンピョン飛び跳ねていた。このドワーフ族と思われる陽気なちっさいオッサンが、どうやら魔道士副団長のようだ。良かった、怖くはなさそう。



「わたくしはインテルフィと申します。もう女神ではありませんので、そんなに畏まらないでくださいな。あなたが魔道士副団長様でいらっしゃるのかしら?」


「はっ! ご挨拶が遅れまして申し訳ございません! 私がヘイオ町魔道士団の副団長、フサヒ・ゲダヨであります! ええと、そちらは……?」



 ゲダヨ副団長さんとやらは、手押し車に乗せられたままここまで運ばれてきた俺を見て、そっと尋ねた。


 慌てて俺は荷台から降り、自己紹介した。



「俺はエージ・ウスゲンといいます!」


「これが探していた勇者様らしいっすー」

「我こそが勇者だと本人は言ってましたー」



 元気良く挨拶した俺に続き、ラクスとパンテーヌがやる気まるでナッシングな調子で補足説明を加える。そういう言い方やめろよな! まるで俺が勇者を自称するだけの可哀想な奴みたいじゃないか!



「あなた方の仰る勇者というのは、五年前の王国危機で、魔物達を操って人間達を迫害した『魔王なる存在』を倒した者でしょうか? それならば間違いなく、この彼こそが魔王を一人で討伐した最大の功労者……勇者と呼ばれた英雄ですわ!」


「えぇ……あぁ……はぁ……」



 インテルフィがここまではっきり肯定してくれたというのに、ゲダヨ副団長さんは白けた表情と曖昧な言葉で濁すのみだ。


 やれやれ、伝説的な扱いとなっている勇者がまさかこんなにも若くて、しかも戦いとは無縁そうな上品さまで兼ね備えた美青年だなんて思ってなかったんだろう。ふぅ、オッサンってのは頭が固くて困るねぇ。



「ところで副団長様、魔道士団長が魔物に拐われたそうですわね。その時のことを詳しくお伺いしたいのです」


「お、お助けくださるのですか!?」



 インテルフィに声をかけられると、ゲダヨ副団長はうってかわって重い瞼の下から瞳を輝かせた。ふんだ、俺の方が背が高くてカッコ良いからって無視するとか感じ悪ーい。



「では、状況をお話しします。現場を目撃した私にも、相手が何者か、わかりかねておるのです……」



 そう前置きしたゲダヨ副団長に促され、俺達は室内の応接セットに腰掛けて話を聞かせていただくことにした。

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