ヘイオ町〜VS.ドワアホな魔道士副団長〜

勇者、おならなんてしま屁ん!


 ラクスとパンテーヌが暮らしているという町に到着したのは、既に日が傾きかけた頃だった。


 あの後、俺が皆を置き去りにして突っ走ったせいで一人迷子になったり、俺が手を滑らせて手押し車を谷に落としたり、俺がそれを拾いに行ってまた遭難したり、俺がその間に見付けた適当な木の実を食べてお腹を壊したりと様々なアクシデントに見舞われた結果、こんなに時間がかかってしまった。しかし森を迂回するルートで俺の家まで来たラクスとパンテーヌは、丸二日かかったというからこれでもまだ早い方らしい。


 襲い来る腹痛と吐き気でまともに歩けず、またもや運搬される側となっていた俺は、インテルフィに声をかけられて目を覚ました。食あたりで激しく体力を消耗したせいで、いつのまにか眠ってしまっていたようだ。


 手押し車の荷台から辺りの様子を見渡すと、俺の口から思わず溜息が漏れた。想像以上に美しい町の風景が広がっていたからだ。


 この町は石を使った施工技術に長けているとのことで、建物はどれも様々な種類の石を組み上げて作られている。町全体の景観を壊さないよう、デザインする際にしっかりと計算されているらしく、夕焼けに照らされた町の姿はまるで絵本の世界みたいに幻想的だった。


 俺の実家があるコレデモ村は論外として、女の子との出会いを求めてよく出かけていた近隣のアヤ町はここ以上に人と活気に満ちていた。しかしこのヘイオ町は都会的というより芸術的な雰囲気の町並みで、流行り物が集まる話題のスポットとはまた違った趣深さがある。


 飲まず食わず寝ず休まずでも平気なインテルフィはさておき、ラクスとパンテーヌはひどく疲労しているようで、途中からほとんど口を開かなくなっていた。往路に二日、復路に半日以上、ほとんど不眠不休で歩いているんだから、疲れているに決まっている。もちろん心優しい俺様は、何度か荷台を代わろうと申し出たよ。なのに彼女達は首を横に振って辞去したんだ。俺が腹を下している最中、我慢できずに荷台の中でプゥとやらかしたことを気にしているようでな。


 か、勘違いしないでよね! あ、あれはおならじゃなくてお腹の音なんだからねっ!? ギリギリだったけど、漏らしてもないし!


 しかしラクスとパンテーヌは町に到着しても休もうとせず、その前に行かねばならない場所があると言い、俺の乗った手押し車を押すインテルフィを先導した。


 彼女達に連れられたのは、円柱に王冠を被せたような形をした大きな塔だった。



「ここは我々、ヘイオ町認定魔道士団が務める魔道庁舎です。宿舎も裏にあって、私達はここで寝泊まりしています」



 パンテーヌがまず説明してくれる。



「インテルフィ様。町に着いて早々、お手数をおかけして申し訳ございませんが、ここでまず唯一の目撃者である魔道士副団長にお会いしていただいて構いませんか? エージは黙ってろ、いいな?」



 語尾を言い終えると、ラクスはじろりと俺に睨みを利かせた。ひどいや、インテル贔屓のエージ差別だ!



「わかりましたわ。ではその方にご挨拶して、魔道士団長様が拐われた際の状況をお聞かせいただきましょう」



 インテルフィの言葉に二人は頷き、俺達を庁舎の内部へと導いた。

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