ラストダンス② 10

識暉の叫びと蹴りが一閃した。


【ダイスロール】

《識暉|古武道 達成値80》

《達成値80 → 79 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 6+6+3= 15》

《盟|かばう 達成値??》

《達成値?? → 67 成功》

《ショゴスによるダメージ軽減 15 → 5》

《盟 HP?? → ??》


 攻撃を受けた盟の体が大きくのけぞり、セミロングの髪が宙に広がった。

 この瞬間を見逃さない。

 盟に魔術を差し込んでいく。


【ダイスロール】

《紗儚 精神の従属 賢者の石により詠唱を省略》

《盟|魔術への対抗判定 達成値60》

《達成値60 → 07 成功》


「まだ!」絶叫にも近い声で盟は魔術を耐えた。

「まだっ!」


 盟の裂帛れっぱくと共に、ショゴスが変化を起こした。

 3本の禍々しい触手、その先端に切れ込みが入り、

 糸を引きながら3つに裂かれていく。

 合計9本。

 盟の方は、なんとか人の形を保ってはいるが、

 そのほとんどがショゴスに侵食されている。

 体は黒ずみ、体全体が不気味な脈動をしている。

 見開かれた目は左右非対称で、赤く発光している。


「テケリ・リ!!」


 叫び声とともに、9本の触手が暴れまわった。


【ダイスロール】

《ショゴス 触手:25 → 41 失敗》

《ショゴス 触手:25 → 36 失敗》

《ショゴス 触手:25 → 51 失敗》

《ショゴス 触手:25 → 53 失敗》

《ショゴス 触手:25 → 31 失敗》

《ショゴス 触手:25 → 82 失敗》

《ショゴス 触手:25 → 14 成功》

《ショゴス 触手:25 → 02 大成功クリティカル

《ショゴス 触手:25 → 40 失敗》

《ダメージ 1D20 → 4 対象1D2 → 1 識暉》

大成功クリティカルの恩恵 1D20 → 2D20》

《ダメージ 2D20 → 10+13=23 対象1D2 → 2 紗儚》


 暴れる動く触手は、狂ったように暴れまわる。

 周囲の物をただただ破壊していく。

 その中の一本が、識暉に向かっていった。


【ダイスロール】

《識暉|回避 達成値60》

《達成値 → 85 失敗》

《識暉 HP13 → 9》


 巨大な鞭のような一撃に識暉の体が揺れる。


「識暉!」

「っ大丈夫!」


 識暉の返事にほっとする。

 安心の吐息を吐いた。

 その瞬間。

 視界の端。

 触手の一本が薙ぎ払うように伸びてきていた。


【ダイスロール】

《紗儚|回避 達成値10》

《達成値10 → ――》


 それを視認した瞬間、全てがゆっくり動いた。

 大樹のように大きく太い触手。

 それが、真っ直ぐにこちらに向かってくる。


――アレに当たったら死んじゃうな。


 そんなふわふわしたことしか考えられなかった。

 圧倒的な質量は私から思考を奪った。

 ただ立ち尽くす私に、識暉の声が聞こえた。


――紗儚!


 その声は思考よりも先に、体を動かした。


【ダイスロール】

《達成値10+30(識暉の呼び掛けによる補正) → 17 成功》



 触手の攻撃を体を沈めて躱す。

 巨大な質量が風を切りながら、僅か上を通り過ぎて行った。


「紗儚!」

「大丈夫よ」


 識暉と目を合わせて、意志を通わせる。


――長期戦は不利。次が最後。全力をぶつける。

――分かった。


 互いに頷く。

 声を重ねる。


「「!」」


【ダイスロール】

《識暉|古武道 達成値60》

《達成値60 → 15 両方成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 5+5+4= 14》

《盟|かばう 達成値??》

《達成値?? → 39 成功》

《ショゴスによるダメージ軽減 14 → 4》

《盟 HP?? → ??》


 度重なる識暉の攻撃に、盟はとうとう膝をついた。

 血のような黒い雫が一滴それからまた一滴。床で跳ねた。

 それでもまだ、赤い目は意志を剥き出しにしてこちらを見ている。

 その意志に、直接魔術を流し込む。


【ダイスロール】

《紗儚 精神の従属 賢者の石により詠唱を省略》

《盟|精神対抗ロール 達成値60》

《達成値60 → 86 失敗》


「―――――――っ!」

 それは慟哭だった。

 盟の泣き叫ぶような雄叫びは、すぐに事切れるように終わった。

 9本の触手は枯れるように萎びて、それから音を立てて液体に変わった。

 盟は人の形に戻り、そのまま支えを失ったように倒れた。

 それでやっと、勝ちを確信した。


「先生!」

「分かった」


 声と共に、近くの壁に黒い穴が開き、広がった。


「外に通じている。全員運び出してくれ!」

「はい」


 そう答えた後に、識暉に言った。


「識暉は春さん達をお願い」

「分かった。紗儚は?」

「私は、」


 戦闘は終わった。

 でも、まだ決着を付けなければいけいない人が、一人いる。


「――蛇穴先生と話をする」

「大丈夫?」

「大丈夫。先生は攻撃はしてこない。もしやるなら、もっと前に動いてるはずだから」

「分かった。オレも注意しておくけど、危なくなったら言って」


 そう言うと識暉は、倒れている盟の元に駆け寄って行った。

 私も蛇穴先生の前に歩いていく。

 蛇穴先生は私を見て小さく笑った。

 それから、ポケットから煙草の箱を取り出す。


「煙、大丈夫か」

「はい」


 一本取り出して口にくわえ、ライターで火をつけた。


「魔術じゃなくて、ライターで火をつけるんですね」


 そんなどうでも良いことを聞いて見た。


「ああ、魔術は得意じゃないんでね」


 嘘つけ。

 盟に魔術を教えたのは、先生だったはずだ。

 私の考えていたことが分かったのか、

 蛇穴先生は悪戯気に口の端をあげた。

 それは先輩が後輩にするような、親しみのある仕草だった。


「神宮寺」


 その言葉に「はい」を返す。


「よくやった」


【ダイスロール】

《紗儚|アイデア 達成値75》

《達成値75 → 10 成功》


 先生の言葉の意味は、なんとなく分かった。


「コレも、先生の思惑通りなんですね。決断できない樸生先生を動かし、天音さんを苦しみから救う。蛇穴先生は天音さんと情死を遂げる。それが先生の描いた青写真です。その目的が、こうして達成される。違いますか?」


 その言葉に、先生は鼻を鳴らした。


「独り勝ちか。だったら、神宮寺。俺は誰に勝った?」

「私達全員にです。先生以外は、誰ひとり思い通りにならなかった。違いますか?」


 先生は笑みを浮かべながら言った。


「俺はそうは思わない。勝者なんていないよ。ただそれぞれの想いがあっただけだ。それを勝ち負けなんて極端な二元論で片付けてくれるなよ」


 そう言った後に、自嘲するかのように鼻で笑った。


「でもまぁ、たった一人だけ。あいつにだけは勝ちたかったな」

「誰に、ですか?」

「二ャルさ。まぁいい。それは瑣末なことだ。さて、そろそろ時間だ」


 話はおしまい。そんな言いぐさだった。

 こっちからはもっと聞きたいことがあるのに。


「勝者はいない。でも、功労者なら間違いなく、そこにいる」


 蛇穴先生はそういって視線を向けた。

 その先には、ボロボロになった盟がいた。

 顔や腕や足。身体中が液体のようになって崩れていた。

 立つ力もないのか、這うようにして、こちらに向かってくる。

 そんな盟の元に蛇穴先生は歩み寄り、そして抱き抱えた。


「こんなにボロボロになって、それでも盟はやりとげた」

「――あ――り――が、と――ざ――」


 消え入りそうな掠れた声。

 でもそこには確かに盟の意思があった。


「神宮寺。悪いが後は頼んだ。もう後始末は飽きた。最後くらい楽をさせてくれ」


 その言葉の意味は分からなかった。

 そして、目の目の光景も。

 盟は崩れかけた腕を触手に変え、蛇穴先生を刺した。

 蛇穴先生の体が細かく震える。内側からショゴスに侵食されているのがわかった。

 侵食が終わると、蛇穴先生と盟は溶けて黒い液体になった。

 その液体は、ゆっくりと人の形になり、そこから盟が現れた。


「どういうこと?」


 その声に、盟は顔をあげた。

 その表情は穏やかでありながら、同時に陶然とうぜんとしていた。


「驚かせてすみません。これは蛇穴先生から私への報酬です。

 ここに来る前に、先生は仰有ってくれました。『心はもう無い、だから体を渡す』。

 この結果は可能性のひとつでした。もしも、樸生先生が天音さんを焼尽くしていたら、この結果はありませんでした。だから私は、初めて神に祈りました。

 そうして、実際にそうなった。

 先生の目的は天音さんの解放でした。そして、もうひとつ。天音さんのそばにいてあげることでした。私の中には天音さんがいます。そして今は先生も。

 先生は、目的を達成しました。そして私も」


 盟の笑顔は、きれいだった。

 純粋な笑顔だった。


「長かったです。でも、短かったのかもしれません。

 困りました。嬉しくて。それ以外はよくわかりません」


 初めて盟を羨ましく思った。

 想いを遂げたのだから。

 だから私は、少し悔しかった。言葉にホンの少し刺が出る。


「幸せそうでなによりね。水を指して悪いけれども、すぐに立ち上がってもらえるかしら。一緒に、ここから出るわよ」


 盟は首を横に振った。


「私たちはここに残ります。それが人間としての意思です。今でこそ蛇穴先生の魔術で制御できていますが、それも長くは続きません。だから、私たちはここに残ります。幸せなまま、終わりにさせてください」


 盟の言っていることはなんとなく理解できた。

 同時に、どうしようもないことも、分かった。

 でもこのまま引き下がるなんてできなかった。

 だから私は。


「盟、知ってる? 私、実は。負けるのが大っ嫌いなの」


 盟の目は、存じております、と言っている。


「だから、このまま引き下がれない。最後に、貴女と勝負がしたい。

 私が勝ったら、一緒にココから出る。

 私が負けたら、素直に盟の勝ちを認める。

 そうでもしないと、私は納得できない」

「酔狂ですね。でも、よくわかります。私も紗儚さんに負けたくはなかったですから。では、どんな勝負を?」

「ジャンケンよ」


 その言葉に盟は、初めて少女のように笑った。


「それは良い余興です。ジャンケンなんて何年振りでしょうか」

「文句なし、一回きりの勝負。いいわね」

「ええ。。全力でお相手致します」


 出す手は決めていた。

 この手で勝ちたかった。

 盟も、魔術を使ったりしてくる様子はなかった。

 小細工なしのジャンケン勝負。

 それで勝負を決める。


「「――ジャン、――ケン」」


【ダイスロール】

《紗儚|幸運 達成値05》

《達成値05 → 》

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