ラストダンス①

 識暉は床を蹴って弓のように真っ直ぐに、蛇穴先生に向かって飛び出して行った。


【ダイスロール】

《識暉|古武道 達成値80》

《達成値80 → 12 成功》

《ダメージ 2D3+1D4 → 2+2+2= 6》

《盟|かばう 達成値??》

《達成値?? → 29 成功》

《ショゴスによるダメージ軽減 6 → 0》


 識暉の拳が蛇穴先生に向かい伸びて行った。

 その間に割り込むように、盟が入る。

 識暉の拳を左腕のショゴスで受ける。

 ショゴスは大きく撓んだが、

 それで威力を全て殺してしまったようだった。


「どけよ、紫月!」

「どきません。蛇穴先生にはこれ以上近づけさせません」

「じゃあ、お前をぶっ飛ばして、それから先生もぶっ飛ばす」


【ダイスロール】

《識暉|古武道 達成値80》

《達成値80 → 31 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 3+6+4= 13》

《盟|かばう 達成値??》

《達成値?? → 22 成功》

《ショゴスによるダメージ軽減 13 → 3》

《盟 HP ?? → ??》


 識暉の一撃は杭打機から放たれた杭のようだった。

 直撃したら防御の上からでもダメージがあるだろう攻撃を、盟は正面から受け止めた。

 盟の体がかしいだが、それでも踏みとどまり耐えてしまった。


「こんなものですか」


 盟の笑顔。

 それは耐えられたという自信をのぞかせている。

 識暉は鼻を鳴らして。


「邪魔をするなら、盟も一緒にぶっ飛ばす!」

「やってみなさい。できるのなら」


 そう言って、四指を内側に二度曲げ、挑発する。

 識暉は三度目の突進を行った。

 その識暉と盟の攻防から、私は視線を、樸生先生に移した。

 目を俯け、歯を食いしばり、小さく震えている。

 「先生」そう言って、先生の前に立った。


「炎神を召喚してください」

「……できない」

「このままだと、あの子達がショゴスになっちゃいます!」

「でも、炎神を呼び出せば、きっと仁も殺してしまう。炎神は二ャルに関わったものを許さない。そんなこと、できない」

「でもこのままじゃ!」吠えるような声。


 苛立ちがつのっていく。

 それでも樸生先生は、泣いてしまいそうに顔を歪めながら言った。


「……紗儚は、その手で識暉を殺せるか?」


 先生の一言は、苛立ちを泡のように消してしまった。


「私にとっては、仁や天音のいない世界なんて意味がない。でも、子供たちを見捨てることもできない。どちらを選んでも、私には耐えられない。

 ……それに。

 どちらかに目を瞑って、選ぼうとしてもダメななんだ。不定の狂気が許してくれない。

 頭が真っ白になって息ができなくなる。私は結局、何もできないんだ」


 樸生先生は瞼を手で覆い、宙を見上げた。

 それから引きつったように荒い息をし始めた。

 戦っていたんだ。

 先生は、先生のやり方で。

 そして今も、絶対に勝ち目の無い不定の狂気と、戦っている。

 暗闇に置き去りにされた子供のように。

 震えながら。

 泣きながら。

 祈りながら。

 先生は不定の狂気と戦っている。

 そんな先生を、もう責めることは出来ない。


――こんな時に、識暉なら。

  きっと手を差し伸ばすのだろうな。


 そう、思った。


「私が選びます。私が炎神を召喚します」


 その声に、樸生先生の嗚咽が止まった。


「始めからそうだったじゃないですか。先生にはできないから、私を使ったんですよね。だったら、私が選んでも文句は無いですね」

「そんなことしたら、紗儚が」

「責任を負う、ですか? 別に良いですよ。私だって17いいとしなんですから、その位背負えます。そもそもは先生がポンコツなのがいけないんです。だったら最後は、優秀な生徒に任せればいいじゃないですか」


 先生は何かを言おうとした。

 それは、喘息のようなきれぎれで、掠れた音にしかならなかった。


「いいですよ。どんな言葉も今はいらない。先生のやることは決断じゃない。ただ祈っていてくれればいい。それ以外のことは、全部終わった後に聞きます」


 先生は、なおも何かを言おうとした。

 でもその言葉を、ギリと噛み砕き、それから。

 「……二つだ」そう言った。


「盟を大人しくさせること。

 炎神を召喚すること。

 その二つだけでいい。

 盟を大人しくさせたら、私が、《門の創造》で脱出路を作る。

 そこから退避してくれ」

「分かりました。召喚の方は?」

「コレを使え」


 そう言って、車のキーを投げ渡した。

 そこには琥珀のアクセサリが付いている。


「賢者の石だ。魔術の詠唱を省略できる。それがあれば、炎神を召喚できる。それに、魔術のサポートがあれば盟を大人しくさせられる。貸してやる。存分に使って来い」


 私は頷き、識暉の元に走った。


 状況は良くなかった。

 何度も応酬があったのだろう。

 識暉の呼吸は少し乱れている。

 対して盟は笑みを浮かべる余裕があった。

 識暉の隣に並んだ私に、識暉は戦況を教えてくれる。


「あのショゴス、厄介だ。ゴムタイヤみたいに、力をうまく吸収されている。それにダメージも通しても、回復してるっぽい。オレ一人では時間がかかるかも」

「だから私が来たんでしょ」


 その言葉に真剣な眼差しのまま口元に笑みを浮かべた。


「紗儚大好き」

「はいはい私も大好き」

「なんかやる気出てきた」

「二人で行くわよ」


 識暉は「うん」と言って飛び出して行く。

 弾丸のように真っ直ぐな識暉を、魔術でサポートする。


【ダイスロール】

《識暉|古武道 達成値80》

《達成値80 → 6 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 1+4+2= 7》

《盟|かばう 達成値??》

《達成値?? → 91 成功》

《ショゴスによるダメージ軽減 7 → 0》


 識暉の攻撃を防いだ直後。

 防御に意識を裂いているその瞬間に、魔術を発動させる。


「大人しくなさい!」


【ダイスロール】

《紗儚|精神の従属 賢者の石により成功判定を省略》

《盟|精神対抗ロール 達成値60》

《達成値60 → 28 成功》


 盟の精神に直接、魔術を流し込む。

 それでも盟は、それを耐えた。


「そんなものに、負けない!」


 意志は言葉に、言葉は変化になった。

 盟の左腕のショゴスが蠢きながら肥大化し、三つの触手になった。

 その触手は、暴れ狂いながら周囲を薙ぎ払う。


【ダイスロール】

《ショゴス|触手 達成値25》

《達成値25 → 78 失敗》

《ショゴス|触手 達成値25》

《達成値25 → 65 失敗》

《ショゴス|触手 達成値25》

《達成値25 → 93 失敗》


 触手の攻撃は、壁や床を削り取った。

 当たればただではすまない。

 でも、盟は触手を制御しきれていないようだった。

 暴れ狂う触手は一本たりとも当たりはしなかった。


「もう一回!」


 識暉の気合いは叫びになり、鋭い蹴りが放たれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る