ー幕間ー

終わりの始まり

 襲い掛かる三本の触手ショゴスを《肉体の保護》で防ながら、《魔術の刃》で切り落としていく。

 それでも攻撃は止まらない。

 切り落とされた触手は直ぐに再生し、また襲いかかってくる。

 宿主の盟が、なまじ魔力を持っているせいか、再生速度が速い。


「切ったそばから直ぐ生えやがって」


 このまま防ぐことはできる。

 でもそれでは、いつか魔力は底をつく。

 このままではジリ貧なのは目に見えていた。

 額に玉汗が浮かぶのがわかった。

 魔術の連続使用は、肉体と精神の両方を酷使した。

 20を超える魔術の使用で、体の方が確実に限界に近づいている。

 それでも、なんだろう。楽しくなってくる。

 昔からそうだった。こんな、絶対的に不利な状況が嫌いじゃなかった。

 楽しさに口許が歪む。

 撃ち漏らした触手の一本が、《肉体の保護》を貫通してきた。


【ダイスロール】

《ショゴス|触手 達成値25》

《達成値25 → 12 成功》

《ダメージ 1D20 19》

《静 ダメージ軽減 19 → 0》

《静 HP 13 → 13》


 怖い怖い。

 ダメージは軽減できる。例え即死級の攻撃でも、《肉体の保護》で軽減できる内は全く問題ない。

 問題は、攻撃が届いたことだ。

 だんだんに押し込められている。

 迫りくる触手を切り落とし続ける。

 物量で押し寄せてくる触手は、《魔力の刃》をかいくぐって、また一つ届く。


【ダイスロール】

《ショゴス|触手 達成値25》

《達成値25 → 19 成功》

《ダメージ 1D20 9》

《ダメージ軽減 9 → 5》

《静 HP 12 → 8》


「っ!」


 意識ごと吹き飛ばされるような衝撃に、肺から空気が漏れでる。

 《肉体の保護》が切れた。

 あはは、と乾いた笑いが出る。

 触手は畳み掛けるように襲ってくる。

 チェックメイト。

 そんな言葉が頭を過った。


【ダイスロール】

《仁|???? 自動成功》


 不意に、触手の動きが止まる。

 そのまま萎びる様に、地面にへたり込む。

 今まで暴れていたのが嘘のように動かなくなった。

 いつの間にか屋上には、黒いコートを着た男が一人、立っていた。

 安堵に、笑みがこぼれる。

 それから、黒いコートの男、蛇穴さらぎじんに言った。


「遅いよ、この遅刻魔」

「重要人物は最初か最後に登場することになってるからな」

「自分で重要人物とは」


 良く言えたものだな。

 言葉をつづける代わりに、仁に拳をつきだした。

 仁は拳を甘んじて受けた。


「ありがとよ、仁」

「礼はいらない、行動で示してくれ」


 そう言って周囲を一瞥した。


「片付けは俺がやる。後は任せろ」

「盟は大丈夫なのか?」

「髄まで浸食されているのは左腕だけだ。切り落とせば問題ない」

「簡単に切るなんて言うなよ。他に方法はないのか?」

「魔力で抑え込むことはできるがな、暴走するリスクがある。そんな危険な状態で野放しにはできないだろ」


「そうか」と呟いた。

それから、誰にでもなく「悪かった」と呟いた。

「行けよ」仁はそう言って、背を向けた。


「お前のすることは、ここに突っ立て後悔する事じゃない。二人を連れ帰って、覚悟を決めることだ」


 その言葉は、私には深く刺さる。思わず歯噛みをするくらいに。

 でも、そうしていても、なにも変わらない。

 なにがあっても私は、私に出来ることしか出来ない。

 倒れている紗儚と識暉の元に歩いていく。

 紗儚の頬に手を添えて、軽く打った。


「起きろよ、紗儚」


 その声に、紗儚は「んん」と声をあげて、目を覚ます。

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