ー幕間ー

一人とひとりと1人と独り

 放課後の教室だった。

 日は沈み、赤から藍へと色を変えていた。

 暗くなり始めた教室に、三人の少女がいた。

 一人は乾識暉。マネキンのように動かない。

 ひとりは神宮寺紗儚。床に倒れ、虚ろな目で震えながら「あ」と「う」を呻く。

 その場で動けたのはただ1人、紫月盟。

 ボロボロの体を壁に預けて、何とか立っているありさまだった。

 その少女は口の端をあげている。

 小さな目標を達成したような、小さな満足を湛えた笑みだった。

 そんな異様な空間に、独り、扉を開けて入って来た。

 その人物を見て、少女は言った。


「先生」


 先生。

 そう呼ばれた人物は、少女を一瞥だけした。

 すぐに床に倒れた少女に視線を向けた。

 その場に屈み込み、虚ろな目で震えている少女の目を見た。

 盟は、その人物に告げた。


「神の直視を行いました。恐らくですが発狂したと思います。言われた通り《記憶を忘却させる》魔術を施しました。これで失われる正気度を軽減できたはずです。発作も治まって来ました。直に目を覚ますと思います」


 その言葉に、静かに頷く。


「でも、どうしてこんなことを?」

紗儚こいつには魔術を扱う才能がある」


 そう言って盟を見た「お前と同じだ」

 それから盟の頭に手をのせる。

 その行為に盟は言い様の無い幸福を感じた。それで十分満たされた。

 それを確認すると、その人物は教室を出た。

 盟はその後を追うように、教室を出た。


 残されたのは二人。

 識暉は糸が切られたように崩れた。

 紗儚の呻き声は止み、目に光が戻って来ていた。

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