戦闘④ 決戦《希望と絶望》

 少しずつ焦りを感じ始めた。


(このままじゃ。でも、何ができる?)


 何もできず、不安だけが募っていく。

 そんな私とは対照的に、識暉は澱むことなく動き続け、攻撃の手を緩めなかった。ただやみくもに攻撃をしているのではない。

 緩急をつけながら、行動を読まれないように工夫している。

 その攻撃は全て、盟には届いていない。

 でも、無駄ではなかった。

 識暉の執拗な攻撃に、盟の様子にほころびが出た。


「何度やっても同じです。乾さんの攻撃は届きません。無駄です」


【ダイスロール】

《紗儚|盟の心中を読み取る:達成値80-50(対象者からの抵抗補正)》

《達成値30 → 12 成功》


 その余裕のある言葉と態度とは裏腹に、

 心中には焦りの影があるように感じた。


「無駄? 今までは間接的だったのに。急に直接的な言い方になったわね。まるで『止めてくれ』って言っているみたい。どうしてかしら?」


 その言葉に盟がこちらに、鋭い視線を向けた。


【ダイスロール】

《盟|紗儚の心中を読み取る:達成値??(達成値は公開されない)》

《達成値??  → ??(結果は公開されない)》 


 何をしようとしているのか、瞬間的に理解した。

 盟は私の心を読み取ろうとしている。


【ダイスロール】

《紗儚|抵抗ロール:達成値??(達成値は不明)》

《達成値?? → 62 失敗》


 蛇のような視線が、私を通り抜けて行った。

 それから盟の目に納得が浮かぶ。


「そうですか」盟の声は笑っていた。

「樸生先生、ですか」


 読み取られてしまった。

 予定外のことに、緊張が強まっていく。

 なにより悪いのが『どこまで読み取られてしまったのか』

 それが分からないことだ。

 まだ勝機があるのか、それとも全て見通されてしまったのか。


「紗儚っ!」


 不意の声に視線が思考から現実に引き戻される。

 識暉は盟に向かって蹴りを放った。

 依然攻撃の手を緩めない。

 でもその目的はさっきとは違うことが分かった。


(攻撃を続ける。盟の対応の仕方を判断材料にしてくれ)


 識暉の背中はそう言っている。

 その識暉の行動が状況を動かした。


【ダイスロール】

《識暉|古武道:達成値80》

《達成値80 → 76 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 2+2+4=8》

《盟 ダメージ軽減 8 → 0 累積軽減数73》

《識暉|古武道からの連撃:達成値70》

《達成値70 → 10 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 4+4+4=12》

《盟|ダメージ軽減 12 → 2 累積軽減数85》

《『肉体の保護』の消失》

《盟|HP:?? → ??》


 識暉の蹴りが初めて盟に届いた。

 威力こそ弱められ殆どダメージは無かった、それでも盟に攻撃が届いた意味は大きかった。攻撃し続ければいつかはダメージが通る。その事実は暗闇のなかに見えた光だった。


「やっと当たるようになったな」


 盟の顔には驚きの色が浮かんでいる。

 それから、溜め息をついて言った。


「非常識な人ですね。トラックの正面衝突を3回は防げる壁でしたのに。やはり、乾さんの武力は非常識です」

「それを言うなら、お前の魔術だって非常識だろ」

「そうかもしれませんね」


 そう言って、内ポケットから琥珀色の石を取り出した。

 《愚者の石》の石だ。

 《愚者の石》は明滅し、それから光を失った。


【ダイスロール】

 《盟|肉体の保護:24D6 → ??》


「残念ですが魔術を掛け直しました。もう一度最初から、ですね」


 状況は良くない。壁は新しく張られてしまった。

 あの苛烈な攻撃を、もう一度やらないといけない。今度は盟も黙って受けるようなことはしないだろう。さっきのようにはいかない。

 でも盟の言葉に、思わず口の端があがってしまう。

 識暉の策は成功した。

 盟は魔術を掛け直し、それを宣言した。

 自分の優位を宣言して戦意を削ぐつもりだったのだろう。

 でも、それが余計なひと言になった。

 盟はこちらの《解呪》の存在を知らない。


「識暉」

「任せろ」


 識暉の前進に合わせて、《愚者の石》を取り出した。

 それからタイミングを見て、使用する。

 《愚者の石》が明滅をして、光を失う。


【ダイスロール】

《紗儚|愚者の石の使用:成功判定は省略される》

《盟の《肉体の保護》は無効化》

《識暉|古武道:達成値80》

《達成値80 → 74 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 3+2+3=8》

《盟|回避:?? → 25 失敗》

《盟|HP:?? → ??》


 識暉の攻撃は盟の体を捕えた。

 蹴りが直撃した盟は、吹き飛ばされて床を転がった。

 壁に強かにぶつかって、そこでやっと止まった。

 だらりと脱力して動かない。


「随分派手にやったけど、大丈夫なの?」

「命に係わる所は狙ってないから大丈夫。気絶したかもだけど」


 識暉の言葉に応えるように


「……大丈夫、ですよ」


 そう言って、盟は顔を挙げた。

 唇が切れたのだろうか、血が流れている。

 その血を舐め取って、盟は笑った。

 その異様な光景に、一瞬気圧された。


 「まだ終わりじゃありません」


 盟はそう言って、内ポケットに手を入れた。

 そうして《愚者の石》を取り出す。

【ダイスロール】

《盟|肉体の保護:24D6 → ??》


「準備というものは大切ですね。想定の中での最悪。それがこうして実際に起こってしまう。ですが、幸運でした。想定は出来ていたのですから」

「何を言ってるんだよ。そのダメージじゃ、もうろくに動けもしないだろ。諦めろよ。オレ達の勝ちだ」

「そちらこそ」盟の声は不敵ほどよく響いた。

「何を言っているんですか? 小瓶はまだ、私の手の中です。これのどこが、お二人の勝利だと?」

「減らず口をっ」


【ダイスロール】

《識暉|気絶目的の打撃:達成値80》

《達成値80 → 24 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 6+6+4=16》

《盟|回避:達成値??》

《達成値?? → 59 失敗》

《盟 ダメージ軽減 16 → 0 累積軽減数16》


 識暉の蹴りを、体を丸め床を転がるように避けようとした。でも、それで回避しきれるわけがなかった。識暉の攻撃は盟の体に届かなかった。でも、確実に肉体の保護を削り取っている。もう勝負の結果は見えた。


「もういいだろ。結果は見えた。これ以上盟を傷つけたくはないんだ。だから大人しく小瓶を渡してくれ」

「欲しかったら」盟はボロボロの体を無理やり立たせた。

「この手から奪えばいい」


【ダイスロール】

《紗儚|漠然とした違和感:達成値80》

《達成値80 → ??》


 盟の言葉は維持や虚勢では無いように感じた。

 盟は諦めていない。

 手負いの獣のように、虎視眈々とその時が来るのを待っている。

 何かある。直感的にそう感じた。


「識暉。なにか嫌な予感がする。もうこれ以上は長引かせられない」


 《解呪》が入った《愚者の石》はまだ一つだけ残ってる。

 識暉の攻撃のタイミングを見て、盟の魔術をもう一度はがす。

 私の意図を、識暉は汲んでくれた。


「ああ、了解だ」


 識暉はそう言って、飛び出した。


【ダイスロール】

《紗儚|愚者の石の使用:成功判定は省略される》

《盟の《肉体の保護》は無効化》

《識暉|気絶目的の打撃:達成値80》

《達成値80 → 35 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 5+6+4=15》


 識暉の渾身の蹴りが、盟の側頭部を捉えた。

 その識暉の足を、盟の右手がぴたりと止めていた。


「そう来ると、思っていました」


 盟以外の時間が止まったように、識暉はピクリとも動かない。


「賭けでした。乾さんが本気で攻撃する時は全て頭部狙い。でも、それが全て見せ技である可能性もありましたから。ですが、賭けには勝ったみたいです」


 盟が識暉の足から手を外す。

 その手には《愚者の石》があった。


「《肉体の保護》は肉体以外のモノにも掛けることが出来ます。《愚者の石》自体に《肉体の保護》をかけました。警戒されない最初の一度きり。ですが確実に一回は乾さんの攻撃を防ぐことが出来ます。そして同時に、この魔術の射程圏内に捉えることができます」


 識暉は少しの動きも見せない。

 その状態に嫌な心当たりがあった。


「お気づきになられたみたいですね。乾さんには《肉体の拘束》をかけました。これでもう動くことは出来ません。もし仮に、紗儚さんにはまだ攻撃する手段が残っていたとしても」


 盟は折り畳みナイフを取り出して、識暉の首筋に切っ先を付けた。


「お分かりですね」盟は笑顔を浮かべて言った。

「これでチェックメイトです」

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