戦闘③ 決戦《終わりを始めましょう》

 夕日は教室を赤く染めていた。

 夕日の赤。影の黒。

 そのコントラストは、教室の奥に佇む盟を景色から切り出している。


「お待ちしていました」


 盟はそう言って微笑んだ。

 識暉が鼻を鳴らして返す。


「まるで、来るのがわかっていたみたいな言い方だな」

「分かりはしませんでした。でも、想定はしていました。私は強くありません。だから予め、考えられる全ての場面を想定しておくのです」


 盟はそう言って立ち上がった。


「全てを想定して全てに対応する。それでさえ、予期せぬことが起こる。それが私の普通なんです。今だって考えています。どんな予想外の出来事が起こるのか、その時に私は何ができるのか。勝つ、ということはそういうことです」

「大変そうだな」

「そうしなければ、望むものは手に入りませんから」


 識暉は、やれやれと肩を竦める。


「残念だな。悪役は最後には負けることになってる。痛い目見たくなかったら、今ここで諦めろ」


 識暉は拳を握り込み指を鳴らした。

 盟は静かに笑った。


「それは無理なお話です。お二人には私の意志を折ることは出来ません。それに、私を止めることも」

「随分と自信があるんだな」

「ええ。そう思える程に、準備をしていますから。策は十重二十重に巡らせて初めて功を奏します。幾つかを回避できたところで、いずれは絡め捕られます。

 いいえ、これは余計なお喋りでしたね。お二人は私から小瓶を奪って壊せばいい。私たちはお二人を退ければ良い。要はそれだけです」


 盟はそう言うと指を鳴らした。


「魔術で、この場所を空間的に遮断しました。今朝のように大声を出しても、もう聞こえません。好きなだけ暴れて、好きなだけ悲鳴をあげて下さい」

「その言葉、そっくり返すぜっ!」


 言うなり、識暉は身体を前に倒した。

 床を蹴った識暉の体は矢のように飛んでいき、一呼吸の間もなく、盟との距離をつめた。それから迷いなく顎に向かって蹴りを放った。

 昏倒狙いの、手加減の無い蹴りだった。


【ダイスロール】

《識暉|古武道:達成値80》

《達成値80 → 71 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 6+1+3=10》

《盟|ダメージ軽減 10 → 0 累積軽減数10》


 盟は識暉の蹴りを、避けなかった。

 識暉の蹴りは、盟の体の直前で止められている。

 達人級の寸止め。

 でもそれは識暉の意志で止められたものではないようだった。

 識暉は眉をひそめ、盟は攻撃的な笑顔を識暉に向けている。

 瞬間の後、識暉は次の行動に移った。

 体を落として手を床につける。

 腕と体をバネのように縮め、それから一気に伸ばした。

 全身を使った攻撃。その先には盟の体がある。


【ダイスロール】

《識暉|古武道:達成値80》

《達成値80 → 08 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 3+2+3=8》

《盟|ダメージ軽減 8 → 0 累積軽減数18》


 その蹴りは、盟の体の前で止められた。

 識暉は足を畳みながら、その反動を利用して私の横に戻って来た。

 攻撃が2回とも届かなかった。

 識暉の額には珠のような汗が浮かんでいた。


「何があったの?」

「わからない。まわりに分厚い緩衝剤でもあるみたいだ。全然、届いてない」


 盟の方を見て言った。


「お得意の魔術かしら?」

「はい。《肉体の保護》で魔術的な壁を作りました。物理的なダメージは全て防ぎます。乾さんの攻撃は通りません。それでも止めないのはわかっていますが、攻撃は無意味です」


 それを聞いた識暉は視線をこちらに向けた。


(このまま攻撃を続けて見ても良いか?)


 無言にそう言っている。

 識暉は多分、感覚的にその方が良いと感じたんだろう。

 ならば私は、識暉の感覚を信じる。

 識暉は再び、盟に向かって飛び出した。


【ダイスロール】

《識暉|古武道:達成値80》

《達成値80 → 79 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 3+1+1=5》

《盟|ダメージ軽減 5 → 0 累積軽減数23》

《識暉|古武道からの連撃:達成値70》

《達成値70 → 32 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 2+2+4=8》

《盟|ダメージ軽減 8 → 0 累積軽減数31》


 腹部から頭部への連撃

 全て、すんで止められてしまい、盟の体には届かなかった。

 盟は身じろぎひとつなく、立っている。


「この通り。全て無駄です」


【ダイスロール】

《紗儚|発言の真偽を見極める:達成値80》

《達成値80 → 21 成功》


 盟に嘘をついている様子はない。


「嘘ではないみたいね」

「マジか。どうする?」


 私は識暉に肩をすくめてみせた。


「本人に聞いてみたら?」


 冗談のつもりが識暉は本当に「どうしたらいい?」と言った。

 そのやり取りに、盟は笑みを浮かべた。


「どんな攻撃も私には届きません。攻撃手段がなくなれば、勝ちはありません。諦めてください」

「諦めろって言われちゃった」

「でしょうね。いいわ。解決策は私が見つける。識暉は攻撃を続けて」

「あいよっ」


 識暉はそう言って、三度目の攻撃を行った。


【ダイスロール】

《識暉|古武道:達成値80》

《達成値80 → 41 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 2+1+2=5》

《盟 ダメージ軽減 5 → 0 累積軽減数28》

《識暉|古武道からの連撃:達成値70》

《達成値70 → 05 大成功クリティカル

大成功クリティカルによりダメージは最大値になる》

《ダメージ 2D6+1D4 → 6+6+4=16》

《盟|ダメージ軽減16 → 0 累積軽減数44》


 識暉の攻撃は届かない。

 再三の結果に、盟は口元を隠し欠伸する。


「同じことの繰り返し。少し退屈ですね。やられっぱなしもつまりません。今度はこちらからいきます」


 そう言って、長い髪を耳の後ろに梳き流した。

 甘い香りが広がる。


「識暉」

「わかってる」


 口の中に忍ばせておいたタブレットを噛み砕く。

 ミントの爽やかな香り。その後に続く腐った魚のような悪臭。

 あまりの味に、識暉はせき込んだ。


「なんだこれ。ヒドい味」

「何をどうしたらこんな味を作り出せるのかしら」


 その様子を見た盟は、肩を竦めた。


「対策はしてきたというわけですね」

「一度見てるからな、その位はしてくる」さっ。


 語尾よりも先に、識暉は再び突進する。


【ダイスロール】

《識暉|古武道:達成値80》

《達成値80 → 12 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 2+4+4=10》

《盟 ダメージ軽減 10 → 0 累積軽減数54》

《識暉|古武道からの連撃:達成値70》

《達成値70 → 43 成功》

《ダメージ 2D6+1D4 → 5+2+4=11》

《盟|ダメージ軽減 11 → 0 累積軽減数65》


 識暉は攻撃の手をやめない。

 でも、その攻撃はやはり盟には届かない。

 こちらばかりが手の内を見せ続けている。

 これが長く続けば、いつか必ず状況が悪化する。

 少しずつ焦りを感じ始めた。

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