戦闘② 最終局面と準備

 部室棟でシャワーを浴びたあと、私は不調を理由に教室を抜けて、保健室に行った。保健室には識暉もいた。本人曰く「優先順位の問題」だそうだ。識暉を横に置きながら、樸生先生に今朝の事を報告する。


「盟に襲われた?」

「名誉にかけて、まだ襲われてません」

「それは良かったな。いや、悪かったのか」

「最悪です」

「同性にモテるやつは、人としての魅力があるって、誰かが言ってたぞ」

「そんなことを言われても、全然嬉しくありません。先生、人の不幸を楽しんでますね?」

「楽しんでる。どんな事も楽しむんだよ。それがこの世界を生きるコツだ」


 溜め息をついて「先生の御高説、痛み入ります」でも今は。


「聞きたいことがあります」


 先生は「なんだ?」とこちらを見た。


「あの盟の顔を一発ぶん殴ってやりたいんですが、魔術やらが面倒です。何かいい対策はありませんか?」


 稀代の魔女様。と付け加えた。その言葉に先生は眉をひそめた。


「盟がそう言っていたのか?」

「ええ」


 先生は忌々しそうに鼻を鳴らすと「そんなことよりだ」と話を変えた。


「魔術の対策だろ。良策ではないが、あるにはある」

「どうするんですか?」

「まずは香りだな。盟の甘い香りは《睡蓮の香り》と呼ばれる香だ。対象の魔術に対する抵抗力を下げる厄介な道具だからな。そいつをどうにかしたほうが良い。とはいっても、ネタがわれれば大したことは無い。睡蓮の香りよりも強い刺激があれば防げる。ちょうどいいのがあるから、それをやろう」


 先生は、仕事机からタブレットケースを出して渡した。


「次に魔術対策だな。これも今回のケースでならば簡単だ。本来魔術を行使するには詠唱が必要だ。でも紗儚の話では、盟はそれらしい詠唱はしていなかった。だとすれば、盟は魔術工芸品アーティファクトを使っているんだろう。予め魔術を完成させてしまっておく。必要な時に取り出し、行使する。それを可能にするのが《愚者の石》だ。まぁ、一回だけの使い切りなんだがな。盟が魔術工芸品アーティファクトを使っているのなら、こちらもそれで対抗すればいい。魔術を無効化できる《解呪》を入れた《愚者の石》があったはずだから、そいつを持たせてやる」

「効果は一回だけですか?」

「一回で十分だろう。二回目が来る前にケリをつければいいだけの話だ。それに、二束三文で手に入るモノじゃないからな。向こうだってそんなに持ってはいないはずだ。あっても2つか3つぐらいだろう。まあでも、魔術を無効化したあとに識暉の力で勝負をつける。そうすれば数なんて関係ないしな」


 その言葉に、私と識暉は頷いた。


「これで決着が付けば、この事件も無事に解決ですね」

「――ああ、多分そうなるな」

「報酬を用意して待っていてください。放課後、受け取りに戻ってきますから」


 その言葉に、樸生先生は目を細めた。


「ああ、待ってるよ」

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