探索⑦ 怪異

 日記から這い出してモノ。

 それはまるで、蛇だった。

 日記に書き込んだ無数の線が解かれて、紐のようになる。

 その紐は黒く太い塊を編んでいく。

 そうして出来上がったそれは、蛇がそうするように、するりと這い出してきた。

 その異常な事態に理屈を飛び越えて理解した。

 目の前のコレは、怪異だ。


【ダイスロール】

《怪異なるモノの目撃》

《紗儚|正気の蝕み:74 → 08 成功》

《紗儚|正気74 → 73》


 異常な事態の中、怖さで止まりかけている頭を、無理矢理に働かせる。

 選択肢は二つ。


 逃げるか。

 立ち向かうか。


 逃げたいと思った。怪異を相手にするなんてリスクが大きすぎる。

 でもダメだ。

 もし逃げたとすれば安全は確保できる。

 でも、何もわからないままだ。

 識暉を少しでも危険から遠ざけようとして日記を手に取った。なのにまだ日記からは、なにも分かっていない。

 この事態を乗り越えないと、きっとなにも変わらない。

 向かい合う。

 この異常な事態を、切り抜け、乗り越える。

 私はそう意志を決めた。


 黒い蛇は長い体でとぐろを巻き、鎌首をもたげてこちらを見ている。

 それからこちらに向かって、するすると動き出した。

 こっちに来ないように、近くにあったクッションを投げつける。


【ダイスロール】

《紗儚|投げつける 達成値25》

《達成値25 → 46 失敗》


 急いで投げたクッションはうまくコントロールできず、黒い蛇の横に飛んでいってしまった。

 黒い蛇はするりと机をおり、真っ直ぐに私の方に向かってくる。

 今度はベッドの枕を掴んで、それを思いきり振り降ろした。


【ダイスロール】

《紗儚|枕をぶつける:達成値25+30(至近距離による補正)》

《達成値55 → 80 失敗》

《黒蛇|分裂し張り付く:達成値50+30(至近距離による補正)》

《達成値80 → 37 成功》


 枕が床にぶつけられる。

 黒い蛇は太い体を器用にくねらせて、枕を避けた。

 もう一回。

 そう思い振りかぶった所で、手の違和感に気が付いた。

 何かが纏わりつくような感覚。

 枕を掴んだ手に視線を向ける。そこには細く小さい黒蛇が巻きついていた。


【ダイスロール】

《紗儚|振り払う:達成値5+30(至近距離による補正)》

《達成値35 → 10 成功》


 反射的に左手で振り払った。手には紙を握ったような感触がした。

 蛇を振り払った左手に目を向けると、黒鉛で真っ黒になっていた。


【ダイスロール】

《紗儚|アイデア:達成値75》

《達成値75 → 39 成功》


 黒鉛だ。

 この怪異は形こそ蛇だけれど、その素になっているのはただの黒鉛だ。しかも、なにかに押し付けてやれば、元の黒鉛に戻る。

 勝機が見えてきた。

 そう思い、残った太い黒蛇に目を向けた。


【ダイスロール】

《紗儚|幸運:達成値05》

《達成値05 → 50 失敗》


 そこには、太い黒蛇はいなかった。

 分かれて2匹になった蛇がいた。

 

【ダイスロール】

《黒蛇A|飛びかかる:達成値40+30(至近距離による補正)》

《達成値70 → 09 成功》

《黒蛇B|飛びかかる:達成値40+30(至近距離による補正)》

《達成値70 → 97 大失敗ファンブル

《紗儚|回避:達成値40-30(至近距離による補正)》

《達成値10 → 85 失敗》


 闇雲に飛びかかって来た1匹は避けることができた。だけれども、隙を狙ったかのように飛んできた2匹目には、避けることはできずに、黒蛇は腕に飛び移られ、巻き付かれてしまった。


【ダイスロール】

《黒蛇A|噛み付き:達成値30+50(至近距離による補正)》

《達成値80 → 55 成功》

《紗儚|攻撃の回避:達成値40-30(至近距離による補正)》

《達成値10 → 87 失敗》

《ダメージロール 2D3 → 2+3=5》

《黒蛇のダメージはMP減少にあてられる》

《紗儚|MP16 → 11》


 針で刺されるような鋭い痛みに動かされ、夢中で黒蛇を捕まえ握り潰した。

 握り潰した手を確認する余裕もなく、もう1匹の黒蛇は襲ってきた。 


【ダイスロール】

《黒蛇B|噛み付き:達成値30+30(至近距離による補正)》

《達成値60 → 28 成功》

《紗儚|回避:達成値40-30(至近距離による補正)》

《達成値10 → 41 失敗》

《ダメージロール 2D3 → 3+2=5》 

《黒い塊のダメージはMP減少にあてられる》

《紗儚 MP:11 → 6》


 その攻撃を躱すことができなかった。

 黒い蛇は首もとに張り付いた。

 払おうとしたのと、牙を突き立てられるのは、ほとんど同時だった。

 白い痛みが走った。その痛みは視界を白に置き換える。


「――っ!」


 声にならない悲鳴が喉をついて出る。

 まるで急に血を抜かれたように、意識が朦朧もうろうとした。


《紗儚|MP減少による精神ショック:達成値30(残りMPの5倍)》

《達成値30 → 22 成功》


 意識が薄れて、真っ白になる瞬間。「紗儚っ!」識暉の声を聴いたような気がした。

 その声に動かされて、遠ざかる意識を歯を喰いしばってつかまえる。


【ダイスロール】

《紗儚|黒蛇を振り払う:達成値40+30(至近距離による補正)》

《達成値70 → 81 失敗》


 無我夢中で黒い蛇を振り払う。それで、痛みはなくなった。

 でもまだ、黒蛇を倒したわけじゃなかった。黒蛇は、距離をとったところで鎌首をもたげ、こちらの様子をうかがっている。その大きさは最初の3分の1程度まで小さくなっている。

 噛みつきのせいか、頭がぼぅっとする。次はもう耐えられない。でも、それは向こうも同じそうだ。

 問題は、向こうよりも先に攻撃できるかどうかだ。

 今までは全部、噛みつかれてから握り潰したり、払ったりしていた。でももうそれは使えない。攻撃を受けずに、攻撃をする。

 どうすれば。

 

【ダイスロール】

《紗儚|アイデア:達成値75》

《達成値75 → 63 成功》


 そうだ。――アレだ。

 その答えに、はは、と声が漏れた。

 黒い蛇がするりと近づいてくる。

 その分だけ後ろに下がった。

 こんっ、と足にベッドの端が当たった。もう後ずさりできない。

 黒蛇にもそれが分かったのだろうか。私に向かって、飛びついてきた。

 逃げ場のない私は、後ろに倒れ込んだ。

 蠢く黒鉛が、私に向かって口を開ける。

 それはもう、恐怖でもなんでもなかった。

 倒れ込んだ先にあるのはベッドだ。

 羽毛布団うもうぶとんが倒れ込んだ私を包む。

 史上最強の包容力。それが今は、盾と共に矛でもあった。

 黒蛇は最強の鎧うもうぶとんに頭から突っ込んだ。

 巻き付いている羽毛布団で、黒蛇を包み込む。

 それから丹念に押しつぶした。

 

 気を付けながら羽毛布団を開くと、そこに動くものはいなかたった。

 ただただ黒鉛で真っ黒になっていた。


「――勝った」そう呟いた。

「私は勝ったぞ、識暉」


 人生で何度も味わえない、勝利の美酒。

 その味を噛み締めた。

 そのまま倒れて、意識を失うように眠りに落ちた。

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