第7話 麦茶と唐辛子とイチゴジャム
「
美少女先輩は、僕の部屋のベッドに腰かけ、足を組み、髪をかきあげながら名乗りをあげた。
こうしてちゃんと対面すると、美少女先輩こと酒々井ヴィオラは、恐ろしいほどに美少女であった。髪や服装、装飾品をきちんと整えているからというのもあるだろう。化粧もしているに違いない。だが、それ以上に素の美しさがどうしようもなく
生まれ持っての美しさ。初めから持っていたからこそ、何の
そんな美少女先輩が、僕のベッドに座っている。
あー、つまり、何が言いたいかと言うと。
もうね。やばい。僕の中の野生がマシンガンで理性を
いや、例えが意味不明過ぎるけれど、とにもかくにも心臓がばくばくしてしょうがない。
待て待て待て。
何を考えている? 今、やっと、今日の一連の謎について、何かしらの解答が得られるところなんだぞ。それなのに、まったく
「あの、ししし先輩」
「酒々井ね。ていうか、どういう間違え方なの、それ? そんな苗字の人いるわけなくない?」
「すいません、緊張しちゃって。で、えっと、しーす先輩」
「あなた、業界人か何かなの?」
だめだ。緊張と脳の疲れで、口が回らない。
「言いにくいのならばヴィオラでいいわよ。みんな、そう呼ぶし」
「じゃ、ヴィオラ先輩。ちょっと、
「……ごめんなさい。ちょっと、何言っているのかわからないわ」
あれ、何か変なこと言ったかな?
「あ、昨日、ペペロンチーノを作ったんです。引っ越しそばの代わりに。だから、その残りがまだあって」
「いえ、一人暮らしの男子の家の台所にどうして唐辛子があるのかと疑問に思っているわけじゃないわ」
「僕、けっこう料理好きなんです」
「聞いてないわ。どうしていきなり唐辛子を食べようとしているのかを疑問に思っているのよ」
あ、そこか。
でも、あなたでエロいこと考えてしまいそうだから、と正直に答えるわけにもいかない。
「あれ? お茶うけにしません? 唐辛子」
「……変わっているわね」
すっごいドン引きされた。
言った手前、後にも引けず、僕は
そこで、冷静になって考えてみたのだけれど、唐辛子だけ食べるなんて正気の
だが、ここで唐辛子を持っていかなかったら変に思われる。嘘をついたと怒って、謎について何も語らず帰ってしまうかもしれない。
そうだ、何か甘いもので中和しよう。
とはいっても、唐辛子を中和するのだから、よっぽど甘いものでないと。そこで目に映ったものを手に取った。
「ねぇ、唐辛子はわかるわ。いや、わからないんだけど、まぁ、それはいいとして、どうしてイチゴジャムを持ってきたの?」
テーブルの上において、ヴィオラ先輩に指摘されて気づいた。
テーブルの上には、麦茶と唐辛子とイチゴジャム。
確かに意味がわからない。
またやってしまった。どうやら、脳みそがずいぶんと疲れているらしい。
とにかく、ごまかさないと。
「えっと、その、赤かったから、間違えちゃって」
「あなた、赤かったら何でも唐辛子に見えるわけ?」
「……というのは冗談で、その、あれです、お茶に入れるんです」
「お茶に?」
「えぇ、知りません? 英国式ですよ」
「あれは紅茶に入れるのよ」
「お茶はお茶ですよ。試しにやってみませんか? けっこういけますよ」
「遠慮しておくわ」
僕も遠慮したい。
しかし、言った手前、もう後には引けない。僕は、イチゴジャムを麦茶の中にぼとりと落とし、スプーンでかきまぜ、いっきに飲み干した。
フレーバーティーというものがある。茶葉に香りをつけたもので、果実系のものもあったりする。つまり、イチゴとお茶は基本的に相性がいい。
それはそれとして、イチゴジャムの甘ったるさと麦茶の風味が絶妙に入り混じり、なんともいえぬえぐさが口の中に広がった。
つまり、まずい。
一瞬、もどしそうになったところをなんとか呑み込んで、一息に喉の奥へと流し込む。
「その、本当においしい、の?」
「えぇ、うま、ごほ! いです、ごほごほっ!」
「あら、そう。なら、いいのだけど」
僕は、頭を振って、なんとか気分をリセットする。不幸中の幸いというか、イチゴジャムのおかげで当分補給もできた。心なしか、頭もすっきりしている。
「で、ヴィオラ先輩。話って何なのですか?」
「え、あぁ。何だったかしら」
「何って、とぼけないでくださいよ。ヴィオラ先輩やあの連れていかれた女子の奇行について、説明してくれるんですよね!」
「あぁ、そうだったわね。正直、あなたに奇行とか言われると、何だか釈然としないのだけれども」
ヴィオラ先輩は、足を組みなおし、顎に手を当ててから、目を鋭く細めた。
「その前に、せっかく持ってきたのだから唐辛子を食べたら?」
……おぉう。
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