第2話

 慣れるのは、早かった。


 何もできず数日間震えていたのが、懐かしく思える。


 彼の私物を、日にちをかけて、ゆっくり排除していった。


 今日は、その最後。

 ポテトチップスと、ひげそり。


 まず、ポテトチップス。袋を開ける。期間限定、サブレおにぎり味。サブレおにぎりってなんだろう。


 1枚ずつ、食べていく。


 美味しかった。お米の味と、サブレの味がする。なのに、美味しい。


 机の上。ポテトチップスだけ。


「プリンも食べようかな」


 冷蔵庫。プリンはなかった。残念。


 あきらめて机に戻り、ポテトチップスをつまむ。


 ひげそり。

 電源を入れる。


「おおおお」


 ぶるぶると、手が震えた。強力なタイプらしい。たしかに、ひげのはえた彼の姿を見たことがなかった。


 電源をいれたまま。すねに持っていく。


「おおおお」


 すごい。ぞりぞりいってる。

 これは使えそうだから、捨てないで持っておこう。


 ポテトチップス。美味しかったので、すぐになくなってしまった。


「はあ」


 彼の私物は、なくなった。

 もう、彼はいない。それを受け入れる気分に、ようやく、たどりついていた。


 私の人生で、最後の恋愛。ドラマや漫画みたいなドラマチックな台詞ではなく、単純な事実。私にとっての恋愛は、彼そのものだったから。そして彼は、もう、存在しない。


 なんとなく、つけていなかったテレビを、つけた。もしかしたら。そんな気がして。


 彼が、映っていた。死亡。そう書いてある。大きな文字で。

 水の事故。沖合いで溺れた子供を助けようとして、子供を助けたあと行方不明。その死体が、ようやく発見されたというニュース。


「子供を助けたあと行方不明って」


 どこをどうやったら行方不明になるのよ。


 あなたらしいわ。


 ちょっとだけ笑って、ちょっとだけ、泣いた。


 彼の携帯端末。充電終了のマーク。


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