3話
「嘘だろ、まさかお前がSランクとか」
「いや自分でもかなりビビってます」
信じられないといった様子のおっさんに、俺がそう言う。
「才能の塊じゃねえかお前。それで今まで魔法知らなかったって本気で言ってのか?」
「いやほんとですって。今まで魔法のまの字も知りませんでしたよ」
俺が釈明すると、おっさんが目を丸くしたまま。
「お前がSランクねえ……」
驚いた様子を隠しきれていなかった。
それを見ながら、俺は主神の言葉を思い出す。
魔法の才能があるって……そういうことだったのか。いや、マジで本当にそのまんまの意味だったとは。
「長く生きてりゃ面白いこともあるもんだなあ」
おっさんはそう言うと、机の部分の端を持ち上げてカウンターを出て俺の方まで来る。
「うっしゃ。俄然やる気が湧いてきた。俺は魔法にはあんまし詳しくないが、教えられるもんは教えてやるよ」
「あ、ありがとうございます! 助かります」
「いいってことよ。んじゃ、俺についてきな……」
そこまで言って、おっさんが口ごもる。
「そういや、お前の名前聞いてなかったな」
確かに。自己紹介すらまだだったと、俺は口を開く。
「佐貫景って言います。景って呼んでくれれば」
「ケイか。言い名前じゃないか」
おっさんはごつい手を差し出して。
「俺はロウだ。ここのギルドのマスターをやらせてもらってる。好きなように呼んでくれ、よろしくな」
……え。
「いや、え、ギルドのマスター!?」
驚いて声を上げると、いやいやと手を振っておっさん――もといギルドマスターが。
「ああ。まあそんなに偉くもないし、偉ぶったりもしないんでな。よろしく頼む」
いやいやそれは十分偉いだろう。そう思いながら、俺はギルドマスターの手を握った。
「んじゃ、ついてきな」
そういって、ギルドマスターが歩き出す。それに続いて俺も後ろを歩く。
「……えっと。どこにいくんですか?」
「ギルドの裏。そこそこスペースがあるんだよ」
あ、なるほど。そういう感じでやるのね。てっきりこう、魔法を使用するための専用施設に――みたいな、そういうあれかと。
ギルドを出て、そのまま建物をぐるりと裏へと回る。裏のスぺースへと足を踏み入れると、それではとギルドマスターが振り返る。
「とりあえず、魔法を使ってみてもらう」
「え、いきなりですか!?」
「魔法は感覚だからな。とにかくやってみないと話にならない」
ギルドマスターが続ける。
「まず目をつむって、頭の中に火を思い浮かべてみてくれ」
言われた通りに目をつむる。
火を思い浮かべる、か……。頭の中でろうそくと、それに灯っている火を想像する。
「よし。それじゃ、そのまま指を前に出してみな」
……なんかこれ、ちょっとこっぱずかしいな。
そう思いつつも、さっき見た魔法としか思えない事象を思い出す。あれがあれば魔物なんかもサクサク倒せるようになるのだろうか。
この世界で生きていくためだ。ちょっと恥ずかしいくらいで立ち止まってられない。それに、俺の魔力はSランクらしいじゃないか。主神からもらった魔法の才能とやらを有効活用しない手はないだろう。
俺が指を立てて手を前に出す。
「そのまま、イメージを保ったまま……≪ファイア≫と唱えてみな」
「…………≪ファイア≫!」
直後、目の前に強い熱を感じた。
「っ!?」
驚いて目を開ける。
俺の指に、さっき想像していたくらいの大きさの火が灯っていた。
「やるじゃないか。それが≪ファイア≫の魔法だ。今のお前じゃ指先に火を灯すことが精々だろうが、Sランクなら極めれば超火力の炎で回りを焼き尽くす、みたいなこともできるはずだぞ」
そう言って、ギルドマスターが親指を立てる。
「なるほど。……え、これ消すときって」
「もう一回目をつむって、今度はさっき想像した火をかき消すってな感じで想像してみな」
「かき消す……」
目をつむり、ろうそくの火を頭の中に浮かべる。
かき消す、って言ったら……息を吹きかけるみたいな感じか?
頭の中で、火に息を吹きかけてみる。と、熱さがすうっと引いていくような感覚が。
目を開けてみると、俺の指先に灯っていた火が、煙を残して消え去っていた。
「上手いじゃないか。初日でそれじゃ上出来だ」
「そう、ですかね。ありがとうございます」
「いやいや。いいってことよ。それより、お前は倦怠感みたいなのを感じてないか?」
そう言われるものの、特に体に異常は感じない。
俺が首を横に振ると、ギルドマスターはさすがだなと呟いてから。
「普通なら初めて魔法を使うやつは大抵ここでばてるんだ。ってのも、魔力を消費したときの初めての感覚が結構きついんでな」
「魔力を消費、ですか?」
「ああ。通常、魔法を使えばそれに応じて魔力が減っていくんだ」
なるほど。ゲームでよく見る魔法と同じ感じか。使えばMPが減る、みたいな。
それが感覚的にキツイのか。いや、まったくもってそんな感じはしない。さっきと同じ調子だ。
「特になんともないってんだったら、さすが魔力Sランクってこったな。魔力Sと魔力Cじゃあ、減る魔力の割合は圧倒的に違う。お前が一回魔法を使ったところで、減る魔力は大したことないんだよ。魔法を何回も打てば違うだろうが、少なくとも1、2発じゃばてないだろうな」
なるほど。そういうところでも、魔力のランクが高いほうがいいのか。
俺が主神から受けた恩恵は中々大きいのかもしれないな。こういうのは何回も強い魔法を使用できる方が強いって相場が決まってる。
と、ギルドマスターが。
「その調子じゃまだ魔法使っても大丈夫だろ。次はなんも唱えずに魔法を使ってみな」
「え、なにも唱えずにって、そんなことできるんですか?」
「ああ。才能があればの話だけどな。ちなみに俺はできん」
ギルドマスターにできないことが俺に出来るのか……?
疑問に思いつつも、さっきと同じようにろうそくの火を想像してみる。これを何も唱えずに、指先に灯すってことだよな……?
いやできんのかそんなん!?
とにかく試行錯誤してみる。とにかく、この火を外に出すイメージで……。
……できない。どうすりゃいいんだ? んー……。
少し考えて、頭の中にライターを思い浮かべる。回すとカチってなって火が付くあれだ。あれを頭の中で回して火をつけてみる、なんてのはどうだろうか。
無理がある気がしないでもない。というかする。自分が一番思ってる。けどまあ、消すときもイメージでどうにかなったし今回もいけるんじゃないか……?
善は急げと、頭の中のライターを着火してみる。
と。
「うおっ」
俺の指先に火が灯った。イメージしたのがライターだったからか、さっきの火より小さいが。
「おおお、マジでいけるとは……さすがSランク」
ギルドマスターにもそう褒められる。いや、主神からのバフすげえわ……。
「んじゃ、それも消してみな」
言われた通り。今度はライターの火を消すイメージをしてみる。
頭の中でライターの蓋を閉めてみると……。うん。あっさりと火が消えた。
「上出来だ、さすがだな」
「あ、ありがとうございます」
お礼を言うと、ギルドマスターはにこりと笑う。
「だが、集中力がいるだろう? 詠唱はイメージを保管してくれる役割を持っていて、ただ詠唱をするだけでも魔法は発動するんだ。だから、あまり想像はいらない。今回は初めてだったから、ちと深めにイメージしただろうがな」
ギルドマスターは一息置いて続ける。
「だが、無詠唱――詠唱無しで魔法を使うにはイメージが必要だ。それも、詠唱がない分深いイメージがな。ほら、詠唱があったときよりと比べて苦戦してただろ?」
確かに。詠唱ある時よりも、火の出し方というか、魔法の使い方に苦戦していたような。
「慣れるまでは詠唱を使っとけ。火の大きさをぱっと思い浮かべるだけであとはファイアって言えば出るからな。無詠唱はしばらく特訓してからだ」
なるほど……。
確かに、魔物を相手にしてるときにうだうだとイメージを膨らませてたら速攻で死ぬだろうしな。こんな短期間で二度も死ぬとかマジで勘弁だ。
「ま、日々の鍛錬を怠るなってことだな。毎日無詠唱の練習をしときな。」
ギルドマスターが腕を組んでそう言う。
「俺が教えられるのは大体これくらいかね」
「ありがとうございました。ほんと、俺みたいなのに」
「いいんだよ。新人の育成はギルドの役目だ」
いい人そうに笑うギルドマスター。
「んじゃ、それ使ってクエスト行ってきな。オススメは……そうだな、ウェイトラビットなんかがいいんじゃないか?」
「ウェイトラビット……ですか」
「ああ。ちっこいやつだよ。動きも早くないし、どちらかと言うと弱い。言ったら初心者向けだ」
「なるほど」
RPGとかで、一番最初にやるクエストみたいなもんか。それなら確かに俺でもやりやすそうだ。
「報酬も飯一回と宿一泊くらいだから、今夜は凌げるだろうしな。とりあえず行ってきな」
それでも一晩か……。毎日暮らすってなると、簡単なクエストだけやって生きていくってのは無理そうだな。
まあでも、一晩だけでも今はありがたい。やってみることにするか。
「じゃあ、やってみます」
「うし。んじゃ、クエストはこっちで受けとくから、ケイは森に向かいな。大通りを進んで、街から出たらすぐだ。そこにウェイトラビットがいるからそれを狩って、頭に生えてる角を三本持ってきてくれ。それを証拠にするから、しっかりな」
「分かりました」
「んじゃあな。無事に帰ってこいよー」
手をひらひらとさせならが、ギルドマスターが歩いていく。
その背中に手を振って、ギルドマスターが見えなくなった後。俺もギルド裏から出ようと歩く。
初クエスト……。ちょっと怖いし、緊張もするけど……。
でもやっぱ、楽しみだな……!
ワクワクしながら、俺は足を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます