2話
「うし、これでお前は我がギルドのメンバーとなった。これからはここ含めて、どこそこのギルドからクエストを受けられるようになるぜ」
そう言いながら、クレジットカードほどの厚さのカードを俺に手渡してくる。
受け取ってみると結構軽い。材質はなんなんだろうか? 見た感じはプラスチックっぽいけど、この世界にはそんなものはあるんだろうか。
「ランクを上げれば、通行証代わりにもなる。別の街に行くときにわざわざギルドまで許可証取りに来なくてもよくなるから、そこそこ便利だぞ」
「ランク?」
「あー、そっか。そこからか」
一息おいて、おっさんが話し出す。
「ランクってのは、ギルドメンバー内での位置づけみたいなもんだ。最初はCから始まって、B、A、Sの順で上がってく」
対人ゲーまんまって感じだな。ってことは恐らく……
「ランクはクエストをこなせば上がっていく。モンスターを倒すなりなんなりして、地道に上げていきな」
やっぱか。とことんRPGっぽい世界観なんだな。
最初はCだってことは、俺は今Cランクなのか? と、カードに目を落とす。
今気が付いたが、このカードに書いてある文字のほとんどが日本語ではない。……のだが、その全てが不思議と理解できた。
まあ、文字で躓いてちゃ異世界を楽しむどころかしばらく勉強漬けが始まるからな。主神が上手いことやってくれたんだろう。
改めてカードを見ると、その左下に大きくCランクと文字があった。
「説明することはこれくらいか」
どうやら初心者に教えることは教えつくしたらしく、おっさんが一息ついた様子で。
「さっきも言ったが、クエストはあっちのクエストボードにある。気に入ったクエストを紙ごと引っぺがして持ってきな」
「あ、はい。ありがとうございました」
「いいってことよ。なんか困ったことがあったらまた聞きな」
人がよさそうに笑った。
なるほどなあ。どうやらこの世界でのギルドというのは、かなり重要なものらしい。
カードなんか街の通行証になるらしいし、結構なことだよな。現代日本で例えるならパスポートみたいなものだろうか。それほど信頼性が高いモノってことだ。
まあ、そういうことは後回しにして。
今はクエストだ、クエスト。俺でもやれそうなやつを選んで、ぱっぱと終わらそう。
クエストボードがある方向。カウンターから左側へと足を運ぶと、沢山の羊皮紙のような紙が壁に付けられたボードに貼り付けられていた。まばらに人がいて、クエストボードを眺めている。俺もその中に混じって羊皮紙へと目を向けた。
クエストは結構種類があるようで。目に入るだけでもそこそこの数がある。例えば、今目に入ったやつで言うと……
「『森に住み着いたブラッドベアーの退治』、か」
一目でわかる無理ゲー感。武器すら持ってないのにクソ強そうな熊なんか倒せるかってんだ。
もっと簡単そうなのはないかと目を凝らすも、残念ながらどのクエストも似たようなのばっかだ。見るからに魔物っぽい名前がずらりと並んでいる。
どうしたもんか……。俺に魔物退治とか無理ゲーだぞ。武器を持たずとも勇敢に拳一つで魔物に立ち向かえるほど、俺は強靭な性格じゃない。できれば薬草採取とかそういう、安心安全なチュートリアル風なのに頼りたいとこなんだけど。
うん。ここはあのおっさんをもう一度頼ろう。困ったことがあったらまた聞きなって言ってたしな。再開が早すぎる気がするけど。
もう一度カウンターの方へ行くと、おっさんが俺に気付いて声をかけてくる。
「お、今度はどうした?」
「えっと。クエストを受けたいのは受けたいんですけど、魔物退治とかはさすがに厳しくてですね」
「あーなるほど。そういうことか」
おっさんが頷いて。
「んま、お前武器とか持ってないしなあ。さっきギルドメンバーになったばかりの若造が魔物退治って言っても、それじゃあさすがに無理がある」
「ですよね」
「かといって、魔物退治以外のクエストも今じゃ残ってないだろうしな。朝一にそういう楽のは取られちまうんだよ」
魔物退治以外の、それこそ薬草採取とかのクエストも、あるっちゃあるのか。
まあ今ないのなら、それが分かったところで焼石に水といった感じなんだが。
「お前、魔法って知ってるか?」
おっさんが唐突に聞いてくる。
「いや、知らないです」
「そうか……」
おっさんが少し悩むようなそぶりを見せてから言った。
「うっしゃ。これも何かの縁だ。お前に魔法を教えてやるとしよう」
「魔法、ですか?」
魔法……!? マジで!?
内心で結構驚いているのを隠しつつ、努めて冷静に答える。
「ああ。魔法は便利だぞ。攻撃にも防御にも、なんでもござれだ。その上に覚えさえすれば武器代とかかからないしな」
なんと。それは滅茶苦茶便利な代物だ。
驚いてる俺をよそに、おっさんは冷静にくぎを刺す。
「ただまあ、誰でも強力な魔法を使えるかって言ったらそうではないがな」
「え、そうなんですか」
「ああ。その魔法を上手く使えるかは、その人の魔力に関係してくる」
魔力。ある意味で聞きなれたその単語を反芻する。
「魔力ってのは、その人がどれだけ強力な魔法を使えるかってのの指標だ。俺くらいの魔力なら、このくらいのファイアを使える」
そういっておっさんがファイアと呟く。
と、おっさんの指先に小さな火が灯った。
「うおっ!?」
驚いて声を出してしまう。
すげえ、これが魔法……! 魔法らしい魔法を目の前にして、テンションがかなりあがる。
「ま、こういうこった。魔力にはランクと同じようにランク付けがあって、俺の魔力はその中のCだ。まあ悪くはないけどよくもないってとこだな」
おっさんが指を勢いよく振ると、火はふっと消えた。
「これが魔力Sになったりすると、巨大な火柱なんかを起こして魔物を燃やし尽くすなんて芸当もできる」
なるほど。要するに魔力のランクが高ければ高いほど、強力な魔法を使用できるようになるってことか。かなり分かりやすい感じで物凄く助かる。
「お前のギルドカードに魔力のランクは記載されてるはずだぞ」
「マジですか」
「ああ。見てみな」
そう言われて、カードに目を通す。
さっき見た時には見落としていたが、確かに魔力の文字があった。
その横には……
「ん?」
見間違えかと目を擦ってみて、もう一度見てみる。
「……え?」
「どうした?」
おっさんが何かあったのかと聞いてくる。
「いや……なんかSって書いてあるんですけど」
「…………マジで?」
カードを見せると、おっさんが目を丸くしてそう言った。
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