1話

 石造りの、綺麗に舗装された道。その端に連なっている木と石造りの家が、まさにRPGといったような風景で。

「すっげえ……」

 思わず、口から感嘆の言葉を漏らす。

 こんな風景、日本じゃ見たことが無かった。馬が馬車を引いて走っていたりと、異国情緒あふれる街並みが俺の心を高ぶらせる。

 しばらくそれを眺めてぼけーっとしていたが、ふと思い立つ。

 いやいや、これからどうするんだよこれ。このままじゃ魔物に襲われるまでもなく道の端っこで餓死する羽目になってしまう。

 ああ、くっそ、いろいろ考えることが山積みだ。あー、えっと……そうだ。まずは状況確認を。

 ここは異世界。の、多分どっかそこそこ大きめの街。見た感じ、大通りっぽいところに俺はいる。人はそこそこいる。込み合ってるって程じゃなくて、ほどほどに活気があるって感じ。

 んで……ああ、俺の持ち物。えっと、服装は特に変化なし。黒っぽい灰色のジャージ一式だ。これで異世界デビューはちょっと……なんかこうダサいな。

 はい、状況確認終了。現状は何も変わらず。よりどうすればいいのか分からなくなっただけ。

 どうすりゃいいんすかこの状況は!?

「……とりあえず、ギルドとやらに行ってみるか」

 場所も分からんし、それがなんなのかもよく分からないけど。この状況で俺ができるのは、主神が言っていたそれを頼ることくらいだろう。

 ……あいつ、俺が苦労することは無いとか言ってなかったか? 初手からバリバリハードモードなんだが。

 



 とは言ったものの、この街並みを見ながら歩くだけでも中々楽しいものだ。

 そこそこ歩いたが、この街には服屋とか八百屋とかのほかに、ファンタジーらしく武器屋やら宿屋やらがあるらしい。帯剣した人がそこを訪れていたりと、現代日本じゃ100%見れなかった光景に、かなりワクワクする。

 こういうこと言うのはどうかと思うんだが、こういう世界で生きれるのなら死んでよかったのかもしれないな。いや、もちろん色々と納得しきれないこととか未練と かはあるんだけど。

 そんなことを考えながら、大通りを歩く。

 しばらく歩いてみたものの、“ギルド”らしきものはやはり見つからない。というか、そもそもギルドってなんなんだろうか。

 この世界はRPGみたいな感じだって主神が言ってたから、それにのっとるならまあ、うん。恐らく魔物とかの討伐とかを仲介してクエストとして発行してるあれだろう。

 となると、そういう重要なものは大抵大通りを歩いていけばあるって相場は決まってるんだけど……。

「……お、これか?」

 目の前に、クリーム色の神殿のような建物が見えてきた。結構な大きさと高さがあり、見た感じ三階建てくらいはありそうだ。単体で見るとかなり浮世離れしている外見だが、周りの異世界感溢れる風景とはよく馴染んでいた。

 大きく開いた中央の扉からはいろいろな人が出入りしていたが、大体が帯剣していたり、背中に大きな斧のようなものを背負っていたり、鎧を着ていたり……まさに冒険者とか、そういう種類の人種そのものだ。

 これから、俺はここに入るのか。

 ドキドキと鳴る胸を抑えつつ。ここで突っ立っていても何も始まらないと、一歩を踏み出す。

 中に入ると、一気に周りが騒がしくなった。

 特に右側。見れば酒場のようになっており、いくつも机と椅子が並んでいて、そこで色々な人が料理を食べたりしていた。ジョッキみたいなものを持って勢いよく飲み干している人もいたりして、なんというか豪快である。

 左側には大きなボードのようなものが壁にあり、そこに羊皮紙のようなくすんだ紙が沢山貼りつけられている。それを見ながらいろいろと話している人達を見ると、なんかこう……ぐっとくるものがある。階段もあるが、二階に繋がっているのだろうか。

 そして前方には、受付のようなもの。美人なお姉さんが二人と、髭を生やしたおっさんが一人、仕事が無さそうな様子でカウンターの向こうで雑談していた。

 迷わずおっさんの方へと歩く。おっさん側も俺に気付いたらしく、雑談を切り上げて俺の方を見た。

「おう青年、なんかようか?」

 かなりフランクに話しかけてくる。

 体感したことがない接客に若干戸惑いを覚えつつ。

 えーっと。とりあえず、主神も言ってたし仕事のこと聞いてみようかな。今の俺は寝るところどころか飯代すら危うい状況だから、まずはある程度の金が欲しいところではあるし。

「仕事を探してるんですけど」

「仕事か。あっちのクエストボードに貼ってあるやつが大半だが……」

 そこでおっさんが口ごもる。

「お前、まだギルドメンバーじゃなかったりするか?」

「……というか、ギルドメンバーっていう単語ですら分からないというか」

「今時珍しいなおまえ……ギルドメンバーなんて単語、生きてりゃ何十回も聞くだろうに」

 そりゃまあ、この世界に来たのついさっきですし。

「ギルドメンバーってのは、単純にこのギルドのメンバーになるってことだよ。簡単だろ?」

 とんでもなく簡単な説明にこくこくと頷く俺。

「んで、カードってのはメンバーになったってことの証明になるもんだ」

 ようするに会員証みたいなものってことか。

 なるほど。びっくりするくらい分かりやすい。

「ギルドメンバーになればカードが作れて、そいつがあれば仕事が受けられるようになるってこった。どうする? ここで作ってくか?」

 ポイントカードみたいなノリでそんなことを言ってくるおっさん。

 と言っても、カードがないとどうしようもないしなあ。ギルドの会員――じゃなくて、ギルドメンバーになっても別にデメリット無さそうだし。これからここで仕事を貰うんなら作っといて損はないだろう。

「じゃあ、お願いします」

「うし。んじゃちょっと待てよ……」

 おっさんがカウンターの下の方をごそごそと漁って、何か石の板のようなものを取り出した。表面には魔法陣のようなものが刻まれている。

「これに手を乗せてみな」

 言われた通りに手を乗せてみる。ひやっとした感触。と、置いた手の上に魔法陣が現れた。

 うおおお……! これ、魔法か!?

 魔法初体験でかなりテンションが上がってしまう。すげえ、いやほんとすごい。マジであんのな、魔法……!

 しばらくして魔法陣が消えると、おっさんに「もういいぞ」と言われて手をのける。

 と、今度はおっさんが石板に手を置いて呟く。

「誓約」

 一瞬石板が光ったかと思うと、おっさんの手にはカードが握られていた。

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