ギフトロード・スローライフ
西条汰樹
プロローグ
さっき車に思いっきり引かれて死んだ。クッソ痛かった。
いやもう、本当に痛かった。ただ歩いてただけなのに、目の前に暴走した車が突っ込んできて。なんで俺が死ななきゃいけないんだよほんと……。
うわ。考えただけで嫌になってきた。やめだやめだ。死んだんだし生きてた時のこと考えても無駄なんだから。
頭の中を切り替える。
にしても、このなっがい待機列にはいつまで並んでいればいいんだろうか。車にぶっ飛ばされて宙を舞ったかと思えば、いかにもスタッフみたいな人に
『あなたは死にました。詳しいことは順番が来たら教えますので』
と言われ、100004番と書かれた紙を渡されてから体感時間で一時間はここに並んでいる気がするのだが。
周りでは、恐らく俺と同じように死んだのであろう人達が列をなして並んでいた。みんな暇そうにボケーっと突っ立っている。
いつになったらこれ終わるんだろうか。これが終わったら俺はどうなるんだろうか。死んだんだから天国にでも行くのか、それとも消えてしまうのか……。
「はあ……」
とにもかくにも、この長すぎる地獄がさっさと終わるのを待つしかないのである。
暇をなんとかしのごうと、なんとなく上を見上げる。
と。
……え、なんだあれ。なんか俺の頭上に人が浮いてるんだけど。
やることもないのでその人をしばらく見つめていると、ふと目が合った。うわ。気まずい。どうしよ。
その人は俺をじっと見つめた後、俺の方へと降りてくる。
「番号100004番の方ですか?」
近くまできて男だと分かったその人が、俺に向かって言う。
「え、はい。そうですけど」
そう答えた瞬間、周りが真っ白に塗りつぶされる。
「うおっ!?」
少しすると白が徐々に色を取り戻していき、気が付けばさっきいた所とは違う場所に居た。
周りは、映画とかで見るような煌びやかな……王室?みたいなものになっていて、目の前にはどでかい真っ赤なソファが一つ。
「よく来たね」
状況に困惑していると、背後から声をかけられる。
驚いて振り向くと、そこにはこれまた赤いソファに腰かけた若い男がいた。白いスーツを身にまとって、首には高そうなネックレスをかけているイケメンだ。
「まあ、そこに座りなよ」
そういって、ソファを指さす。
「え、っと」
「いろいろあって戸惑ってると思うけど、それも説明するから」
仕方がないので、言われた通りにソファに座る。慣れない空間にずっと立っていたので正直有難い。
高そうなソファに腰かけると、その見た目に違わず座り心地がとてもよかった。
「まずは、お疲れ様。17歳とは比較的若い人生だったけど、どうかな。天寿を全うできたかな?」
お互いが向かい合った形になると、そういって、男が喋りだす。
「随分と壮絶な死に方だったから、そうとは言えないかな?」
「……そうですね。気持ちいい、というか理想的な死に方ではなかったです。やりたいこととか、まだたくさんありましたし」
「そっか」
男が頷く。
「人は何歳で死んでも未練があるものだよ。この前は109歳で死んだおじいさんに会ったけど、やっぱりやりたいことがたくさんあったのにって言っていたしね」
男がそうやって語る。
……何者なんだろうか、この人は。言ってることとか、この状況とか、そういうの鑑みて個人的には神様あたりだと考えてはいるんだけども。
「ん、そういや自己紹介が遅れてたな」
俺の心を読んだかのようなタイミングで、男が襟を正した。
「天界……要するに死後の世界で、全ての世界を管理する総括をやっている。君たちの世界で言うなら、主神と言うと通りが良いだろうか」
「主神、ですか」
「ああ」
主神。主神か。この白いスーツが似合う爽やかイケメンが、主神。
なんかとんでもないものを目の前にしている、ということくらいしか分からないものの。なんか滅茶苦茶緊張してきた。やっば、手が震える。
「まあ、そう緊張しないで。実のところ、君に頼みごとがあるんだ。聞いてくれるかい?」
「いや、もう、なんでも」
「そっかそっか」
男――いや、主神が笑って続ける。
「率直に言うとね。君には、別の世界に行って、そこで生きてもらいたいんだ」
「……別の世界?」
「うん」
言いたいことは言い切ったとでも言わんばかりに、主神が深くソファに腰かける。
……いや。いやいや。
「本気ですか?」
「本気も本気よ」
「マジですか。……理由を聞いても良いですか?」
「理由かあ」
悩むようなしぐさを見せてから。
「君を気に入ったからかなあ」
「そんな理由で!?」
「うん。いや、他にも理由はあるんだけど、それは天界の規定でちょっとね」
社外機密みたいなことだろうか。
いや、にしてもだ。別の世界とか、そんなとこに行って生きるとか。色々と問題があるだろ。いや分からんけど……。
俺が考えながら口ごもっていると、主神が口を開いた。
「別の世界はね、早い話は君の世界で言うところのRPGのような世界なんだ」
「……RPG?」
「うん。魔法があったり魔物がいたり、冒険者とかがあったりするね」
なんだそれ。ゲームの世界まんまじゃんか。
「さっき、僕は君にそこで生きてほしいと言ったね。けど、そんなところに君を放り込んでも多分速攻で死んじゃうはずだから、私が最大限のサポートをさせてもらうよ」
「と、いうと」
「君がそっちでの新しい生を謳歌できる程度かな」
なんも伝わってこねえ。恐ろしいほどなんも分からん。
「ともかく、君は安心して、何の心配もせずにあっちで楽しめるんだ。悪い条件じゃないだろう?」
「……なんか、条件とか」
「ないない。一個もないよ。強いて言うなら、あっちで楽しく生きてもらうくらい」
……。
くっっっっっっっっそ怪しいんだが。
いや滅茶苦茶怪しい。白いハット被ったおばさんが朝一に「神に興味はありませんか?」って聞いてきた時とマジで同レベルなんだが。
「どうかな。やってみる気はない?」
そういって、主神は俺の返事を待つ。
正直。
生き返れるのなら、万々歳だ。さっきも言ったが、俺はまだやりたいことがたくさんあった。こんなとこで人生を終えるとか、なんかこう、物凄く嫌だ。
けど、行く世界がRPGの世界で。サポートしてくれる人が宗教勧誘のおばさんくらい怪しい人だったら話は別だろう。危なそうじゃん。危ない匂いするじゃん。魔物とかいるんだったらそいつらにワンパンKOされてまた死にそうで滅茶苦茶怖いじゃん……。
そうして、考えること数分。
「どう?結論、出た?」
答えを問うてくる主神に、口に出す直前まで悩んで。
「……生き返れるのなら。サポートしてくれるらしいですし」
そう答えると、最初から見透かしていたかのように、主神はにこりと笑った。
「君ならそう言ってくれると思ってたよ」
やっぱ、生き返りたいって気持ちが勝つよ。うん。そりゃ当たり前って話だ。それに、RPGの世界で生きるってのも、ちょっと面白そうではあるし。
「よし。善は急げだ。早速君を別世界に送ろうと思うんだけど、いいかい?」
早いな。そう思いつつ、頷く。
「はい」
「ふふ。それじゃ、君に主神の加護を」
そういって、主神が俺に手をかざす。
「君に授けた加護は単純明快。ずばり、≪魔法の才能≫だ」
「な、なるほど」
まさに単純明快といったところだろうか。一単語で大体の予想がついてしまう。
「ま、これはあっちに行ってから体感してもらった方が話が早いと思うから」
主神が指で円を描く。と、俺の足元に魔法陣が浮かんだ。
まさにファンタジー、といった光景。俺の動揺なんて露知らずといった様子で、主神が手を振る。
「お金を直接上げることはできないから、あっちで稼いでね。仕事はギルドで貰うといいよ」
だんだんと視界が白んでいく。
「それじゃ、行ってらっしゃい。任せたよ」
任せたってなにをだよ。その言葉を主神に放つ前に、俺の視界が白で塗りつぶされる。
さっき味わった感覚だが、二度目でもやっぱりビビるなこれ。
しばらくすると、少しずつ白に色が戻っていく。それが空になって、道になって、家になって。
気が付いた時には、俺はどこかの街の通りに、一人突っ立っていた。
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