地獄の門
雑魚鬼神達に案内されて意外と険しい道を歩く俺達。当たり前に舗装なんかされていない、砂利を踏み固めた雑な道。
そして到着したのか、なんか湖みたいなところだった。
「おい、ここ地獄と違うだろ。湖に行きたいっつったか?観光なら間に合っているんだが」
――い、いえ、ここは三途の川。湖ではありません……
ああ、そうか、三途の川か。成程納得……じゃねえよ。
「三途の川って冥界の入口じゃなかったっけ?地獄に通じる道じゃなかったような?」
――冥界は川の中州にあるような感じだな。要するに、地獄はこの川の更に向こう
虎の追記に目を剥いた。この川を渡れと言うのか!?何時間掛かるんだよコレ!!
「おい、近道は無いのか?時間食うのは勘弁だと偉いオッサン達に言った筈だが?」
――わ、我々はここにお連れするようにと言われただけですので……
超ビクビクと身を竦めてそう言った。見ようによっては虐めているように見えるのでやめて欲しい。
つか、そうなると、こいつら下っ端に文句を言っても無駄と言う事だな。
「解った。後はこっちで何とかする。お前等はここまでなんだろ?」
言ったら安堵した顔になって辞儀をして去っていく。スタコラサッサという表現が一番しっくりくるくらいだった。
――どうするつもりだ北嶋?渡し守に願い出るにしても地獄に行きつくのは時間が掛かり過ぎるぞ。ジャンプが売り切れる前に帰らればならんのだろう
「お前はジャンプの心配ばっかだな。俺の身の安全を心配しても良かろうもんだろうが」
――貴様の身の安全だと?そんなものの心配をする方が時間の無駄だ
なんなんだこいつは?家長の身の安全はどうでもいいと言うのか?
まあ、その辺は後で躾けるにして。
「お前どうにかなんねーの?」
――無論、可能だが、貴様をわざわざここに連れて来たと言う事は、貴様がどうにかしろと言う事だろう。俺に命令する事も可能だろうが、どうする?
じゃあ一番時間短縮ができる技で行こうか。
草薙を喚んだ俺。虎がやはり笑う。
――確かにそれが手っ取り早く行ける方法だな。だが、地獄の入り口程度にしてくれ。流石に一気に最深部は駄目だ。地獄の面目と言うものがあるからな
結局手順を踏めと言う事か。面倒だったら全部すっ飛ばすのも俺なんだが、邪険に扱われたらそうしようか。
そんな訳で草薙を一閃。空間の向こうにはおどろおどろしい気配。つっても俺は万界の鏡が無けりゃ感じる事も無いけども。
「よし、行くぞ虎」
返事を待たずに向こうに移る。目の前には見上げても見えん程の高い門。
――さて、どうやって開ける?案内人不在ならば普通は開ける事も叶わん。簡単にホイホイと開けられては亡者が脱走する危険があるからな
そりゃそうだ。受刑者を閉じ込める檻のようなもんだろうし。つってもまだ入り口も入り口な筈だが。
「開けなきゃ行けんと言うのなら、気合と根性で開けるまで」
馬鹿でっかい見た目木製の門に両手のひらを押し当てる。
「ふんぬああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
――力でこじ開けると言うのか。そこは貴様だな
クックと笑う虎だが、見てないで手伝えよ。
「だがこんなもん開けるのに手助けなんぞ必要ないわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ずずずず、と土煙が舞う。
――やはりその門でも貴様は閉じ込める事はできそうもないな
「笑ってないで開いたら挨拶しろよおおおおおおおおおおおおおらあああああああああああ!!!!!」
更に力を込めて押す。がこんと門が内側に開かれた。
「どおおおおだこん畜生!!ざっとこんなもんだぜ!!」
飛来に噴き出た汗を拭きながらドヤ顔で言った。いや、実際超楽勝だったし、こんな門なんぞ北嶋家の玄関扉のセキュリティーに比べたら何てこと無いし。
まあともあれ、不審者が来たと思われたようで、地獄の連中が武器を携えながら慌ててこっちに来た訳で。
「あん?鬼神だよな?」
――地獄の番人と言ったらそうだろう。貴様の貧困なイメージでも鬼が地獄で罪人を折檻する図は思い浮かぶだろう?
誰が貧困だ誰が。だが、鬼神なら冥界にもいたけども。逆に死神はまだ見て無いな。
「まあいいや、虎、事情を説明してくれ」
草薙をパチンと鞘に収めて、戦闘の意思なしを見せつけて言った。下手な言葉よりも充分理解できるだろう。
――そうか、それがいいだろうな
虎はわらわら集まった鬼神達にあれこれそうよと。そしてこう締め括った。
――事情は解ったな?ならば上の奴に話してこい。貴様等には決定する権利がないだろうからな
どよどよする鬼神達。こんな様で地獄で働いてんの?糞雑魚だろこいつ等?
「グダグダしてんじゃねーよ。ちゃっちゃと上の奴に話してこい。ぶっ飛ばされたくなかったら飲み物も持って来い」
――最後のは貴様の要望のみだよな!?
「喉乾いたんだから仕方ねーだろ」
――ぶっ飛ばすとか言っただろうが!?
「飲み物持って来たらぶっ飛ばさねーよ。だから早く持って来い。つか、そもそも地獄に飲み物があるのか?希望はコーラとかサイダーとかなんだが」
――あったら俺が驚くだろうが!!
無いって事か。ホントなんもねーんだな、冥界って所は。地獄の冥界の一部なんだろ。もうちょっと働いている鬼神とか死神とかに福利厚生を考えた方が良かろうものだが。
「つうか、折角来た客に椅子も出さないとか、礼儀がなってないよな」
――アポもなしに来た客を貴様ならどうする?
「そんなもん、追い出すに決まってんだろ」
――地獄も同じだ、貴様は勝手に来て勝手な要望を述べた挙句、飲み物を出せやら椅子が無いなら文句を言っている迷惑な客だ
そう言われるとな……確かにそうだな。これは俺が悪かった。
「おうお前等、飲み物と椅子はいいや。まず偉い人出してくれ、そいつに話すから」
自分がやられて気分悪い事は、他でやってはいけないのだ。もう充分手遅れなような気がするが。
――珍しい事もあるものだな?貴様が素直に言う事を聞くとは
「結構聞いている筈だが……」
お前の聖域になる漫画の山は誰が買っていると思ってんだ。新刊出る度にせがみやがって。
本棚を置いたのも俺だぞ。お前があんまりうるせーから仕方なくだけど。
そんな事よりもだ。
「だから、偉い人呼んでくれってばよ。時間がねーんだから」
晩飯まで帰らなければならないんだぞ。ジャンプは最悪どうでもいいとして。
――い、今連絡をしているから、少し待て
鬼神がビクビクしてそう言ってきた。何もしねーってのに、なんで怖がってんだこいつ。
と、その時、奥の方から地鳴りのような足音。ズーン、ズーンとこっちに向かって来ている。歩くたびに地面が揺れるって、どんな巨漢だ。
――
まあそうだな。部署の所長みたいなもんだろ?俺も事務所の所長だし。
そしてそいつは俺の前にやって来た。わざわざ屈んで俺と顔を合わせる。自分だこんなにでっかいんだと、暗に言っているようだが、虎だって普通にでかいから何とも思わんし、お前余暇でかいやつぶっ飛ばした事もあるし、脅威に思う筈もない。
――俺がこの等活地獄の獄長、
馬鹿でっかい金棒を肩に担いで現れたのは、浅黒い身の丈6メートル超のでっかい鬼神。これだけでも普通の奴ならビビるだろうが、こいつ、横にも広い。だが、デブじゃない。全て筋肉と言うマッチョな鬼だ。金棒もよく見ると身長と同じくらい長いし。
――等活地獄は、折衝を犯した者が落とされる地獄。獄卒の鉄棒や刀剣で肉体を寸断されて死ぬ。しかし、涼風が吹き、生き返り、同じ責め苦に遭って死ぬ。これを繰り返す地獄だ
虎の有難い解説。あのごっつい金棒も等活地獄とやらの象徴みたいなもんなんだろう。
まあいいや、兎も角用件を伝えよう。
としたところ、虎が横から口を挟んだ。
――俺の主は最高権力者を出せと言った筈だが、何故等活地獄の獄長が出てくる?
何?こいつが権限を持っている訳じゃねーのか?
「あれ?地獄っていくつあったっけ?」
――八つだ
つまり、八回同じ説明しなきゃなんねーって事?そりゃ怠い。
「おいでっかいの。お前じゃねーんだよ用事があるのは。一番偉い奴だ、間違うな。解ったらそいつ呼んで来い」
――ふん、冥府の王の連れだと思って多少の無礼は見逃してやっている事が解らんとはな。成程、小さいな。身体も頭の中も
ほほう、俺に上等こくとは、こいつ命がいらんようだな?
一歩踏み出す俺。しかし虎が前に出てさり気無く止めた。俺がやる気になった事を感知しやがったのだ。
――俺の主を愚弄するとは、貴様命が要らんようだな?
違った。虎がムカついたので自分がやると前に出ただけだった。
――地獄で鬼神と戦おうと言うのか?冥府の王も下界に長い間滞在していると判断力が鈍るらしい
デブ鬼も特に退く様子は見せず、寧ろどんど来いとばかりに金棒を突き出した。
「まあ待て虎。お前がやって勝っても当たり前だと思われんだろ。だから俺がぶっ飛ばしてやるよ。『頭も身体も小さい人間』に、何にもできずに無様に負けたらどう思うんだろうな?」
虎が俺をじろりと見る。
――貴様の言う通りだが、やり過ぎるよな?
「そんな事はない。お前よか程度は低くしてやるさ」
そんな訳でずずずいと虎を押し退け、前に出た。
「お前がどうしようもない雑魚だって改めて認識させてやるから掛かって来い」
お怒りMAXで向かってくるかと思ったが、逆に愉快そうに笑った。
――貴様の武勇伝は承知。一度心行くまで試してみたかった。地獄の獄長の立場では、それは叶わんから諦めていたが、まさか己からやって来るとは、これは僥倖!!
そう言ってでっかい金棒を突き出した。
――八の獄長を見事打ち倒して最深部まで来い。さすれば話くらいは聞いてやろう。地獄の王からの伝言だ
「なんで最初からそう言わねーんだよ。話は解らん男じゃねーんだぞ俺は。証拠に草薙はヤメにしといて、素手でやってやるから」
――貴様から最初に無礼な口の利き方をした筈ではないのか?
「それが俺のキャラなんだからしょーがねえんだよ。だから虎がわざわざ同行してくれてんじゃねーか。まあいいや、先手は譲ってやるから掛かって来い」
指で来い来いとやった。やたらと嬉しそうに笑うデブ鬼。
――ならばお言葉に甘えて、いざ参る!
あのごっつい金棒をブンブン回して、決めポーズの如く前に突き出した。力があるのは解ったから、ちゃっちゃと掛かって来い。どうせすぐに終わるんだから。
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