獄長達
ごっつい金棒は本当にごっついので超重そうだ。
それを振り被って振り下ろすのだ。重力と質量がいい感じに嚙み合ってスピードはなかなかのもん。
だけどそれでも遅い。完璧に見切ってすれすれで身体を避ける。
ズーン!とか重そうな音が響く。気持ち地面も揺れているようだ。
――避けたか。懸命だ
その金棒を担いでにやりと笑うが……
「ぶっちゃけて言うが、それお前でも重いんだろ?振り下ろしはまあまあだが、振り被りが遅いぞ。そんな隙を逃すと思うのか?」
――貴様が何度拳を振るおうが、俺が一撃でも与えたら終わる。そう思わんか?
はあ?と思った。あんな糞スピードでこの俺に当てられると本気で思ってんのかこいつ?
「頭も体も小さい人間に、ご自慢のパワーでも負けたらお前、本気で立ち直れねーと思うぞ?」
――それは、俺に力で勝つ、と言っておるか?
すんごいガンくれられてそう言われた。しかしだ。
「俺の意図が解ったって事は、速さでは万が一にも勝てる見込みは無い、と言っているよなお前?」
表情が一瞬緊張した。やっぱそうか。
「さっき先手を譲ったが、もう一度来い。ご自慢のパワーを真正面から粉砕してやるから」
来い来いと指を動かす。
――大盤振る舞いだが、それが最後の遺言になるとは思わんのか?
思うか。そのご自慢のパワーでも葛西の羅刹より弱いんだし。
その羅刹に力負けした事ねーんだぞ俺は。
「いいから来い。気が変わらんうちに。変わったら面倒くさいから一方的な残虐物語になっちゃうし」
変わっても変わらなくてもそうなるのだが、敢えてな。
――最早呆れて物が言えん。そのまま死んでも恨むなよ!!
再び金棒を振り上げたデブ鬼。腹ががら空きなのでボディに入れたら終わるのだが、宣言通りに真正面から力で凌駕する!!
振り下ろす金棒。それは俺の脳天に。
軌道も読めるほどトロイスピードが俺に通用すると思っている時点で目出度い脳味噌だが、今回はそれを敢えて受ける。
金棒が俺の頭上で止まった。当たり前だが、俺が受け止めたからだ。
――な、何!?
何?じゃねーよ。言っただろ?真正面から粉砕するって。
俺は握力のみで金棒を握った。
「このままじゃ大事な武器を取られるんじゃねーのか?」
言われて焦ったのか、金棒を引き上げるが、びくともせず。
――ば、馬鹿な!!たかが人間が鬼神を力で凌駕するなど、ある筈が無い!!
「んじゃ今の現状の説明をして貰おうか?俺は握力のみ、対してお前は全身を使っている。誤魔化さなくてもいいぞ。全身の筋肉の動きでバレバレだ。
――認めん!これは認められん!!人間に力負けするなどと認められん!!!
血管を浮き上がらせて、顔を真っ赤にして渾身の力を込めて押す。
さっきより圧が強くなったが、まだまだだ。
なので押し返す。お前は全身を使ってのMAXパワーだろうが、俺はそうでもないぞマジで。
――押し返されるだと!?そんな馬鹿な!?
「だから、そう思うんだったら、この現状を説明しろって言ってんだ」
プルプルしながら、汗だくになりながら押していたので、俺の言葉は耳に入らずか。
まあいいや。じゃあ完璧に解らせてやろうかなっと。
掴んでいた金棒を捻った。「うおっ!?」とか言って身体が流れた。
隙をついて完璧にホールドした。金棒を。
――どうするつもりだ!?
「こうすんだようらあああああああああああ!!!!」
流石に馬力を出して金棒を持ち上げた。デブ鬼ごと。
――俺の身体を浮かせただと!?
「びっくりしてねーで参ったとか言って欲しいが、どうだ?」
ニヤニヤして訊ねた。お前完璧に俺に力負けしたよなって感じで。
――馬鹿な!!そんな馬鹿な!!
金棒を持ってバタバタ暴れるから負荷が掛かっておもてーじゃねーかよ。
なのでぶん投げた。デブ鬼「うおっ!?」とか言ってたが、その次は「ぐわあああああああ!!」とか叫んだ。受け身も取れずに地面に身体を叩き付けられたんだからそうなる。
「おい。俺は暇じゃねーんだよ。お前といつまでも遊んでいる訳にはいかねーんだ。そろそろ参ったと言え」
――く、くくくく……聞きしに勝る化け物よ、北嶋 勇……だが、ここで俺に勝ったとしても、獄長は残り七人!!それを突破できると思うなよ!!
なんと見事な負け惜しみ。俺は負けちゃったが仲間が仇を取るからな!!と言っている。
まあいい、圧倒的強者にご自慢の力を真正面から粉砕されて涙目になっている小物の負け惜しみは果てしなくどうでもいい。
ならばその目で見てみろよ。負け惜しみ言ってゴメンと謝らせてやる。
俺は草薙を喚んだ。利き手にしっかりと握られた、馴染んだ感触。
――殺すのか!いいだろう、殺せ!!
「アホ。お前みたいな小物の命を貰って地獄と全面戦争になったら困るわ。神崎に死ぬ程折檻を喰らってしまうだろうが」
――地獄との全面戦争よりも神崎が怖いのか貴様は
虎が呆れたように言うが、そりゃそうだろ。こいつ等のような塵芥なんぞ何万何億
向かってこようが全く脅威と思わんが、神崎のグーはヤバいだろうが。下手すりゃ死んじゃうぞ。俺と言う個人は一人しかいないんだ。北嶋 勇が絶滅しちゃうだろうが。
ともあれ、お馴染みの何もない空間に一閃。いや、七閃。
――なあ!?
――な、なんと!?
――なんじゃあいきなり!?
空間から七人の獄長が目玉が零れ落ちんばかりになってこっちを見た。
「なんかこのデブ鬼が、自分が負けてもお前等がいるからなっ!!とか言ったんだよ。だから纏めてぶっ叩いてやるからこっち来い」
――何故ツンデレ風に言うんだ
「え?そう言ってなかったっけ?」
――捏造するな。鬼神がぽかんとしておるではないか。それよりも貴様、本気で残りの獄長全部を相手にするのか?
虎がぎろりと俺を睨んだ。
「まさか。流石にそこまで」
――勝ち抜き戦にすると?
「このデブ鬼含めて八の獄長全部半殺しにするんだよ」
――予想以上の答えが返って来た!?
お前もいい感じにリアクションするようになったなぁ。仰け反って驚く真似をして見せるとは。
「つうかお前等見ていたんだろ。このデブ鬼と俺のバトル、いや、一方的に力の差を見せつけた事を。これ以上は虐めになる。俺は弱い者虐めはホントに好かんのだ。だが、お前等全員束になったらそこそこは勝負に……なる訳ねーか」
これは反省せねばならない。どう転んでも弱い者虐めになるじゃねーか。
「くっ!己の才能が恨めしい……そして慈愛に満ちた優しさも恨めしい……」
がっくり膝をつく。俺がもっと弱くてもっと非情だったら良かったのに……っ!
――貴様の訳が解らん苦悩は兎も角、獄長共の怒気がえらい事になっているのはいいのか?
虎が進言するが、別に?全員で向かって来いっつったのは俺だし。
「まあいいや。兎も角、虐めになるがしゃーねーだろ。ハンデとして草薙は使わねーから、遠慮なく掛かって来い」
――貴様の強さは噂で聞いた。剛鉄を力で圧倒したのも見た。だが、我等全員と剣も無しに戦うとは本気で言っているのか?そうならば、貴様はただの馬鹿だ
髭のジジィが充血したような目を向けてそう言う。
「別にタイマンでもいいが、時間の無駄だって話だ。俺は忙しいんだ。お前等程度の雑魚にこれ以上時間を取られたくないのが本音だな」
――傲慢すぎるぞ人間!!舐めた口を叩くのは儂を倒してからにして貰おうか!!
銀髪長髪のジジィが勢い良く立った。さっきのデブ鬼よりも身長が高い。
「まあいいけど。じゃあ来い」
見上げて来い来いと指を動かす。
――参ったは聞かんぞ小僧!!
なんか三国志に出て来そうな薙刀のごっつい武器を俺に向けた。殺気をビンビン発しながら。
「これなんて武器だ?意外と重そうだが」
――貴様青龍刀も知らんのか!!
「知らん。これって大事なもんか?」
――何を聞きたいんだ!!
「いや、大事なもんならぶっ壊すのは悪いかなって思って」
ビキビキと額に血管が浮き出た銀髪長髪のジジィ。
――殺してこのまま地獄で後悔させてやる!!
青龍刀だっけ?まあ、長尺武器を頭上に掲げてくるくる回す。そのまま突いた方が速いと思うが、この手の類はそんな真似をして見せて、敵が大人しく待っていると思っているのか?
まあ、がら空きの胴体に一発ぶちかませば終わるんだが、俺はお願いに来たのだ。『接待』は必要だろ。
なので満足するまでくるくるさせる。欠伸を噛み殺しながら。
――どうした小僧!!掛かって来ぬのか!!
何?やっても良かったの?なんかの力を鼓舞したかったんじゃないの?
せっかく気を遣ってやったと言うのに、向こうが俺待ちだったとは。カウンター狙いだったとか?
んじゃまあ、ご要望通りに。
ダッシュで間合いを詰める俺。銀髪長髪ジジィが目を剥く。
――速い以前の問題!!貴様、まさか縮地の使い手か!?
なんだそれ?お前がトロイだけじゃねーの?
まあ、ともあれ、難なく懐を取った訳だ。股間が目の前にあるから金的を狙えば終わるが、絵面がちょっとアレだ。
跳んで胴でもいいし、このままローでもいい。要するにどこもかしこも楽勝で狙えるって事だ。
――待て、北嶋 勇
別の鬼神(獄長)が待ったをかける。普段の俺なら関係なくぶっ飛ばすのだが、何度も言う通り、俺はお願いに来ただけだ。戦いに来た訳じゃない。喧嘩売りに来たと思われようが、向こうが見極めだろうが、試練だろうが、それはただお願いを聞いて貰えるか否かの条件提示をしただけなのだ。少なくとも俺はそう解釈している。
なので普通に脱力した。面食らったのは銀髪長髪ジジィ。
――確実に一撃を与えられたにも拘らず、待ったに応じるのか!?更に言えば儂が今攻撃に転じるやもしれぬのに、脱力するのか!?
「お前如きじゃ俺に一発も与えられんし、別に今やらんでも、再開と同時に一瞬で葬るから別に?」
正直に発したら銀髪長髪ジジィの怒気が思い出したように湧いた。お前、今の今まで俺に『飲まれていた』よな?その事実、忘れたのか?
まあいいや、待ったをかけたのはこいつじゃない。仙人みたいな長い髭のジジィだ。こいつ等鬼神だから角があるんだが、角は仙人に似つかわしくねーな。仙人じゃないからいいのか。
――
――この儂が簡単に一撃を貰うとでも思うか
「いやいや、お前の懐簡単に取っただろうが。お前自身もびっくりしてただろ。今更虚勢を張るな」
――こ、小僧が……!!
目を充血させて睨むが、図星を付かれたからと言って逆ギレは良くないだろ。まあ、俺は寛大だから許してやるが。
「んで、止めた理由を教えてもらえるんだろうな?まさかこのジジィが無様にやられるのを阻止するためだけ、じゃあるまい?」
――貴様は本心を少し隠せ
虎が呆れるが、本当のことを言えば逆ギレすると言うアレだな。
――改めて、私は胡帥。貴様が先ほど戦ったのは浄貴、そして……
「ちょっと待て。戦ってはいないだろ。お前の目ん玉はビー玉なのかジジィ」
――だから本音を隠せと……
「本音つうか事実だろうが。捏造させるよりも遥かにマシだ」
――そうか。その通りだな。貴様の言う通り、地獄の獄長として嘘はいかん
素直に謝罪するとは、このジジィへの好感度はちょっと上がる。ジジィに対して好感度も何もだが。
「まあいいや。んで?」
――貴様の弁では私達が全員で掛かって来ても勝てる。そう言っているように聞こえる
「そう言っているつもりだが……」
前半全員で掛かって来ても勝負になんねーなと言ったじゃねーかよ。ビー玉の上に耳まで遠いのかジジィ。
――凄い自信だが、それが真実として、私達は王に言われたのだ。貴様を試せとな
他の獄長共の目配せすると、全員静かに立った。
要するにこう言う事だ。
「全員無様に地べたに這いつくばれば満足するって事だな。それでいいぞジジィ共、ついでに自慢の力を楽勝で凌駕されたデブ鬼、お前もリベンジで掛かって来い」
指で来い来いとやった。怒り心頭なのは青龍刀のジジィとデブ鬼。他のジジィ共は気を鎮めて集中している。こいつ等も一応解っていると言う事か。俺が超絶にスゲーナイスガイだと言う事がと言う事が。
――北嶋、草薙は使うのか?
「いらん。試したいんだろ?お偉いさんに言われて。だったら存分に試させてやるよ」
――そう言う事を言っているのではない
虎が怒りを孕んだ瞳を俺に向けるが、油断すんなって事だろ?解ってるって。多分。
――草薙ならば一撃。早く終わると言う事だ。ジャンプが売り切れる前に帰れる
「そっちの心配かよ!!俺の心配は無いのか!!」
さっきからジャンプの心配ばっかじゃねーか!金やるから自分で買って来いよもう!
――貴様の心配なんかしても得などない。対して遅く帰る事になったらジャンプが売り切れて俺が損をすることが必至
お前の損得勘定はどうでもいいよ!つか、簡単に売り切れねーよ!どこかのコンビニに必ずあるよ!
――もういいか?ついでに自己紹介と行こうか北嶋 勇。俺は
超長い槍の切っ先を俺に向けて名乗った。
――
さっきの髭ジジィと同じくらい長い髭。だけど青色だ。血の巡りが悪過ぎだろ。
――力なら儂も少しは自信があるぞ。この硬便は見た目よりもずっと重い。この
ハゲ鬼が見た目ただの鉄の棒を構える。つうか逆だ逆。当てられるのか?この俺に?
――
角がいっぱいある褐色の鬼が残念そうに言う。そんなもんで草薙とやれると思っているのが滑稽すぎるが、敢えて口には出さん。俺は揉め事を嫌うからな。
――
ジジィが二対の鉄扇を構えるが、お前が舞うの?絵図をちょっとは気にして欲しいが。
「まあいいや、自己紹介も終わっただろ。じゃあまとめてかかって来い、雑魚共」
――ならば遠慮なく!
鉄扇ジジィがふよふよ舞いながら接近してくる。読み切れんような舞だが、それは俺以外だったらの話。
んじゃ、ちゃっちゃと済ませて偉い人を引っ張り出そうかなっと。
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