第4話人物像

 柏木と放課後デートでいくつか気づいたことがある。まず気遣いができると言う点。僕がどう初デートと言うこともあって色々と戸惑っていると、彼女は率先っして僕の手を引いてくれた。

 本来なら男の僕がエスコートをしなければいけないはずなのに、こんな不甲斐ない僕のために彼女はものすごく気を使って僕が楽しめるように振舞ってくれている。

 そのことがなんだか申し訳なく感じてしまう。ほんと、なんで僕なんだろうとか……余計な雑念が脳裏をよぎる。でもそのことを考えるのは無意味だ。

 僕があの人ことを好きなように、彼女もまた僕のことが好きなのだから。

 好きになる相手は選べない。そもそも好意なんてものは意図して抱くものではない。気づけば好きになっていた、もしくはふとしたことがきっかけで好きになる。

 きっかけは様々だ。だから彼女と同類の僕が、彼女の意中の相手として選ばれたのだろう。

 そして次に気づいたこと。それは彼女が優しいってことだ。普段あまり柏木のことを観察しないからよく知らなかったのだが、彼女は優しい。自分の損得にかかわらず他人に優しくできる人間というものは、案外少ないものだ。

 世の中打算的な人間ばかりの中、彼女はそんなことに囚われず他者に優しくできる心を持っていた。

 先ほども、親とはぐれて泣いていた子供がいたのを見かけた柏木はその子の親が見つかるまで面倒を見ていたし、キョロキョロと切符売り場の前で困っている様子の老人に声をかけていた。

 もしかしたら僕にいいところを見せようとして、率先して困っている人を助けているだけなのかもしれない。そんなことを思ったが、僕がトイレに行っている間にも道に迷っていた人に道を教えていたし、多分それが彼女の素なのだろう。

 いつもこんなに人助けを行なっているのか? そんなことを疑問に思い、話題づくりのきっかけにでもなればと思い質問してみた。


「柏木さんってさ、いつもこんな感じで人助けしてるの?」


 気になったことをそのままストレートに聞いた。僕の質問に柏木は。


「うーん……。まあ困ってそうな人がいたら、私は積極的に声をかけるようにしてるかな?」


「なんで? 助けても見返りがあるわけじゃないし、それに柏木さんって人見知りじゃないの?」


 僕は彼女に質問攻めをする。それでも嫌な顔をせずに柏木は返してくれる。


「んー損得で助けるか助けないかを考えたことはないかな。あと私って初対面の知らない人になら話しかけられるんだよね。もう関わることないし、気が楽だからかな?」


「それは……立派な志だね!」


「はは……なにその言い方。皮肉?」


「ちが……僕は別に、柏木さんってその……すごいいい人っていうか、今日のデートで柏木さんの本当の姿を見れたっていうか……あの、ごめん、なんか僕変なこと言ってる」


「別に変なことじゃないよ。私、今沢木くんに褒められた。だから今まで人にいいことしてて良かったって思った」


 気づけば僕たちの間にあった壁のようなものは取り払われていた。ついさっきまではお互いどこか気を使って会話も途切れ途切れになっていたのに、今では軽口を叩けるぐらいには仲が深まっていた。

 好意って案外簡単に移るものなんだな。長い前髪で隠された彼女の瞳を見つめながら、そんなことを思う。






























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