第2話告白
いつもと変わらない日常を、今日も送るものだとばかり思っていた。普段と変わらず流れ続ける世界に、僕は順応していたから。平然と何事もなく、誰とも関わることもなく、ただ空いた時間に彼女の背中を眺める生活がこれからも続いていくものだとばかり思っていた。
そう……今日までは。
「あ、あの。
後ろの席の柏木から、手紙を渡される。
「あの……これは?」
渡されたものに疑問を抱き、僕はきょとんとした様子で柏木に問う。柏木は頬を若干赤らめながら、小さな言葉で。
「か、帰りのホームルームが終わったらその……読んで……ください」
なぜだか敬語の彼女に、ますます疑心を抱く。もしかしてラブレターか? 今時そんな告白の仕方をしてくる人がいるとは思えないけど、柏木ならしてもおかしくないと思った。
「わかった」
僕は一言その言葉を放つと、また時計を見るふりをして彼女の背中を眺める。それから帰りのホームルームが終わり、クラスからほとんどの生徒がいなくなるのを確認すると、僕はおもむろにさっき渡された手紙を開ける。
中を開けてみるとそこに書かれていたのは「この後校舎裏に来てください」という呼び出しの手紙だった。
もしかして告白か? 心臓の鼓動が早くなるのを確認する。今まで勘違いはしないと心に固く誓っていたが、今回のこれはさすがに勘違いではないのではないか。
僕と柏木にはそれほど多くの接点があるわけでもないし、でも好かれていると感じることはたまにあったけれど……。
ごちゃごちゃと考えたところで何かが解決するわけでもない。とりあえず校舎裏にいってから考えよう。
重い腰を上げ。下駄箱に向かって歩き出す。下駄箱で革靴に履き替えると、僕はキョロキョロと周りを確認して校舎裏に向かう。そして、校舎裏で待っていた彼女と対面する。
「あ……と、待った?」
「え? いや、呼び出したのは私だし、それにもう生徒はほとんど帰ったからちょうどいいし……」
小さな声でそんなことを言ってくる。
「あの……沢木くん。それで、こんなところに呼び出した理由なんだけど……」
柏木は何か決意したような眼差しを向けてくる。いつもは目も合わせられないほど恥ずかしがり屋なのに、今日は僕の瞳をしっかりと捉えている。
大きく息を吸い、それを吐いてまたそれを繰り返している。深呼吸して多少落ち着いたのか、ズサっと歩幅一歩分僕に近づくと。
「沢木くん。あの……その……好き……です……」
僕に向かって告白をしてきた。よっぽど緊張したのか、柏木の頬はものすごく赤く染まっていて、その赤い頬の上に汗が滲んでいる。さっきまで合っていた目も今は下を向いているし、指先は制服のスカートをぎっちりと掴んでいる。
怯えるようなその姿を見て、罪悪感を感じる。早く答えを出して上げないと。
そんな焦りを感じる。でもなんて言おう。僕には他に好きな人がいるから無理と断るべきか。でも今後二度と僕なんかに告白してくれる人なんて現れないかもしれない。
これが最初で最後のチャンスかもしれない。この機会を逃したらもう一生恋人なんてできないかもしれない。
様々な不安が僕を襲う。焦燥感の中、僕はゴクリと喉を鳴らして返事をする。
「うん……いいよ」
僕に断るなんて選択は
平和主義者……ってわけでもない。傷つけるのが怖いだけだ。だって僕は、傷つけられるのが怖いから。
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