二股

ラリックマ

第1話視界の片隅

 ふと気づけば目で追っていて、いつも付き合っている妄想をする。彼女はきっとこんな人で、こういう趣味があって……。

 いつからだろう……こんな思いを抱くようになったのは……。

 高校一年? それとも2年? 

 彼女とは二年間同じクラスだ。だから、いつから好きになっていたのかわからない。

 ずっと好きだったような気がするし、最近好きになったのかもしれない。好きになったきっかけなんかもない。

 ただ、なぜだかわからないが彼女が目に付く。他の男子生徒と話している姿を見ると嫌な気持ちになるし、笑ったりした怒ったりした素振りを見ると可愛いなって心の中で思う。

 本当になんでだろう……。顔が可愛いから? でも顔が可愛い人なんて他にもいっぱいいるのに、どうしてこの人なんだろう? 

 なぜ僕は彼女を特別視しているのか。そんなことも自分ではわからない。この平凡でつまらない僕の人生に、なぜだか突然一輪の花が咲いた理由を僕は知らない。

 話したいと思う。付き合いたいとも思う。隣で笑ってほしいなって思う。でもそれは叶わない。それは僕の17年の人生からくる経験則だ。

 僕には社交性もないし、積極性もない。仲良くなりたいと思ったからといって、それを行動に移すわけでもない。ただ、僕の視界の隅で笑っていてくれたらいい。だから僕は今日も行動に移さずに、時計を見るふりをしてその視界の隅に映った彼女を見続ける。

 もうすぐ朝のホームルームが始まる時間だ。時計から視線を外し、僕は一限目の教科の準備をしようとする。机の中をガサゴソと漁り、国語の教科書を手に取る。そんな時だった。


「お……おはよ」


 ひときわ小さな声で、挨拶をされる。その声の主は、多少声を赤らめて僕の机に視線を向けていた。

 長い前髪に隠された大きな瞳は、僕の机に目を向けた後、右、左、上、下、と色々な方向に視線がいっている。目だけみるとだいぶ挙動不審だ。

 そんな彼女に僕は、彼女の目を見て。


「おはよ、柏木かしわぎさん」


 なるべく笑顔を意識して、挨拶を返す。すると彼女は挨拶を返された安堵からか、ホッと一息ついて僕の後ろの席に座った。それから柏木は、僕の肩をチョンチョンとつついて。


「ねぇ、今日って何か宿題あったっけ?」


 と、そんな質問をしてくる。この質問も毎日受けている。僕なんかじゃなくて周りの女子に聞けばいいのにとかそんなことを思ったりするけど、僕はそこで邪険にしたりせずに答える。


「えーっと、今日は数学のプリントが宿題じゃなかったかな」


「そ、そうだった。ありがと」


 そうして僕たちの会話は終了する。この流れももう一ヶ月ぐらい続いている。席替えしてからというもの、僕は柏木に毎日この質問をされている。もはや習慣となりつつある。

 どうしてこんなことを毎日僕に聞いてくるのか。もしかしたら僕のことが好きなのだろうか?

 なんて、思春期男子にありがちな勘違いをしてみる。人から好かれる人間なんていうのは、少なからず人に好かれる魅力を持っている者。

 僕のようになんの取り柄もない暗い奴を好きになるやつは、この世に存在しないと断言できる。中学の時それを痛いほど思い知った。挨拶されただけで自分に好意を抱いていると勘違いして、裏で陰口を言われるのはもうこりごりだ。

 だから今日も僕は、憧れていて好きなあの人を視界の隅に捉えながら一日を過ごす。



























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