よくある日常

みこ

よくある日常

 試験が終わると、試験休みに入る。

 教室内は騒ついた。

 俺も後ろを振り返り、友人のカナタに話しかけた。

「国語どうだったよー?」

「聞くなって」

 とか言いつつ、不敵な笑みを浮かべているあたり、悪くなかったんじゃないのか。

「それよりさー、お泊まり会しね?」

「は?女子かよ」

 ってついツッコミを入れてしまったけど、ちょっと楽しそうだ、とか思ってしまったのだ。

 それからいつメン4人になって、話し出したらやろうってことになった。夜中映画見ながら菓子食って、ってのは、まあ、試験終わりには魅力的だった。

 親にメッセージを送ったら、意外にもOKだったので、うちでやることになった。


「勝負下着はいてきてね♡」

「もちろん♡」


 茶番劇を横目で見つつ。


 家に帰ると、鍋の準備がしてあった。

「あんま気にしなくていいのに」

 言いながら、見栄はっていつもより二段階くらいいい肉が用意してあるのを見つける。まあ、たまには悪くないか。

 1時間もすると、みんなが家に集まった。着替え……持ってるやつがいないのはどういうことだ。

 自室に鍋と食器やら何やら持っていって、気づいたら鍋パを満喫していた。もっと大騒ぎになるかと思ったのに、意外と皆ちゃんとしてる。

「いいのにそんな」

「いいっていいって」

 マナトは使い終わった食器を片付けてくれてるし、カナタはテーブル拭いてくれてるし、リクはもう台所で母親を手伝いながら楽しそうにお喋りまでしている。

 友達の意外な一面、ってやつ、か。

 なんかもう皆大人なんだなって思いながら、部屋に戻るとすでにゲーム大会が始まっていた。

「勝手に出してんなよ〜」

 とかいいつつ、いつも通りなところがちょっと安心、なんて。


 ゲームして、菓子食いながら、結局、想像以上に健全ないつも通りの集まりだった。


「なあなあ、恋バナないの」

「ねーだろ」

「映画見ようぜ〜」

 すでにベッドでうだうだしているリクが、リモコンを持ち、配信サイトで映画の物色を始める。

「やっぱエロいやつ?」

「いや、男と見てどうすんだよ」

「お、これは?なんかかっけー」

 なんてカナタが見つけたのが、ミステリー……それもフランス映画だった。

「あー、なんか大人っぽくていいんじゃない?」

「吹き替えがいい」

 口々に適当なことを言って、結局それを見ることになった。大人っぽいものがいいなーなんて思ってたのは俺だけでもなかったのかもしんない。

 俺とカナタが小さいソファに並んで座った。リクはもうずっとベッドの上を占領してるし、マナトはソファの前で寝そべっている。

 最後までもたなそうだな。なんていう100人が100人そんな推理をする状況で、映画を見始めた。


 映画はやっぱり静かな雰囲気で進む不思議なものだった。

 最初は「え、何今の」とか騒ぎながら見てたものの、次第に皆静かになる。

 ソファの前から聞こえていたポテチを食べる音もやんだ。ベッドのリクも寝てるのかと思ったけど、意外とみんなじっと映画を堪能していた。

 と、思ったその時。


 コテン。


 初めからずっと、じっと見ていたカナタの座っていた側の肩に、何かがのしかかってきた。

 え……っ。

 肩を見ると、予想通り、カナタの頭がそこにあった。

 寝て……るのか。

 そういえば、英語の勉強してたら寝損ねた、なんて言ってたか。

 え……っと。

 残りの二人はけっこう真剣に映画を見ていて、こっちの状況に気づきそうにもない。

 よか……った。いや、関係ないし。バレても困らないし。いや、困るか?男同士だし、別に……。え……。あ、いや、これって?え……っと。

 ドギマギしてしまい、そんな自分にドギマギしてしまう。


 ただ、そんなのは一瞬で、カナタはウトウトとしながら頭をあげ、結局ソファの背もたれに頭をあずけ、寝始めた。


 あ…………。あー……………………。


 カナタの方をじっと見たけれど、もう肩に頭が乗ることはなかった。


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