第33話 アキバ名物――ドキドキ☆どろけいグランプリ!!
◇◇◇
という訳で例のモブ三人組をぼっこぼこのぼこにして路地裏に放置したわけだが。
しのぶを抱えるようにして現場を走り去ること十数分。
わたしとしのぶは絶賛、アキバ開催ドキドキ☆ワクワクどろけいクエストの真っ最中だった。
弾む息づかいに合わせてしのぶの怒号がアキバの街に響き渡る。彼女いわく――
「なんでいっつもこうなるのよ!!」
それもこれも予想以上に早く現着した警官たちの所為だが、今更文句を言ってはいられない。
風を切れば通行人が何事かという顔でわたし達を見ていた。
そもそも――
「あれだけ派手に啖呵切っておいて敵前逃亡とか馬鹿じゃないの!? なんであたしまで逃げなくちゃならないのよ。完ッ全に巻き込まれじゃない!!」
ジタバタとわたしの肩に担がれる形で暴れるしのぶ。
ろくに動く体力もないくせに元気なことだ。
まぁその訴えは一応正論なので、わたしもそこをつつかれると痛いのだが、
「しょうがねぇだろ、お家柄つい反射的に逃げちゃったもんわ!! 今更戻っても、わざわざ捕まりに行くようなもんだろうし、それはお前も困るだろ?」
「だからってあたしまで連れていく必要ないじゃん!! あたし被害者、アンタ加害者。あたしぜんぜん関係ないじゃん!! 何だったら、あの変なモブ顔みたく警察ともども敵に回すくらいの気概見せないさいよ!!」
ばっかお前。いくら腕に自慢があたってサツにパクられたら終いなんだぞ!
サツが来たら問答無用でバックレる、これ常識だろうがッッ!!
「だからさっさと捕まっちゃえって言ってるの!! そもそも何よお家事情って、助けに来るならもっとまともな助け方なかったわけ!?」
たしかにそれはごもっともな意見だが、世の中、漫画やアニメみたいに都合よく解決するわけがないのはこの二十年とちょっと生きてきたわたしが一番よく理解している。
そもそも、そんなことできたらわたしは今頃オタ活極めてるわ!?
走りながら「脳内お花畑か!!」とツッコミを入れれば、アンタだけには言われたくない!! という言葉が返ってくきた。
その怒声と珍妙な格好で走り去る二人組に周りは何事かと、わたし達に注目するがそんなことに構ってる余裕はない。
ズキズキと肋骨は痛むし、いまだ後ろから飛んでくる心臓に悪い男たちの声に鷲掴みされる思いだが――ああもう、しっつけぇな。
そんなんだから過労社会だなんて言われるんだぞ!!
「ったくこのままじゃ埒が明かねぇ。おい、しのぶ……ちょっとばかし派手に逃げるけど舌噛むんじゃねぇぞ」
「え、ちょ、アンタなにする――ってきゃあああああああああああああああああああッッ!?」
身を翻すように路地裏に逃げ込み、しのぶを頭上高く放り投げれば、
劈く悲鳴を身体で感じながら両足に魔力を通して筋肉にブーストを掛ける。
幸いにも壁との距離は十分開けているので、これなら何とかなる。
そのまま壁蹴りの要領で路地裏のアスファルトをジグザクに駆け上がれば、空中に頬りだされたしのぶの身体を片手で回収する。そして――
「し、死ぬかと思った……」
と絶望に顔を強張らせるしのぶを小脇に下ろせば、どこか感情の抜けたような情けない息づかいが聞こえてきた。
「ふーっ、ギリギリセーフってとこだな」
どこぞへと走り去っていくサツの後姿を頭上から眺め、額の汗を袖で拭う。
どうやらわたし達が消えたと勘違いしたのか。見当違いの推論を話し合い、明後日の方に走り去っていく警官たちの姿が。
道中監視カメラもなかったし、顔も見られてないのでおそらく逃げおおせたのだろう。
まったく引っ越し早々、即逮捕とかホント冗談にならないからやめてほしい。
「まぁ結果オーライ。面倒な連中から無事撒けたみたいだし、万事解決だなしのぶ」
といって枯れ木のような背中を叩けば、その場で四つん這いになりながら下界を見下ろしていたしのぶから鋭い抗議が耳元に炸裂するのであった。
◇◇◇
ここ最近走ってばっかだったが、サツとのドロケイなんてのは久しぶりだ。
凛子には『彼女が無事なら自由にしろ』と言われているが、今回ばかりはハシャぎすぎたかもしれない。
まぁここは一つ。不健康な身体を動かすためのアグレッシブな準備運動ということで納得してもらいたいところなのだが――
「なんだよ、まだいじけてんのかお前」
どうやら壁を駆け下りた先は、どこぞのアニメカフェだったらしく。同志の諸君が目を皿のようにしてわたし達を見ていた。
だが、さすがはオタクの街。
「サプラーイズ」と言ってごまかしが通用する辺り、ほんとこの街はノリとテンションに人生を捧げて生きている奴が多いらしい。
おかげで怪しまれることなくイベントカフェに参加することができた。
そうして腰の抜けたしのぶをゆっくりと備え付けの長椅子に下ろしてやれば、緊張が解けたのか。突然しのぶの身体がぐらりと横に傾きだした。
「おっと、大丈夫か」
「……うっさい、触らないで。……脳筋がうつる」
「んだとゴラ!? 誰が脳筋だ!!」
払われた手をプラプラと遊ばせ、メンチを切るように顔を近づけるも反応が薄い。
さすがにガキを抱えての全力疾走は負担が掛かったが、子供には少しだけ刺激が強すぎたらしい。
まぁ紐なし高い高いからの、空中クレーンはさすがに素人には厳しすぎたか。
というわけで――
「ほれお前の」
「――ん」
頭の上にスポドリを乗っけてやれば、やや虚ろな目をした動く屍が無言でそれを受け取り、すぐさまキャップをひねり、煽るように口をつけてみせた。
どうやら相当喉が渇いていたらしい。
ごきゅごきゅと喉を鳴らして、身体の中に水分を補給すると「ぷはぁー」と女の子が出しちゃいけない声が飛び出してくる。
そうしてようやく周りを見る気力が戻ってきたのか。
きょろきょろと居心地悪そうにあたりを見渡し、やけにホクホク顔なわたしの表情を見ると、あからさまに大きなため息が聞こえてきた。そして――
「で、ここは?」
ともはや諦めの境地に達したような顔でそんなことを聞いてくるのであった。
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