第十五話


 ────拮抗したこの状況。正面にはあいつの顔。直視はしない。唯このナイフの切っ先の方向を観るのみ。

見定めろ。

此処で離れるのは上策ではない。

離れればあの俊敏さの餌食になる。

どう出る────

押し切ってしまえば向こうから間を取られる。

力を少し緩めて次の手を読む。

俺の刃が上、向こうは下。上へ弾いて間を取るか、ナイフを身体ごと横へ引き、俺の体勢が崩れると同時に横から切りかかってくるか。

数秒が長い。

さぁどうする、俺────

 強化アップの効果は体力消費のカバーや筋力の増強により、これ以上放出するなら恐らく残り1、2発の攻撃分しか残っていない。しかしそれもこれ以上カバーに当てていては尽きてしまう。

こいつの生命エネルギーを奪うのは可能か?いや村人のエネルギーまで吸収してしまう。不可能だ。

 ────答えは、決まった。


「………ふぅ」


息を整える。

死ぬかもしれない。この一瞬、気を抜けない。タイミングを合わせる。


強化アップによる常時体力消費及び筋力増強の援助サポート……オフ!!!」


 一気に力が抜け、押し負ける。

ガラガラと体勢が崩れ、目のすぐ前にナイフが交差しているという恐怖と仰向けになって地と並行にさせられていくのを感じる。

強化アップがなければ俺はか弱いのだということを思い知らされる。

劣等感など無い。

唯、このひ弱な力をありったけ、ナイフを持つ右手に込めるだけ。

そうしなければ、死ぬ────

タイミングを見計らう。

────────今だ!!


「はあああああああああああ!!!!」


ナイフを思い切り右へ振る。

強化アップの効果はあと1発の攻撃で使用可能域を超えてしまう。でも今はそんなことを気にしている暇はない。

相手のナイフの太刀筋が変わったことを確認し、ナイフからすっと手を離す。俺は背骨を反らし手を地面に着ける。空へ向いている脚を此方へ持ってくる。

一回転、二回転、三回転────

俺はあいつから距離を取った。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 強化アップ援助サポートを切ったせいか疲れがひどい。


「大丈夫!?ななし!!」


ルーシャが隣にいた。


「あ、あぁ……」


「馬鹿じゃないの!? なんで強化アップの常時援助サポート切ったのよ!? 通常の力であんなやつに敵うとでも思ったの!?」


 ────そうじゃない。決してそうじゃない。

 そう思うような奴はきっと勇者か、愚者かのどちらかだろう。

俺はそのどちらでもない。あいつに能力なしで勝てるなんて、思っちゃいない。


「ふっ……思ってないさ。俺には考えがある」


「考え……?」


 ああ、強化アップの常時援助サポートを切ったのは死ぬためじゃあない。

完全なる、最強の一撃をお見舞いするためだ!!!

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