第十四話

 似合わず幽体化していたルーシャが姿を現した。


「私達はお話しするために来たの。そうでしょ? ななし。」


 ああ、その通りだ。何も取って食おうなどとは最初から考えていない。ルーシャから視線をそらす。


「俺たちは……」


───────!!


 咄嗟にルーシャを突き飛ばす。

────来る。

何かが来る。

避ける。

なんだこれは。ルージュの滴を撒き散らして、それは登場した。

右手にナイフを装備する。

右に振る。

当たらない。それは駆け、回る。

闇の光を喰らう如くに速く────

後ろの闇に向かって振る。

当たらない。

前方に刺突。

当たらない。

右に切り上げ。

当たらない。

後ろ、当たらない。左、当たらない。前、当たらない。右、当たらない。当たらない。

埒が開かない。

 なんだ、何が起こっている。お前は何者だ。鋭利な凶器を此方へ刺突される。直感で躱す。

それはグルグルと俺の周りを廻りながら360度から攻撃を放ってくる。

右からの蹴りを躱す。

……っ!! 侮った。後ろからの蹴りが俺に入る。痛みが襲う。体勢を崩す。

左からのナイフが来るのをギリギリで下へ避ける。

姿を見せろ。道化ピエロ!!

すぐさま立ち上がり整える。

……神経を集中させる。

今お前がいるのは、俺の左の死角。二秒後には俺の正面。

1……2……

此処だっ!!

片方の脚に確かに力を入れ前へ跳び、

振り下ろす────

 火花が散る。当たった。ナイフとナイフが交差している。いや今はそんなことどうでもいい。

俺はこれの風貌を見る。

禍々しい。身体にはびっしりと黒や紫の羽。その羽の隙間から少し垣間見える肌には刻印、呪文字がすべてを埋め尽くしている。

……血だ。

 ────こいつ、身体に羽を生やしてるんじゃない。羽を身体へ突き刺してやがる。丁寧に一枚一枚。動くたびに羽に身体なかを抉られて、羽の付け根から血を吹き出しているのか?間違いなくその仮説は当たってしまった。よく見ると血溜まりが出来ており、その上から新たなルージュの滴が吹き出している。

頭は、頭はどうなっている。

 ……悶絶した。鳥だった。白鳥や、幸せの青い鳥という類では勿論無い。しかし、椋鳥や鴉といった類でも無い。

唯、汚く。唯、醜い。それだけだった。

顔も身体と同様、羽を移植させられ血が出ている。違うのはクチバシらしき物が口に縫い付けられているという点のみ。

吐きそうだ。

臭いと見た目の醜悪なこと。

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