第七話

 オレたちは出来る限り遅いスピードで王を探す為、走り回っていた。と言うのもオレが全速力で走ると、

 1、ヴィオラが王を視認できない。

 2、ソニックブームで街が大変なことになる。

と言うことが起きてしまうのである。前者はともかく後者は始末書どころでは済まないのだ、下手をすればゴールドスタインのオッサンとアルボイド騎士長にぶち殺される。

 捜索を始めて約10分、王は未だ見つかっていなかった。オレたち以外のペアも手掛かりすら発見出来ていないらしい。


「見つけたか? ヴィオラ」


「見つけてたら合図するわよ。集中してんだから邪魔すんなカス」


 オレはそう言われて「そりゃあ悪うござんしたね」と返した。ちなみにカスと言われたのは捜索を始めて5回目だ。ついでに言うとゴミと言われたのは今までで7回だ。さらに言うとクソ野郎と言われたのは現在の時点で3回だ。もっと言うと罵倒された回数は合計で30回だ。

 これ以上罵倒されてはオレも集中力が持たん。黙っておこう。


 さらに走り続けて5分、城からかなり離れた森林に入ったばかりの頃にヴィオラから肩を必要以上に強く叩かれた。肩を叩くと言うのは王を発見した時の合図なのだが、どう考えても力が強い。ただの嫌がらせだろうか?


「王を見つけたのよ! さっさと止まれバカ!」


 そう言われ、オレは右脚を地面に突っ込み、ブレーキ代わりにして走るのを無理矢理止めた。急に止まったせいでヴィオラは慣性により吹っ飛びそうになったが、オレの頸に腕を回してそれを防いだ。


「グヘェ!」


 マジで死ぬかもと思うほどにヴィオラの腕はオレの頸に食い込んだ。首が締まると言うよりは、首が千切れると言う感覚に近い。


「殺す気か! このアイアン・メイデン!」


「そんなこと言ってる場合か! 九時の方向、約100mよ、早く行け!」


 オレはヴィオラの指示に従い、体勢を立て直し、方向を転換して再び走り始めた。100mなんて大した距離でもねぇ、スグに着く。


「ところでさっきのアイアン・メイデンってどう言う意味かしら?」


 ヴィオラは後ろからオレに尋ねた。……王の保護の方が優先だよな、無視しよう。



 指示通りの場所に到着するのに要した時間は5秒とかからなかった。周囲を見渡すと、オレは目の端に1人の少女を捉えた。王はスグに見つかったようだった。

 王は森の中で、鳥や動物、蝶と戯れていた。歳が7つの少女と言うこともあり、その画はとても幻想的であった。

 王はこちらに気付くと、しまった、と言う顔をして逃げようとしたが、自分の足に絡まって転んだようだった。






「こちらヴィオラ=K=ロペス大尉。城から1km程度離れた森林で王を発見。早急に騎士長に報告されたし、どうぞ」


『了解した。場所の詳細な座標を求む、どうぞ』


 ヴィオラは王の発見を報告しているようだった。トランシーバーなんていつの間に準備してたんだろう。まぁ、報告って色々面倒なことが多いからアイツに任せるに越したことはない。


「ラースの指示でわたしを捕まえに来たの?」


 王はオレの顔を見て言った。オレは王の顔から目を逸らして「はい。騎士長の指示です」と返した。


「ラースめ……余計なことを……」


「しかし、アルボイド騎士長は陛下の身を案じて……」


 オレがそう言いかけると、王は深い溜息をついて、「そんなの今まで何回も聞いたし」と言った。なんだよ、この説得今まで何回も使われてるのかよ。


「わたしはまだ帰りたくないのです。上手く誤魔化してはくれませんか?」


「無茶言わんでくださいよ陛下」


「むむ……あ、そうだ! 名前教えてよ、給料増やしたげるから!」


「え? マジですか?」


 オレがそう言うや否や、ヴィオラはオレの頭をグーで殴った。ゴッと言う鈍い音が森に響く。


「痛ってぇ! 何もグーで殴ることないだろうが!」


「黙れ。金で釣られそうになったヤツに文句を言われる筋合いはない」


 それとこれは別の問題だろが。しかし、そう言ったところで余計に殴られるだけなので言われた通り黙っておくことにした。オレが黙っていても話はヴィオラが勝手に続けてくれるし、特に困ることはない。


「陛下、自由にされたいお気持ちは分かりますが、あまりにも身勝手な行動は陛下の護衛などの任務にに支障を来してしまうゆえ、少し自重して頂ければと存じます」


 ヴィオラ……敬語まで使って説得してるフリして、よく聞けばただの説教じゃねぇかよ。と言うか普通にちょっと怒ってるだろ。


「むむむ……わかった……。わかったけど」


「けど?」


 ヴィオラはついつい聞き返してしまったようだった。「しまった」と言う顔をしている。疲れて本心を隠す余裕もないのだろうか?珍しいこともあるもんだな。

オレがそんなことを思っていると、王は言葉を続けた。


「とにかく今日はまだ帰りたくないのだ! もっと世界を見て回りたいのだ!」


 王はそう言うと駄々を捏ね出した。この行動は、なぜか、ななしのところのルーシャを連想させた。なんでだろう、精神年齢が近いからか?

 しかしなぁ、子どもと言うのは一度言い出すと中々こちらの言うことを聞いてくれないものだ。それこそルーシャに通ずるモノを感じる。

 横を見やると、ヴィオラの顔は引きつっていた。仮にも王様に向ける表情じゃねぇだろ。このままではヴィオラが何をするか分からん。何とかせねば。


「では陛下、わたくし、アルフ=フィッツ大尉が世界……とは言わないまでも、この国の端から端程度なら連れて行って差し上げますので、それを終えたら城にお帰りになってくださいますか?」


 オレがそう言うと、王はかなり不服そうな顔をしつつも首を縦に振った。なんとか一件落着……と思ったのだが、このままでは残った仕事を全てヴィオラに押し付けることになる。どうしようか…まぁ、いっか。どうせヴィオラだし。


「てな訳でヴィオラ、残りの報告と後始末、その他諸々よろしく頼むわ」


「はぁ?」


「いや……あのですねヴィオラさん。こうしとけば王も納得して帰れるし、騎士長も安心して王の帰りを待てるだろ? だから、さ? 王の護衛もしっかりとやるし、スピードは車程度しか出さねぇから、ここは大尉殿にも了承頂いてですね……」


「……とても癪だがそこまで言うのなら了承してやろう。だが、今回なにかあった場合はアンタに責任を背負って貰うからな」


 えぇ……責任負いたくねぇよ……。オレはそう言いそうになるのを無理矢理に飲み込んで、「了解だ」と言った。ヴィオラはその言葉を聞くと、報告に戻ったようだった。


「では、陛下。こちらに」


 オレは王に右手を差し出した。王はその手を取って、「わかった」と言って頷いた。


「少し飛ばしますので、しっかりとお掴まりになってください」


 そう言って、オレは駆け出した。

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