第六話
オレが城に戻って最初の厄介事はヴィオラとの会話だろう。と言うかそれ以上の厄介事はない。
ヴィオラはオレと同期で士官学校に入学した女で階級はオレと同じ大尉だ。見た目は金髪でかなり整った顔立ちをしており、身長は低い。出るとこは出てない。しかし、超が着くほどの真面目女で、士官学校ではアイアン・メイデン(鉄の処女)と呼ばれていた。本人は全く認知していなかったが。
その真面目さからオレとは反りが合わず、そのためにオレを見かけても基本的に無視だ。ただ今回はどう考えても会話をせずにはいられない状況なので、相当に罵倒されるだろうな。
オレが城の門前に着くと、ヴィオラは整った顔を鬼のようにして、オレを待っていた。そしてアイツは開口一番に 「おいゴミ。仕事をサボって何をしていた」と言った。第一声がそれかよこの女は。
「ヴィオラ大尉殿こそバカ真面目に何をされていたので?」
「仕事以外あるわけないでしょうが。クソ野郎のアンタとは違うのよ、このカス」
口悪過ぎだろこの女。オレそんなにコイツの恨みを買うようなことは仕事以外じゃしてねぇんだけどな。
「へーへー、オレはカスですよっと。で? 別にオレを罵倒するためにここで待ってた訳じゃないんだろう?」
「今回は確実に王を保護するため、2人1組で捜索をすることになったのよ。それでアンタとペアを組むことになったのは……」
「……まさか……」
通常ならオレとペアを組むのはトレヴァーであることが多い。しかし、トレヴァーは今日は非番である。そして、ペアを組む人物はオレが城に戻って来るのを待っておけばスグに仕事を開始することが出来る。そんなことを思い付くのはかなり真面目な人物だけである。その上で、門前で待っていたのはオレが知る限り最も真面目な人物のヴィオラ……。と言うことは……。
「非常に遺憾ながらこの私、ヴィオラ=K=ロペス大尉よ」
「最ッ悪だァァァア!」
オレはそう言って頭を抱えた。
「それはこっちのセリフよ! なんでこんなクソカスと組まなきゃならないのよ……。はぁ……中佐殿は何を思ってこんなことを……」
この編成を組んだのはバーベッチの姉御かよ。なら納得だ。だってドSだもん、あの人。オレ達がギャーギャー言って、そして(ヴィオラが)死ぬほど嫌な顔しながら仕事してんのを見て楽しんでんだろうな。全く良い趣味してるぜ。
にしても、コイツとペアかよ。延々と罵倒され続けるんだろうなぁ……。想像しただけで疲れるぜ。
「しかし、このヴィオラ=K=ロペス大尉。中佐の命令とあらば、アンタみたいなクソ野郎とも『喜んで』仕事を全うさせてもらうわ」
コイツのバーベッチの姉御への忠誠心と服従心はもう狂気のレベルだな。まぁ、そのお陰で仕事中にコイツに後ろから刺されることはないだろうが。
「そりゃあ大層な忠誠心で。んじゃあ、さっさと仕事終わらすか。スーツ取ってくる」
「アンタに言われなくともその気よ。ほら早く着替えなさいよ」
ヴィオラはそう言うと、オレにスーツを投げて寄越した。ホント真面目だなコイツ。
スーツと言うのは能力が弱い、もしくは能力を所持していない人間の為に、人間が作り出した特殊装備のことだ。見た目は小手や脛、胸部と肩部にプロテクターの付いた、いわゆるパワードスーツって感じだ。色は選べるが、オレは白が好きなのでホワイトで統一している。
ちなみにオレのスーツは
オレは門の陰に隠れてスーツに着替えた。このスーツ、服の上からは着れないからいちいち全裸にならなきゃなんないんだよなぁ。めんどくせぇ。
「下着まで脱がなくても着れるでしょうが。やはりバカなのか、このマヌケ」
「あれ? これってパンツ履いたままでも着れたのか。知らなかったぜ」
どうやら今までオレは必要のない一手間を加えていたようだ。
オレは着替えを終えると、太腿に付いた安全装置を解除した。
「お前はスーツ着なくて良いのか?」
ヴィオラがスーツを着ている様子がなかったのでオレは尋ねた。
「私のスーツが今回の仕事に向いてないって知ってるわよね? アンタ」
「え? そうだっけ」
「そうよ」
完全に忘れ去っていたな。合同で仕事したのなんて2年くらい前のことだし、仕方ないことだ。
オレは屈伸と伸脚で準備運動をした。これをやっとかないと、後で筋肉痛に襲われる。ヴィオラは準備運動をするオレを、さっさとしなさいよ、このグズ、とも言いたげな顔をして眺めていたが。
オレは準備運動を終えると、ヴィオラに「どうやってオレと一緒に王を探すんだ?」と尋ねた。するとヴィオラはものすごく嫌そうな顔をして言った。
「私をアンタが背負って探すのよ。はぁ……」
「……なるほど……え?」
今の聞き間違いじゃないよな?オレがヴィオラを背負って探す……だと? と言うことは、ヴィオラがオレに身体を密着させることになるのでは?いやいや、問題はそっちじゃなくて……
「私に劣情を催したら殺すわよ」
「誰がお前相手にエロいことなんて考えるかよ。問題はそっちじゃねぇ。オレの動きにお前が耐えれるかどうかが問題なんだよ」
「Gに耐える訓練くらい受けてるわよ。舐めんな」
「そういや士官学校の時にそんな訓練あったな」
オレはそう言ってから、ヴィオラを背負う準備をすると、ヴィオラはこの世の終わりとも言えんばかりの顔をして、オレの背中に乗った。そんなに嫌なのかよ。
「そんじゃあ、しっかり掴まっとけよヴィオラ」
「言われなくたってそうするわよ」
「了解だ」
オレはそう言って、一気に走り出した。ヴィオラは落ちる様子もなくしっかりと掴まっていた。
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