第五話
ななしは今頃あのガキを連れて、魔獣狩りしてるんだろうなあ。そんなことを考えながらオレは仕事をサボり、街の中を歩いていた。どうせオレの仕事なんて戦争や要請がなけりゃ無職みたいなもんだし、特に問題はない。あんまりサボり過ぎるとヴィオラがうるさいが。
「フィッツ大尉。今日もサボりですかい?」
オレは後ろから呼び止められて振り返った。そこにはオレの部下のトレヴァーが立っていた。まぁトレヴァーはオレのサボりに関して無頓着だし、問題はないだろ。
「ああ、そうだぜ。お前は今日は非番か」
「はい、そうですよ。大尉殿と違って合法的に『休暇』を取らせて頂いてます」
部下から嫌味を言われるとは思わなかったぜ。全くオレは人望が薄いねぇ。
……ん? もしコイツのとこにヴィオラやケネスが来たりしたら……かなりヤベぇ。オレはトレヴァーに口止めをすることにした。
「……あ、そうだ。もしヴィオラとかケネスにオレの居場所を尋ねられてもテキトーに誤魔化しといてくれ。特にヴィオラは面倒臭いことになるから黙っといてくれよ?」
トレヴァーはそう聞くと、敬礼をして「了解しました」と言った。外で敬礼はやめてくれよ……。オレがそう言おうとした時に、トレヴァーは言葉を続けた。
「しかし、お言葉ですが、ケネスは現在、約時速20kmでこちらに向かって来ております。よってその命には従えません」
…………え? ケネスが……こっちに向かって来てる…? それも時速20kmで?
「それマジ?」
「マジです。後10数秒もすれば五時の方向にケネスを目視出来ると思いますが、確認なさいますか?」
冗談じゃねぇ。目視出来る距離にまで近付かれたらシャレにならないじゃねぇか。オレはそう思って「なさいませんよ!」と言って走り出した。 足の早さには自信があるので多分なんとかなる。多分、きっと、恐らく。
走り出して数分もすると、ケネスはオレの後ろにピッタリと付いて来ていた。ヤベぇなコイツの脚力とスタミナ。
「フィッツ大尉! 逃げてんじゃないですよ! さっさと観念してください!」
「ヤダよ! オレは退屈な仕事なんてしたかねぇんだよ!」
「さっき仕事の要請が来たんですよ! それも騎士長直々の要請ですよ!」
そう聞くと、オレは足を止めた。すると後ろから「グヘッ」と言う声が聞こえたので後ろを振り返ると、ケネスは顔を押さえて蹲っていた。どうやらオレが急に止まったせいで顔面をオレの背中にぶつけたらしい。
「おいケネス。大丈夫か?」
「大丈夫じゃないですよ……痛った……」
オレはケネスの痛みが引くまで待つことにした。大分と痛かったらしい、2分くらいはずっと「うぅぅ……」と言って蹲っていた。
「んで? その要請ってのは?」
「……はい。王がまた逃げたらしく、その行方を捜してくれとのことで……」
ほう。王が『また』逃げたのか。なんか前にも似たような要請あったな。そんときは勝手に帰ってきたらしいけど。大体、急逝した前国王の代わりに7歳の子どもを即位させたのがマズかったんだよ。と言うか……
「前も言ったかも知れねぇけど、それオレ達の仕事じゃねえよな?」
「仕方ないでしょう、文句言わないでくださいよ。上からの命令ですよ?逆らえないじゃないですか。しかも今回は今まで以上に逃げ出した範囲が広いんですよ」
「うえぇ……めんどくせぇな……」
上からの命令って…オレ達の部隊は子どものお守りの為の存在じゃねぇんだよ。騎士団が勝手にやってくれよな。
「まぁ、騎士長直々の命令って言うんなら仕方ねぇな。給料貰ってんだからやるしかねぇ」
「そう言うんなら通常業務もちゃんとこなしてくださいよ……」
「警備なんて仕事、下っ端に任せりゃ良いんだよ。どうせ他国からの侵略なんてないんだし」
オレがそう言うと、ケネスは深い溜息をついて「先に戻ってますんでさっさと仕事してくださいよ」と言って城へ戻って行った。ヤダなぁ、王の捜索。めんどくせぇもん。
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