第四話
「コイツらに残ってる生命エネルギーを全部奪い取っちまえば良いってことだろ!」
……その後、残っていた生命エネルギーを全て奪われた狼のリビングデッドどもはそのまま朽ちて消滅した。後からわかったことだが、俺が斬り落とした、頭部だと思っていた物はどうやらあの狼共が狩りをして捕まえた動物の肉塊だったらしい。肉体が死してなお狩りを続けるとは、空恐ろしいヤツらだな。そんな恐ろしい怪物たちを駆逐して一件落着……と言いたいところだが、今回の件が孕んでいる問題はかなり大きいかも知れない。と、言うのもルーシャ曰く、リビングデッドは滅多なことでは生まれないらしい。リビングデッド1体を生み出す様な環境と言うのは、かなり特殊な条件が揃わないと形成されないらしいのだが、それが狼の1つの群れにまで及んだと言うことは、1つの国を揺るがすほどの何かが胎動している可能性が出て来るのだ。よって俺たちの仕事はこれから、魔獣の駆除から、リビングデッド発生の原因調査にシフトしていくことになると思われる。
仕事の内容が変更になった俺たちは村長の家に訪れ、その旨を伝えた。
「……という訳で、滞在期間がかなり延びる可能性が出て来たのですが、問題はないでしょうか?」
俺は村長に尋ねた。それに対し村長は笑顔で「ええ、問題ないですよ」と答えてくれた。俺たちが国からの派遣で村に出向いた人間と言うこともあって、拒否をされる可能性をかなり憂慮していたので、村長の返事はとても助かるものである。隣に座っているルーシャも村長の返事に喜んでいるようだった。
「ところで貴方のお名前をまだ聞いていませんでしたが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
ああ、そう言えばまだ名乗ってなかったな。
「はい、構いませんよ。俺の名前は『ノーネイム』です。好きに呼んで頂いて構いません。あとこっちの見た目だけは可愛らしい精霊もどきの名前はルーシャです」
最後のはただの嫌味だった。
「誰が『見た目だけは可愛らしい精霊もどき』よ! アタシはれっきとした精霊なのに!」
このまま放っておけばルーシャはうるさくなる一方なので、俺はルーシャを左脇に抱えて村長宅を後にすることにした。
「迷惑がかからないように最善を尽くさせていただきます。それでは」
「お気遣いありがとうございます。ごゆっくり」
俺に抱えられたルーシャはずっとキレていた。
俺たちは部屋に戻ると、これからの仕事について話し合いを始めた。
「それじゃあルーシャ、リビングデッドの発生と、今回の件の問題についてもう一度説明してくれ」
「じゃあまず、ゾンビとリビングデッドの違いについて説明するわね。ゾンビって言うのは、肉体も魂も死んだ状態で動き回ってる、いわゆる、ウォーキングデッドのことなの。それに対してリビングデッドって言うのは、肉体だけが死んでる状態を指すのよ。リビングデッドを形容する言葉があるとすれば、『生ける屍』ってとこね。
次に、リビングデッドの発生する環境の形成についてなんだけど……さっきも言った通り、リビングデッドが発生するような環境って言うのはかなり特殊なのよ。魂が生きたまま肉体だけが死ぬなんて環境、そう簡単に自然発生しないでしょ? もし自然に発生したとしても、大きな群れの1匹がリビングデッドになるくらいのもんよ。でも今回は1つの群れでそれが起こってしまった……こんなの絶対に普通じゃありえない現象よ。つまり……誰か、もしくは何かがなんらかの能力を駆使して人為的に環境を造り替えた可能性が高い。それに、狼のリビングデッドが事故で形成されたのか、それともなんらかの実験で意図的に狼をリビングデッドにしたのかでも意味がかなり変わってくる。
これだけの情報から、国一つを揺るがすほどのモノが蠢いている可能性が出て来る」
ルーシャは説明を終えると、コップに入った水を飲み干した。しかし、こうやって聞くと益々今回の件が複雑に感じられてくる。さてどうしたものか。
「……こうなって来ると、俺たちだけじゃあ力不足かも知れないな。国に応援要請でも出すか?」
「無理ね。あの頭の固いジジイ共がリビングデッドの大量発生なんて超事案、信じる訳ないもの。要請を出すだけ労力の無駄よ」
「だよなぁ……まぁ、大分と大きい案件だと分かりさえすれば、あの老害たちのことだ、手柄欲しさに勝手に出張ってくるだろうが」
「そうなりゃアタシ達はお役御免で、元の害獣駆除のお仕事に戻る訳ねぇ……駆除の仕事よりも調査の方が楽だろうし、いっその事しばらく報告せずに放っておいて楽しようよ。と言うか楽させろ」
ルーシャの本性が表れた瞬間だった。それも全く可愛らしくない方の。俺は溜息をついてルーシャの方を見やった。すると彼女はベットに寝転がって今にも眠りにつこうとしていたので、俺はルーシャが勘違いしていることについて言及した。
「何言ってんだ、駆除の仕事と調査は並行して行うんだよ。むしろ仕事が増えてんだから休めると思うなよ」
そう聞くとルーシャは仰向けの状態から飛び上がって、俺の顔をまじまじと見つめた。そして「冗談よね?」と尋ねた。俺は真顔で「これが冗談を言っている顔に見えるのか?」と聞き返した。
……その後、ルーシャは子供のように(ルーシャの見た目と精神年齢は元々子供だが)泣きじゃくってごねていた。言い分は「ヤダヤダヤダヤダ!働きたくないの!」とのことだった。俺はそれを完全に無視し眠りについた。子供のお守りと言うのは大変なものである。
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