第三話
近付いてみると、クリーチャーの体躯は俺の身長の2倍程だった。こんなモンに襲われたら勝ち目ねぇな。
コイツはどうやら眠っているらしい。
俺が近付いても全く反応が無い。
このまま眠っていてくれれば楽なのだが、まぁそう上手くは行かない。
にしてもなんだこの腐敗臭。コイツの身体から発せられてるのか?
まぁ今考えても仕方がない。
俺はクリーチャーが目を覚ます前に
「Lv1、解放」
俺がそう言うと、みるみる内に俺の身体に力が漲ってきた。どうやら
俺の能力が発動されたと言うことは、このクリーチャーも生物と言うことだ。
ひとまず安心だ。
もしこのクリーチャーがゾンビだったりしたら、俺の能力は発動されないのだ。
なぜならゾンビには生命エネルギーが存在しない。
そうなると代償未払いで能力発動条件が揃わなくなってしまうのだ。
取り敢えず俺は腰に携えた銃を取り出して、クリーチャーの胴体と思われる場所に3発ほど弾を撃ち込んだ。
クリーチャーが目を覚ます気配はない。
どうなってんだこのバケモノ、痛覚が遮断されてるのか? まぁ良いや。
このまま目を覚まさないでくれたら俺の仕事もすぐに片付く。
俺は太腿に巻き付けたナイフケースからナイフを抜いて、このクリーチャーの頸を切り落とそうとした。
だがその瞬間に、
「ク”ル”オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”オ”ッ!!!」
草原にクリーチャーの咆哮が響いた。
目を覚ましてしまったらしい。
やべぇ、コイツが俺に気付く前にコイツの間合いから離れなければ。
しかしそんな思いも虚しく、クリーチャーはこちらに気付いたらしい。
こうなったら仕方がない。俺はナイフを捨てて、腰にぶら下げた鞘から大剣を引き抜いた。
「先手必勝!」
そう言うと俺は大剣をクリーチャーの頸目掛けて斬りつけた。
肉を斬った時の独特の感覚が柄の部分から俺の手に響く。
するとゴトッ、とクリーチャーの首から上が地面に落ちた。
「ふぅ……なんとかなったぜ……」
そう言ってから、俺は武器を片付けようとした。
だがその時、俺はあることに気付いた。
コイツの頸を斬った時、肉を断った感覚はあったものの骨を斬った感覚は一切なかったのだ。
これだけ大きな体躯で、しかも形状を一定に保っている生物に骨がないなんてありえるのか?
そう思って斬り落とした頭部を観察しようとした瞬間だった。
「キシャァァァァァアアッ!!!」
頭部を斬り落としたと言うのに、首なしになったクリーチャーから咆哮とも威嚇とも取れる奇声が発せられた。
「どうなってんだコイツは……っ!」
このままでは危ないと感じた俺は、跳躍して距離を取った。
それからあのクリーチャーの方を見ると、アイツはニチャア、と言う音を立てて腐敗した狼の様な生物に分裂し始めた。俺の目の前に広がる光景はかなりグロテスクなものであった。
その後、クリーチャーは10匹ほどの狼(と思われるモノ)の群れに分裂し、俺に向かって殺意を露にした。
これはかなりヤバい状況だな。
狼どもに囲まれでもしたら俺は喰い殺されて終わりだ。
ナイフはさっき捨ててしまったから、間合いを詰めての近接戦闘は無理だ。
まぁそれが出来たところで1VS1で戦う訳ではないので、意味はないのだが。
「かと言って、こんな銃も役に立たねぇよなぁ……」
俺は銃を見つめた。
どう考えてもこの銃ではこの10匹を駆除するのは不可能だ。
なら残っている方法は大剣でコイツらを1匹ずつ仕留めて行くと言う1つだけだ。
しかし、まさか1匹ずつ殺すのを他の狼共が指を咥えて待ってくれるとは思えない。どうしたものか。
そんなことを考えていると1匹の狼が俺に向かって走って来た。急な先制攻撃に、咄嗟に俺は銃でその1匹の頭と心臓の部分を撃ち抜いた。
すると狼は動きをピタリと止めたものの、数秒もすると再び立ち上がってしまった。
なんなんだコイツら、ゾンビか?いやでも、
どうなってんだ。
「コイツらは生ける屍……リビングデッドね」
気付くと俺の右隣にルーシャが立っていた。
え、なんでここにいんの。
いや今はそんなことはどうでも良い。
「リビングデッド? ゾンビと何が違うんだよ?」
「リビングデッドは、ゾンビと違って肉体だけが死んだ存在よ。だから生命エネルギーの源である魂は生きているのよ」
「なるほどな。だから俺は
俺たちがこんなことを話している内に狼共は俺たちの退路を絶っていた。
「……おい、ヤベぇぞルーシャ。このままじゃ俺たち狼の死体の餌だぞ……」
「そのことなら、全然問題ないわよ」
そう言うとルーシャは俺の武器を鞄にしまい始めた。
それも淡々と。
「何してんだルーシャ……このまま喰われろってか」
「違うわよ。リビングデッドって言うのは魂が消滅してしまえばそのまま肉体も消滅するのよ。だから……」
「……ああ、そういうことか……」
そう聞くと俺は、
チラッと横を見たがルーシャはとっくに避難を終えていた。
俺が今からすることを知っているからこその行動だ。
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