第一章

第一話

 ……この世界は、半分が地図から消えて存在しないらしい。残りの半分はどこに行ってしまったのだろうか。そんなことを考えながら、俺は彼女とともに目的地に向かい歩いていた。


「ななし~ボーッとしてんなよー」


  彼女は150cmにも満たない身体で俺の周りを走りながら言った。この言われように、俺は反論をすることにした。


「……ルーシャ、ボーッとしてないって。それと、俺の名前は『ななし』じゃない、『ノーネイム』だ」


 俺がそう言うと、ルーシャは立ち止まり、頬を膨らませて『ななし』も『ノーネイム』も同じ意味じゃない。カッコつけないでよ」と言った。ホントに酷い言われようである。


「にしてもさー、ななし~。こんな辺境に村なんかあるのー? あってもこんなとこで仕事なんてしたくないけどさー」


 ルーシャが小さな体躯をウネウネさせながら言う。何だこの動きは。見た目だけは可愛いんだよなコイツ。


「村はちゃんとあるからな。もちろん仕事はサボらせないからな」


 そう聞くと、ルーシャは軽く舌打ちした。おいこら。



 

 そんな会話から約2時間、俺たちは目的地にたどり着いた。


「すいませーん、この近辺の魔獣を駆除するために国から派遣されてきた者ですがー、村長はいらっしゃいますかー」


 俺がそう言うと、1人の老人が仕事の手を止めてこちらへ向かってきた。


「こんな辺境まで遠路遥々お疲れ様です。お荷物をお持ちさせていただきます」


 荷物は超がつくほど重いが、しかし一般人には取り扱えない物も含まれているので断ることにした。次いでに本来の目的も伝えることにした。


「ああ、いえいえ。この荷物は危険物も入っているので大丈夫です。それよりも、3ヶ月ほどここに滞在する予定なのですが、宿などはありますか?」


「それは、失礼しました。……宿はありますが一部屋しか空いておらず……そちらのお嬢様も同じ部屋で構いませんか?」


 そう言われて俺は横に立つルーシャを一瞥した。ルーシャは首を横に振りまくっている。答えは決まった。俺は笑顔で答えた。


「はい。構いません」


ルーシャはキレていた。


 その後、村長に案内されて俺たちは宿に向かった。宿は、少し朽ちて来ているところも散見出来たが、それ以外はかなりいい滞在場所だった。なんと3食賄い付きの上に、風呂、トイレが共用でないらしい。この待遇の良さに不貞腐れていたルーシャも上機嫌になっていた。

 部屋に着くや否や、ルーシャは風呂に入りたいと言い出した。どうせこの後、仕事で汚れまくるのだから今じゃなくても良いだろう、と言ったがルーシャは聞く耳を持たなかった。


「いやぁ、キッ持ち良かったぁ」


 ルーシャは髪を拭きながらバスルームから出てきた。見た目は風呂上がりのガキである。


「よし、気は済んだな。さっさと仕事に向かうぞー」


 俺はこれ見よがしに、わざとらしくそう言った。


「もうちょっと風呂上がりの余韻を楽しませなさいよー、ケチななし~」


「知らねぇよ。こっちは報酬貰うためにここまで来てんだ。ていうか、精霊なんだからもうちょっと俺の言うことを聞けよ」


 そう、ルーシャは精霊である。それも俺と契約済みの。


「やだね〜。それにアタシたちのお陰で人間共は能力を使えるって言うのに、ななしは頭が高いぞ♡」


 うぜェ。なぜこんなやつと俺は契約したのか甚だ疑問である。少しムカついた…と言うほどでもないが、まぁ、このまま放っておくとコイツはすぐに調子に乗るので


「逆にお前達は、俺たち人間が居なきゃ存在すら危ういクセに、ルーシャは頭が高いんじゃないのかー?」


と言っておいた。するとルーシャは頬を膨らませて拗ねてしまった。精神年齢は7歳くらいだろコイツ。しかし、ここでこのまま拗ねられたままでは仕事に迎えないのだ。何とかせねば。


「ま、そんなことはどうでも良いからさっさと仕事に向かうぞルーシャ。仕事をしないとこの快適な環境で過ごせなくなるぞー」


最後のは軽い脅しである。


「…………それはヤダ……」


「だろ? じゃあ仕事行くぞ」


「……うん」


 俺たちは荷物から必要な道具を取り出して鞄に詰め込み、森に向かった。

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