8.七尾ユウ/四方八方フルボッコ
《@Yozora_Bluemoon 碧月です。プロット見させていただきました。いわゆるなろう系の転生ファンタジーはあまり読まない人間の意見として聞いてください。
まず、アイデア自体はすごく面白いと思います。とにかく自分の城を作ることにこだわる主人公と、彼の魔法スキルを求める王国の人々とのすれ違いがユーモラスに描かれると、読んでいて楽しい作品になると想像します。本文をナクヨムで読むのが楽しみです!
ですが、ヒロインたちの戦う理由というか、なぜ強い力を持つ主人公に頼るのかがあまり設定されていないように思います。たとえばエルフ姫ネヴィアは。争いを嫌うはずなのになぜ主人公の城へ助けを求めに来るのですか? そこが雑なので、エルフの姫をチートスキルで助けて惚れられるという「点」の展開ありきになってしまっています。争いを嫌う彼女のために暴力を一瞬で終わらせるという筋書き自体はとてもいいと思うんですけど……。他2人のヒロインも同じです。
書きたい「点」に繋がる「線」を前もってもう少し詳細に考えておかないと、いざ書き始めた時に手が止まってしまいませんか? 毎日更新でやっていると、そこで止まってエタってしまう、と。
あと、細かいことですが帝国が使うギガマキナのネーミングが気になりました。異世界なのにメガ、ギガ、テラって単位なんですか?
以上です。失礼なところがあったらごめんなさい。》
《@gib_son_WF 七尾さん、初めまして(?)。儀武一寸です。今回はよろしくお願いします。
『転生ニートの隠れスキルマスローライフ~最強魔術師は最高マイルームで引きこもりたい~』プロット、拝見しました。普段、あまり転生ものには縁がないもので、的外れなことでしたら申し訳ありません。ちなみに、私は「スキルマ」の意味がわからなくてGoogle検索したレベルです。
まず、私はこの「最強引きこもり能力でスローライフのはずがトラブルに巻き込まれて……」という基本の筋書きを、物珍しく面白く感じます。ですが、世間の転生ものに慣れた読者の方々にとってはいかがでしょう。試しにスローライフ、最強、転生、魔術師などで調べてみますと、それはもう山のように類似作がヒットします。たまたま人目に触れれば伸びるのかもしれませんが、運任せになってしまい。厳しいかなと。七尾さんならではの、キャッチーな要素を追加する必要があるのではないかと考えます。いかがでしょうか? 土木系の知識など盛り込むと面白いのではないでしょうか。
次に、内容について。真っ先に違和感を持ったのは、土系スキルマ「瞬時建築」や森系スキルマ「百花繚乱」の使い途についてです。主人公は、自分がその世界でのチートスキルの持ち主であることを知らず、城や庭園を作るのに丁度いい能力としか思っていなかったんですよね? ですが、最初に姫騎士アシェーナに騙されて帝国のギガマキナと戦わされる時、なぜ彼は強い敵をバカにするようなことを言いながら瞬殺することができるのでしょう。最初は、必死に持ってるスキルで戦ったら瞬殺できてしまった、くらいの方が自然です。
俺TUEEE系の描写と、内気で城作りに勤しむ設定の噛み合わせが今ひとつ悪いのではないでしょうか。こういった傾向は、プロットの各所に見受けられます。でたらめな俺TUEEEに見えても、俺TUEEEする理由、できる理由はしっかり設定する必要があると思いますし、そうでないと読者は夢から醒めてしまいます。
また、全般にシチュエーション先行でプロットを書かれているように見受けられます。確かに姫騎士が出てくれば、それはプライドの高い姫騎士が転生者の知識や強さに触れて女になってしまうと決まっている、というのはわかりますが……。プロットの時点で最初の動機や感情の転換点は定めておかないと、実際に書いた時に迷走したり、無駄な描写が増えたり、その無駄が後に矛盾に育ちます。そういうのは結構読者にバレます。一考の余地ありかと。
ご指摘としてはこんなところです。言葉足らずなところもあると思いますので、今度のWebMTGで話せればと思います。》
「フルボッコだね、ユウちゃん」
なぜか楽しそうな姉に「うるさい」と応じ、送られてきたDMを何度も読み返す。反論したいところはある。ふたりとも、ネットで小説を書いているくせに、転生もののお約束を理解していない。たとえば単位の問題など、ネット上で何度も何度も無限ループで語られてきたことだ。独自の度量衡をいちいち設定してもわかりにくくなるだけで、結局は今の度量衡を使ってしまうのがいい。異世界もののリアリティに対する意味のないツッコミ。いわゆる、異世界シャワーや異世界じゃがいも問題だ。そんなものを、今更ドヤ顔で指摘して、指摘になっていると思っている方がおかしい。
俺TUEEEにしても、シチュエーション先行にしてもそう。読者が求めているのは俺TUEEEの瞬間や美少女が一瞬で主人公に惚れてハーレムになるというお約束であって、動機や自然な感情ではない。むしろ惚れた後にヤンデレ化するとかのバリエーションを楽しんでいる。ハーレムになるまでは前提であり、前提に至る過程はどうでもいいのだ。
だが、ふたりの指摘を並べてみると、気づくこともある。
同じことに気づいたらしき姉が言った。
「儀武さんの方が一枚上手だね」
「うん。文章が長いし、問題点の解決策が書いてあるし、それに何より……」
「読者の目がある」
それが当を得ているかはともかく、儀武の指摘は読んで読者が楽しめるかどうか、を主眼に置いている。碧月夜空の指摘は自分しかいない。儀武の方が、なるほど一枚上手だ。
しかし、儀武が考えている読者は、たぶん紙の本だ。Webの読者のことを、ちゃんと想像できていない。シチュエーションに至る物語よりも、シチュエーションがあることそれ自体が大事なのだ。それでも、儀武の考え方はある程度理解できた。ユウ自身も、大学を中退してしばらくは主に紙の本の読者だった。今はWebメインになっているが、紙の本の読者が持つセンスは理解できる。というより、儀武の視点は、ユウが既に通り過ぎてきた場所だった。
「でも、儀武さん、自分の作品はあんまり読者のこと考えてないよねえ。一話八〇〇〇字とかあるよ?」
「その人、硬派気取りだから。そうやって、わざとWebの読者が受け入れづらいところを作って、全然星がつかなかった時の予防線にしてる」
「誰への?」
「自分への。それかツイッターのフォロワーとか」
「ふーん」と応じて、部屋着の姉は、スマホを持ったままユウのベッドへ仰向けに倒れる。「よくわかるね。会ったこともないのに」
「大体わかるんだよ。ツイッター見てればわかる。隠してる本性の方がよく見えるんだ」
「すごいねユウちゃん。ハッカーみたい」
「そんなんじゃねえし……」
「でもさ、それってユウちゃんのことも向こうに見えてるってことなのかな」
「どうだろ。儀武さん、平日は基本夜からタイムラインに出てくるし、家族いて忙しそうだし、そんなにツイッター見てないかも」
「それって、本当なのかな。ネットから見えないところでは、ひどい本性があるのかもしれないってことでしょ。たとえば……この前のDMへの返信も、仕事が終わった時間に返信来たけど、実は昼の間に入力してて夜に送信してるとか」
「なんでそんなことすんの」
「仕事してる感じの演出? お姉ちゃんも仕事でよくやるもん。返信が届いたら残業になるから定時ギリギリにメール飛ばして帰るとか」
「うわ、最低」
「だって、働いている時間よりユウちゃんと一緒の時間の方が大事だもん」と言った拍子に姉はスマホを取り落し、顔面にぶつけていた。「いてっ」
「ばーか」
「うるさいな……。碧月さんへの講評できたの?」
「もうすぐ」
入力中の文言をユウは確認する。
《@7oYou_seventh どうもです。七尾ユウです。『桜見町あやかし探偵』のプロット読みました。正直……この手の女性向けラノベは数を読んでいないし、最近のは全然です。そういう人間からの感想です。
人物、察し良すぎませんか。超能力者かってくらい主人公が悩んでる時に言われたいこと言わせるプロットですよね。俺様なのに察しが良いっていう都合のいい矛盾。オタクに優しいギャルっぽい。好きですよそういうの。まあ、願望充足型なのは理解しますし、読者がそういうのを求めているってこともわかります。でも、女性向けたまに読むと、ああ、これって「作者が昔の恋人とか友達に言われたかったことだな」ってのが透けて見えることがありますよね。恨みを小説で晴らしてるような。女性向けは共感が大事なせいか、共感してほしいという思いがただの自己投影になることがあるみたいです。まあ、メインの読者層はそれでいいんでしょうし、とやかく言うことでもないですね。
あやかしの能力、曖昧すぎませんか。もう少し属性とか力の序列とか、ある程度でいいので設定しないとおかしくないですかね。結局、みんな精神感応的な力は持ってるってことなんですか? 根底に、四大元素とか五行説とかの設定を置いて、この魔物はどこに属しているのか程度のことは考えてもいいのではないでしょうか。そう思ったのは、最後に神社の悪霊を鎮める時に主人公に力を貸してくれる妖怪たちの属性が被っているからです。これじゃ、力を束ねている感じがしないんですよ。
とりあえず以上です。あとはまた話せれば~》
文面はとっくに完成していたが、送信ボタンが押せずにいた。そこそこ鋭い指摘をしたつもりだが、自分の理解の浅さを曝け出しているだけで、それを逆に指摘されたらと思うと恐ろしい。読んで、評価をするとは、相手に自分の内心を曝け出すことなのだ。そうして理解する。読み逃げする人や星だけ入れる人が大半で、文のあるレビューをする読者が非常に少ないのは、誰も曝け出したいなどと思わないからなのだ。ましてや、Web通話で顔を見せて喋ることにいつの間にかなってしまったのだ。
「やっぱりやめればよかった」
「大丈夫大丈夫。駄目だったら切ればいいんだし」
「5chに晒されたら? ツイッターに晒されたら? イメージ通りのキモオタって晒されたら? ビデオ通話なんて無理だ」
「大丈夫だって」
「姉ちゃんにはわかんねえよ!」
姉は綺麗だから。親の期待に応えて薬剤師になって働いていて頑張っているから。どこに出しても恥ずかしくない立派な大人だから。対して自分はどうだ。小学生の時からずっといじめられてきた陰キャのキモオタでFラン大中退のヒキニート。ここ二年、近所のコンビニより遠くに外出したことがない。どこに出しても恥ずかしい。そして、自分に無意識の自信がある人には、生まれてこの方自信というものを持てたことがない人間の心情など、想像すらできない。
姉は微笑む。「大丈夫。ユウちゃんは私の可愛いユウちゃんだもん。恥ずかしいなんてないよ」
その時、部屋の扉が叩かれる。母親の声がする。「ユウちゃん? お姉ちゃんと一緒? ねえ大きな声出してどうしたの?」
母親の声は悲鳴のようだった。どうか何事もなく、怒鳴り声が響こうと響かなかろうと全部なかったことにして、昨日までと同じ現状維持が続いて欲しいと祈っているようだった。
「母さん宥めてくるね」姉はベッドから立ち上がった。「……あ、そうだ」
「どうしたの?」
「お姉ちゃん、いいこと思いついちゃった」
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