第2話 歳時記
「おまえたちは変なことにこだわるなあ」
「呼び名がないと不便なんだ、おれが」
『
肩からなだらかに下がる腰までのラインに並行して、真珠色の髪がふわふわと
「名などなんでもいいよ。『
足をぱたぱたさせながら、男はどこか楽しそうに言った。たしかにそれらは男の本体をかたち作る要素だけれど、名前にするにはひどく味気ない。
「
枕の上のこの『
本に触れようと枕の先に伸ばされた指先はするりと表紙をすり抜けてしまった。彼はふうとため息をついて、わずかに肩を落とした。
「読みたいなら読んでやるけど」
「ほんとうか」
「いいよ。どれにする?」
「
おれたちはごそごそと肩を寄せた。
弟がいたらきっと、こんな感じだろう。
「おまえは春っぽいデザインだし、春の名前がいい気がするんだよ」
「じゃあ、やはり『梅』じゃないか?」
「『梅』って感じじゃないだろ、おまえは」
「『梅って感じ』、なんだそれは」
「品のよさそうなおばあちゃんとか、梅干しっぽくはないってこと」
男は「よくわからない」と言ってちいさく笑ったあと、くあ、と猫のようにあくびをした。
「眠いなら、先に寝てろ」
「うん。
「ん」
生まれたばかりの
ひらひらした袖先から落とされた
(まあ、そのうち慣れるだろ)
祖母からもらった『
「ああ、ここは……懐かしいなあ」
隣で目をとろりとさせながら、男は穏やかにそう
「どちらも
「はじめてこの
「へえ?」
「ずっと
(
目を閉じた男は、
半月を少し横に長くしたかたちの、古い
右から左へ腕を伸ばすように削り出された白い
(あれ……)
よく見ると、花びらの先がわずかに欠けて、
「おまえ、これ」
左隣を向き息を飲んだ。
本来なら男のからだに隠れて見えないはずの、机と椅子の脚がうっすらと見える――男のからだが、
かたちあるものは、いつか壊れる。
祖母の遺体を前にして、痛いほど思い知ったはずだった。
(おれは何も、学んでない)
生まれたばかりの
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