幕間
アーネスト・コルテッロはかく語りき
「炎雷魔法の試験……ですか? 一年次の?」
ミューズ魔法学院の元教師、アーネスト・コルテッロ(35)は、当時を振り返って語る。
「ご存知のとおり、昨年度は中止になりましたよ。しかし、まあ……生徒のうち二人に、授業で使う防御魔法の調整を付き合ってもらった、というのは事実です。――ええ、炎雷に対する防御魔法です」
あー、吸っても? 紙巻きの安タバコを一本取り出した彼は、マッチを擦る直前で尋ね、記者がうなずくと同時に火を起こす。タバコの先に火が移ったのを確認してマッチ一振り、火薬の残り香をともなって灰皿へ捨て、花の蜜でも吸うように恍惚と紫煙を呑む。そして吐く。
「さて何の話でしたっけ……そうそう、生徒二人の炎雷魔法を受けたという話だ」
さすがは風魔法を得意とする魔法士、彼は吐き出した紫煙を操り、まるで宙に絵画を描くように女生徒の姿を形づくる。ドリル髪でTHE貴族といった雰囲気の少女を。
「パルネ・リッカーの炎雷は、地下に眠る化石油を操って湧出させ、粘性のある水弾としてぶつけた後に着火する――というものでした」
揚々とした語り口、氏が魔法を愛していることが汲み取れる。
「回転を与えた水弾による飽和攻撃と、爆破による追撃の二段構え! 受け方を誤れば死にますよ。水魔法の名門リッカー家の彼女らしい炎雷でした」
漂う紫煙が、また別の女生徒の姿に変わる。先ほどより背丈は高く、胸が強調されている。
「マーガレット・アンペイアの炎雷については……残念ながら多くを語ることができません。なぜなら、彼女が行使したそれは禁書の魔法に酷似していたからです」
コルテッロ氏はさらに一服して紫煙を追加させる。口で語る代わり、煙を使った絵物語で示そうという意図だろうか……煙だけにふわっとしており、あまり伝わってこない。
「彼女の炎雷を受ける際、私もまた禁忌とされている魔法を使いました。もしものときの〝奥の手〟としてとっておいた防御策です」
記者は、インタビューにあたり、氏がミューズ魔法学院を去るきっかけとなった禁魔法について探りを入れており――予想をぶつけてみた。
「ほう、風魔法の禁忌たる『虚空魔法』についてご存知とは」
記者の長年培ってきた勘は的中したようだ。氏は「オフレコですよ」と前置いて続ける。
「風魔法の極致ともいえる『虚空魔法』は、文字どおり、風を操り真空をつくり出す魔法です」
真空では生物は活動できず、大虐殺を可能とする点で禁魔法に指定されているとか。
「私は、四摂家のウィーゼル(家)ほど風魔法に秀でてませんから、じぶんの周囲二歩分に展開するのが精いっぱい。大虐殺なんてできはしません」
けれども、生徒の前で禁魔法を使った責を問われて辞職した。魔法士の世界は厳しい。
「後悔はしていませんよ。真空は炎雷を通さない……おかげで命拾いしました。マーガレット・アンペイアの炎雷はそれほどのものだった、ということです」
私に虚空魔法を使わせた彼女を誇りに思う。氏はそう言ってインタビューを締め括る。
席を立とうとする彼に、記者は慌てて「その女生徒は今」と訊いてみる。
「ははは、もう教職を辞した身ですからね。学院との縁はぷっつり切れている」
とはいえ――。氏はカフェの窓辺から外を見上げ、舞い散る桜の花びらに目を細める。
「当然に進級して、今は二年生の春を迎えているはずですよ」
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