【第零ノ参話】その前は、その前は…… ?

 夜の街を行き交う人々は皆、頭が変になっている。別に狂人がいるわけでも無く、頭から触手が生えていたり、牛みたいな顔だったりしてまるで、渋谷のハロウィンパーティーかな?と思うくらい、混沌としていた。あまりの人の多さに少しクラクラしてしまいそうだ。



「ここの辺りでは、ラーメン屋の『鯨飲馬食げいいんばしょく』がオススメだ!」


駆け足で膳所ぜぜの前に立ち、くるりと俺の方に振り返り言う。


「……っあ、その『鯨飲馬食』って店では何が一番美味しいんだ?」


「うーん、僕は塩ラーメンが一番美味いと思うぞ!」


「じゃあそこにしよう、案内してくれ。」


「東にまっすぐ行けば着くぞ。」


 横に並び歩き、膳所はこの『ハギノ』と言う街を店につくまでの間、キョロキョロと見て回った。時々、動物の耳の生えたお姉さん達が、いかがわしそうなお店の前に立ち、客を呼んでいる。とにかく、でかければいいというわけじゃないと時折思いながら、先程いた路地裏にそっくりな場所を見つけてはチラチラと見ていた。


「何でここにいる人達は皆、頭が変なのになってるんだ?」


「ならない人もいるよ。魔法だけど魔法じゃない力を得た者は時折顔が変形するんだよ。」


「因みに私は顔がお面のように取れます。」


 そう言って夜久は顔を掴んでメリっと剥がした。剥がしたお面。――否。硬化した顔の皮と、露出した頭蓋骨との間で、赤黒い糸がニチャアと音をたてひいている。そこから、ボタボタと血液が顔から流れ落ちる。その後何事も無かったかのように、毅然しゃくぜんとした態度で顔を元に戻した。


「なかなか気持ち悪いな。」


「イヤイヤ!さっきの男達の方が気持ち悪いって!特に目とかがウヨウヨって!」


 お前が言うなよ。と、軽いノリ突っ込みを入れる。口にするのはなかなか恥ずかしいので、夜久の能力を利用し、心で呟いた。


「っで、魔法だけど魔法じゃない?いったいなんだそれ?」


「まあ詳しくはわからんが、まず人間の脳は本来10%しか使われてないんだ。」


「だけど脳手術をして無理矢理30%以上にする技術が大昔に出来たらしい。」


「そうゆう話は聞いたことあるぞ。てかそんな内容の映画を見た。」


「映画!?貴族達が見るってゆうフィルムがブワアアアって回っ」


「ストップ。話が脱線してきたぞ。」


「いやぁごめんね、君の世界では映画を一般人でも見れるんだな!」


「なぜ俺が貴族ってゆう可能性を捨てたんだよ。」


「だって貴族がズボンのジャージに変な文字の書かれたTシャツなわけ無いだろう。」


「まあそのとおりだな。」


 今更だが俺の格好は、さっきも夜久が言った様にズボンのジャージに、別にフェミニストでもないのに、「フェミニスト」と書かれたTシャツに、買ってから約1半年たった白色のランニングシューズ、そして薄汚れた白の靴下という格好。ランウェイで歩こうとしたら、速攻射殺ぐらいの服装だ。って、服が変わってる?いつの間に?Tシャツには何も描かれておらず、靴下は灰色だった。一体全体どうなっているのやら。でも異世界に来るくらいなのだから、服くらい変わっても、何らおかしくない。

 ちなみに夜久の格好は、猫のシルエットが描かれた灰色のパーカーと、黒のミニスカートに、所々破れた60デニールと思われるタイツ、そして黒のスニーカーといったところだ。そこに緑の電話ボックスを背負っている。

 まじまじと観察していると、夜久がドン引きした目で呟く。

「何でデニールがわかんだよ、きもいな。正解。きもいな。」


「2回言わなくったっていいだろ。」


 なぜ60デニールだと一発で見破ったかというと、どうしても塾に行く気がないときに、近くのダイ〇ーで時間をつぶしていた時があった。タイツ売り場でよくデニール数を当てるゲームをしていたからだ。


「お前も映画を見たことあるのか?貴族じゃないのに。」


「わからないな。でも見た記憶はあるんだよなぁ〜。」


 眉間に少し皺を寄せて言った。


「どうゆうことだ?見てないのに見たって。」


「それがわかんないんだって!」


「まあデジャヴみたいなものか。」


 別にどうでもいい疑問が渦巻く中俺達は空腹に身を任せ、のらりくらりと歩く。

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