第三十四話「以心伝心の戦い」

☆ ☆ ☆


「くっ……! このぉっ……!」


 道也は執拗に迫りくる無数の蛇矛をなんとか振り切ると、銃弾を連射した。

 その狙いは、両眼。この部分はさすがに強化が脆いらしく、手応えがあった。


 ダメージを受けた魔王が口から熱放射を放って反撃してくるが、それをもかわして再び勇者の力をこめた強烈な銃弾を放つ。

 

(どんだけタフなんだ……!)


 もうこれまでに急所に向けて五十発を超える直撃を与えている。

 だが、巨大魔王に倒れる気配はない。


(いつまで戦えば……)


 気の焦りを突くかのように蛇矛が死角から殺到する。

 それらを寸前でかわして即座に銃剣モードで斬り払うが――。


(数が多い……!)


 ここで一気に勝負を決めようとでも言うのか――かなりの数の蛇矛が射出されていた。これでは防戦一方になってしまう。


(防ぎきれるか……?)


 不安が首をもたげるが――やるしかない。

 矢のような勢いで襲来する蛇矛を次々と銃剣で斬り払い、斬り捨てていく。


 あまりにも数が多いので捌ききることができず、擦過傷は増えていくばかりだ。

 だが――。


(ここで俺がやられるわけにいくか!)


 動体視力と判断力と腕力を駆使して、ひたすら凌ぎきる。

 しかし、いかんせん数が多すぎる。


(くそ、物量が違いすぎる……!?)


 そう思ったところで、後方から懐かしくも頼もしい気配が近づいてきた。


「道也くん! 加勢します!」


 刀を抜き放った初音が乱入してきて、浮遊する蛇矛を次々と無力化していく。


「初音!?」


 突然最前線にやってきたことに驚愕したが、すぐにその剣技にも驚嘆させられた。

 勇者の力に目覚めた自分と同等の動きをしているのだ。


「ヤマブキちゃんが力を貸してくれました! 一時間くらいなら、わたしも最前線で戦えます!」


(ヤマブキが!?)


 そんなことをできるとは驚きだが――初音からは、これまでの清らかオーラに加えて別種の魔力に似たオーラを感じられた。それは、とても力強い。


 そして、その魔力を魔王も感知したのだろう。

 苛立たしげに咆哮する。


「裏切り者のヤマブキの魔力かあああああああああああああああああああ!」


 標的を初音に変えようとしたのか、蛇矛が一瞬、動きを止めた。

 その隙を逃すことなく道也は周囲の蛇矛を斬り払い巨眼に向って射撃した。


「ぐぬぅ、小癪なぁ! やはりまずはおまえからだ!」


 初音に向かいかけた蛇矛が再び道也へと殺到する。

 

(そのほうが好都合だ!)


 初音を傷つけられることは絶対に避けたい。

 なので、


「ほら、勇者を滅ぼすんだろ! かかってこいよ! バカ魔王!」


 あえて挑発をして、初音の危険と負担を減らす。

 道也は気合を入れ直して、再び魔王との戦いを再開した。


「おのれぇええ!」


 魔王は呪詛に満ちた咆哮を上げながら、口から火炎魔法を放射する。

 そして、顔を振り乱して攻撃範囲を広げてきた。


「初音! まずは回避優先だ!」

「はい!」


 道也は短く初音と意思を共有して、散開する。

 さらに射出された蛇矛にも注意を払いながら、怒涛の攻撃をかわしつづける。


(どんな強敵でも、攻撃のあとに必ず隙ができる)


 これは初音がモンスターとの戦っているときに観察していたことで学んだことだ。

 その初音とともに戦えることは、とても心強い。


(隙ができた)


 怒涛の攻撃もついに途切れるときがくる。

 道也はあえて魔王の真正面に回りこみ、銃弾を撃ちこむ。


「ぐがあああああああああ!」


 魔王は怒り狂いながら道也を捉えようと両腕を振り回し、すべての攻撃を集中させる。そこを、すかさず――。


「やああああああああああああああ!」


 初音が背後から日本刀で斬りつける。


「ぬぐあああああああっ!?」


 ヤマブキの魔力を得た初音の斬撃はすさまじい威力で、魔王の後頭部から背中にかけてダメージを与えることができたようだ。


(さすが初音だな)


 まさに以心伝心。

 言葉をかわさなくとも連携攻撃ができている。


「いくぞ! 初音!」

「はい!」


 ふたりで常に前後から挟み撃ちするように攻撃をし、魔王にダメージを与えていく。二人に増えたことで蛇矛の動きも鈍り、格段に形勢は有利になった。


「がああああああああ! 五月蠅(うるさ)い人間どもがあああああああああ!」


 魔王はたまらず見境なく暴れ始める。

 だが、激怒して集中も乱れたことで逆に攻撃も防御も疎かになる。


(こうなれば、こちらの思う壺だ!)


 冷静さを失ったら、勝機は遠ざかる。

 道也と初音は、逆にますます心を落ち着けていって攻撃を繰り返していった。

 そして――、


「これで、どうだっ!」

「やあああああああ!」


 数十回目の連繋攻撃が決まり――魔王の巨体が大きく揺らぐ。


「ぬっうぅううううう……!」


 浮遊していた蛇矛が魔力を失って地上へバラバラと落ち始めた。

 遅れて、魔王自身も落下していく――。


 そのまま地上へ激突した魔王は轟音とともにすさまじい衝撃波を発生させ――土煙に呑みこまれていった。


「やったか……?」

「……まだ、だと思います……」


 初音が、ぽつりと呟いた。

 道也も、注意深く気配を探った。


(魔力が消滅していない……?)


 そもそも魔族は霧消するときに光の粒子を発しながら霧消する。

 なので、終わりではないようだ。


「ヤマブキちゃんが言ってました。まだ魔王は強くなるって……だから、これで終わりではないと思います……」

「そうか……」


 初音の力が加わったとはいえ、あまりにもあっけなさすぎる。

 これで終わりとは、道也にも到底思えなかった。


 やがて――。


 魔王が墜落した場所から、禍々(まがまが)しい黒い光が空へ向かって放射状に拡がり始めた。

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