第三十五話「VS魔王(最終形態)」
「……すごい魔の気配です……」
「ここから、また新たな戦いってわけか」
突如として衝撃波が発生し――土煙が完全に一掃される。
そして、尋常ではない魔力を放つ存在が出現していた。
先ほどまでとはまったく違う引き締まった体躯。
鋭い眼光。一対の角。
「……」
その魔王らしき存在は、垂直に浮上してくる。
極限まで脂肪が削られた肉体は、まるで岩石のようだ。
装備している鎧・兜も華美な装飾な取り払った質実剛健なものに変わっている。
纏う魔力も並々ならぬものがある。
「……最初から、こうするべきであったな……」
口調まで粗野なものから変わっていた。ゾッとするような冷たい声音。
そして、手に氷を思わせる剣が出現した。
「勇者よ……今度こそ決着をつけてくれる」
鋭利な切っ先が向けられる。
「くっ……」
先ほどとは比べ物にならないプレッシャーを覚えた。
冷え冷えとした殺気を感じてるのに、身体からは汗が流れ出る。
それでも、絶対に勝たねばならない。
敗北は、即ち、川越市民の滅亡を意味するのだ――。
「……俺の答えは決まっている。俺たち川越市民を滅ぼそうというのなら、それに抗うだけだ」
「我の答えも決まっている。人間は、滅ぼすべし。異世界人など、もってのほかだ」
魔王の姿がわずかに揺らいだと思ったときには――すでに道也は間合いに入られていた。
脳が認識したときには、大剣が喉元に伸びている。
だが――。
「っとぉ!」
道也は銃剣で受けとめ――その衝撃の強さに吹き飛ばされながらも即座に体勢を立て直して反撃の銃弾を見舞う。
それを魔王は左右に軽く体を震わせて回避し、一気にトドメを刺そうとするように刺突しようとしてくるが――。
「やあああ!」
初音が横槍ならぬ横から斬撃を放って追撃を防いだ。
だが、魔王はその瞬間的な攻撃をも左の小手で防いでいた。
「ふんっ!」
そして、気合もろとも初音を吹き飛ばし、刃を向ける。
「初音!」
今度は道也が初音への追撃を阻止するべく、援護射撃する。
それらに対しては魔王は手をわずかに動かして、銃弾を剣の腹で受けとめていた。
それでも道也は、魔王に対して銃弾の嵐を見舞う。
(ここで一気に押し込む!)
自分の魔力も初音の魔力もいつまでも続かない。
長期戦になれば、劣勢になることは必至。
ならば、早めに決めるほかない。
道也は銃を乱射しつつ、魔王に向かって突進していく。
「愚かな」
しかし、魔王は神業のような速さで全ての銃弾を弾き、余裕そのものの表情でこちらを見返してきた。
(くっ……)
やはり、さっきまでの魔王とは違う。
氷のように冷たく、硬く、鋭利なオーラ。隙が感じられない。
それでも、勝たねばならない。
その気持ちだけを胸に、道也は銃剣を構えて突撃する。
「死ぬがいい!」
だが、銃弾はことごとく防がれ――最後の突撃に対して待っていたのは無慈悲な斬撃であった。
「っぐっ……!」
咄嗟に銃剣による防御姿勢をとって守護障壁を展開したが――尋常ではない膂力によって激しく弾き飛ばされてしまう。
(……だが、切り替える!)
ここでダウンしたら一気にやられる。道也は宙空で体勢を立て直すと、どうにか地面に着地した。
弾き飛ばされた衝撃すさまじさから、止まるだけでも地面を十メートル近く滑べることになったが。
(一気に倒そうなんて思ったら、ダメだな……)
そう容易く倒せるような相手ではない。
さっきの巨大な魔王は戦いやすかったが、今回はまるで隙がない。
道也は、魔王との距離を保ったまま対峙した。
初音も、迂闊に攻めては逆に危険だということを理解して魔王の後方で刀を構えたまま出方をうかがう。
「……来ぬのなら、我から行くぞ」
魔王の体が揺れて残像が出現したと思ったときには――すでに道也の目の前にその姿がある。
「っ!?」
辛くも銃剣で防ぐも――魔王は無表情で無慈悲な連続斬撃を繰り出してきた。
氷の鋭さと硬さによって、背すじに寒気が走る。
(っ……反撃する隙がないっ……!?)
銃というアドバンテージを発揮することもできず、防戦一方になってしまう。
さっきの巨体の鈍さからは考えられないほどに速い。
もはや視覚で捉えるというよりは殺気を感知して防いでいる状態だった。
「どうした、どうした、こんなものか」
「っぐっ……!」
再び弾き飛ばされて、後方へ退かざるを得なくなる。
「この最終形態になることで寿命を残り30年ほど削ったが……これで勇者の息の根を完全に止められると思えば安いものだ」
「そうかよ。そこまでして俺を、勇者を倒したいかよ」
「ああ。これまでに例外なく魔王は勇者に倒されてきたからな。繰り返してきた屈辱の歴史に終止符を打つことを我は考え続けてきたのだ」
魔王は左手をこちらに向けて伸ばしてくると――不可視の魔法を発動させた。
「っぐあっ!」
バリアを急速展開しようとしたが間に合わず、吹き飛ばされる。
先ほどとと同じように体勢を立て直そうとするが――すでに魔王は肉薄していた。
「死ね」
命を刈り取る大剣が襲いくるが、辛くも銃剣で防ぐ。
だが、勢いを殺しきることはできず、さらに後方へ弾き飛ばされてしまう。
こうなると着地体勢をとることもできない。
(このままやられるか!)
背中から地を滑走する形になったが、それでも反撃の銃弾を連射する。
どうにか狙いをつけた銃撃は、魔王の頭部に三発ほど命中した。
「ぐっ……!」
さすがにダメージを負ったのか、魔王の進撃は止まった。
そのわずかな勝機を逃すまいと、初音が斬りかかる。
「やあああああ!」
「ふんっ!」
だが、魔王が気合を入れるとともに不可視のバリアが発生して初音も弾き飛ばされてしまった。
「小うるさい連中だ。まずは、この女から――」
「いや、俺が相手だ!」
魔王が初音に向けて剣を向けようとしたときには、すでに道也は勇者の力を銃弾へ変えて魔王に連続射撃を浴びせている。今度は魔王の顔面に三発の銃弾があたった。
「ぐぬぅっ……! 勇者のくせに剣で戦わず飛び道具を使うなどと! 貴様、それでも戦士か!」
戦闘種族である魔王は怒気を発しながら、ターゲットを再び道也へ変更した。
だが、道也は怯むことなく射撃を敢行する。
(そうだ、俺を狙え! 初音には指一本触れさせない!)
大事な人を守るためなら、いくらでも戦うことができる!
「うおおおおおおおお!」
道也は叫びながら、魔銃を乱射する。
そこで――唐突に『神の声』が心に響いてきた。
『そうだ! それでいい! 魔を滅せよ! 怒りのままに魔王を葬り去るのだ!』
だが、道也にとって、それは不快な声にほかならない。
(違う! 俺は魔を滅ぼすよりも初音を、川越のみんなを守るために戦ってるんだ!)
この力を暴走させたら、完全に魔族を滅ぼすまで止まらなくなるだろう。
それは即ち、ヤマブキにまで害が及ぶということになる。
『貴様、誰のおかげで力を発揮できていると思っているのだ! あの小童だけでない! 魔族から魔力を借りるという禁忌を犯したあの女も大罪人だ! 滅せよ、滅せよ、滅し尽くすのだ!』
(うるさい!)
内なる神の声と闘いながら、道也は魔王への銃撃を繰り返し――そして、突撃体勢に入った。
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