第三十二話「芋羊羹補給タイム&魔王の意地」
☆ ☆ ☆
地上に戻った初音たちは、遥か前方で繰り広げられる人知を超えた戦いに圧倒されていた。四天王戦のときも凄まじかったが、今度は目で追うのも困難なほどだ。
「……すごいです、道也くん……」
「はえー……もうほんと次元が違うって感じだよね……そもそも、なにあのでかい奴!」
「……茶菓たちとは、もはやレベルが違いすぎる……」
ここまで来ると、三人揃って呆れるばかりだ。
「お兄ちゃん、本当にすごいの……お父様と渡りあうなんて……」
ヤマブキも、呆気にとられたように空を見上げている。
そこで――防災無線を通して新の放送が聞こえてくた。
『みんなー! 今のうちに次の戦いに備えて栄養補給だ! でも、油断するなよ! 芋菓子食べて補給しつつ次の攻撃に備えろ!』
その声に続いて、初音たちのところに補給部隊がやってくる。
大八車に乗せられて持ってこられたのは――川越の誇る芋菓子と水分だった。
「ふえ……? わあぁ♪ いもようかんなの♪」
まずはヤマブキが瞳を輝かせる。
「わー! ありがたい! 補給補給ー!」
芋子も笑みを弾けさせて、ヤマブキと一緒に大八車に駆け寄った。
そんなふたりの姿を見て、初音は微笑む。
「ふふ♪ 交代で補給をとりましょうか。まずは、ヤマブキちゃんと芋子ちゃんから」
「……茶菓は、この戦いの前に芋菓子をたくさん食べていたから……水分だけでいい……」
そういうわけで、まずはヤマブキと芋子が芋菓子を頬張る。
その間、初音はしっかりと上空監視を続行した。
(援護をできないのが歯がゆいですが……)
道也が懸命に戦っているときに芋菓子に手をつける気にはならない。
祈るように空を見上げて――空の激闘を見守る。
(必ず戻ってきてください、道也くん……わたし、待っていますから!)
刀を握る手に力が入る。
しかし、今は空を見上げることしかできなかった。
☆ ☆ ☆
勇者の力という人知を超えた異能を発揮し続けた道也は、ついに空に浮遊する蛇矛をすべて撃墜した。
戦えば戦うほど戦闘技術は向上し、途中からは蛇矛の動きはスローモーションのように見えていた。
魔族が戦闘種族ならば、勇者は戦神とでもいうべき存在なのかもしれない。
「ぐぬぅ……!」
これ以上は無駄だと悟ったのか、ついに魔王からの蛇矛の射出が止まる。
そして、憎悪に濁った瞳を血走らせて――ギロリと睨みつけてきた。
「……忌々しき勇者め……あくまでも魔族に立ちはだかると言うのかぁ!」
文字通り、天地を鳴動させる大音声。
ビリビリと大気が震え、巨躯から発せられる漆黒の瘴気が濃霧のように拡がる。
それに臆することなく道也は声を張り上げた。
「戦いをやめるのなら! 俺たちと共生していくつもりなら! 俺は戦いをいつでもやめられる! 俺たちを戦わせているのはそっちだ! なぜ、そこまでして戦う!? 魔族がどれだけ犠牲になってもいいのか!」
だが、そんな言葉は――生まれながらの戦士である魔王には届かない。
「この世は弱肉強食だ! 共存だの共栄だのというものは弱者の戯れ言だ! 小賢しいことばかり考える人間の言葉など聞くだけで耳が穢れるわ! 死ねぇい!」
魔王は口を極限まで開くと――そこから極大魔法を放ってきた。
それは――赤く染まった極限の熱線。
(避けたら、町がやられる……!)
瞬時に判断した道也は――勇者の力を発動する。
魔力障壁の瞬間起動かつ全力全面展開。
聖なる輝きを放つ蒼い盾は――血塗られた紅の魔法熱線を完全に相殺した。
「ぬぅうっ!?」
まさか防ぎ切られるとは思わなかったのだろう。
魔王は驚愕に眼を見開く。
「……川越には……みんなには……指一本触れさせないからな」
魔王を睨み返しながら、道也は冷たく告げる。
もはや話しあいという状況ではない。
守るべき場所を、大事な人を傷つけようとするのなら――倒すしかない。
「ぐぬうぅううううううううう!」
プライドが酷く傷つけられた魔王はその巨体からは信じがたいほどの素早さで襲いかかってくる。
巨大な右手から伸びた指には鋭利な爪五つ。
かするだけでも人体は容易く裂かれる威力であろうが――。
「――っ!」
道也は後方に飛び下がりながら、瞬時に射撃に移った。
目・鼻・口の三点に向けて、魔銃を集中させながら後退していく。
「がぁあっあぁあああああ!」
近距離かつ急所狙いの攻撃に、さしもの魔王も悲鳴を上げた。
しかし、すぐにまた反撃の蛇矛を背中から射出してきて自らも交互に右手と左手を繰り出して直接攻撃もしてくる。
「くっ……!」
退くことなく前進し続ける魔王は、さすが戦闘種族の中の覇王。その気迫によって道也の動きは鈍り、蛇矛の追尾も重なってさらなる後退を余儀なくされる。
(……傷がっ……)
憤激したことで魔王の強さは増したのか、蛇矛の速度も威力も格段に上がっている。かするだけなのに全身に傷が増えていく。しかも――。
(また口から極大魔法か……!)
道也も再び瞬間・全力全開で防御魔法を発動せざるをえなかった。
いくら勇者の力が膨大といっても、あまりにも力を使いすぎている。
(……今度も防ぎきったが、持つのか……? いや、勝てるのか……?)
際限なく増大していく魔王の魔力と、覚醒したばかりの勇者の力――。
異様なタフさを誇る魔王との底知れぬ戦いに、道也は恐怖を覚えた
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