第十五話「川越巡りと絵と鰻屋」

☆ ☆ ☆


 そのあと、道也たちはヤマブキを伴って川越まつり会館で山車を鑑賞した。

 お祭り用の山車は8メートル以上あり、豪華絢爛かつ精緻な技巧が施されている。

 前世界の江戸時代に作られたものもあるので、文化的にも価値がある。


 それを見てヤマブキは「すごくカッコイイの♪ 魔王軍には、こんな綺麗な兵器はないの♪」と喜んでいた(兵器ではないのだが)。


 そして、川越屈指の古刹・喜多院も周り、最後は老舗の鰻屋である。


 川越まつり会館を出たところで、新から「予約はすでにとってあるので来るように!」との知らせを小江戸見廻組を通して受けていたので、小江戸川越を代表する老舗の鰻屋へやってきた。


 なんだかんだで新もしっかりと段取りを整えていてくれたのだ。


 鰻屋の建物は和菓子屋とは、また違った建築様式である。


 和菓子屋は明治時代の重厚な蔵作り、こちらは大正時代のモダンさも感じられる和洋折衷建築といった風情だ。


「この町はいろいろな建築物があって見ていて飽きないのっ♪ これらのデザインを魔王城や城下町にも取り入れたいくらいなの♪」


 暖簾をくぐり、道也たちは老舗の鰻屋へ入った。

 ここは、高校生がお小遣いで来られるようなお店ではない。


 さすがにアラタちゃん許可証を使わざるを得ない(というか、すでに予約されていたわけだが。道也たちが許可証を使うのことを遠慮するのを見越して先手を打ったのかもしれない)。


 女将から出迎えられて意匠の凝らされた店内を進み、二階にある座敷へと案内された。待合室や通路には古くから伝わる絵画や前時代の川越まつりのポスターなどが飾られており、目を引く。


 なお、道也は『ヲタ会』の仲間たちとの研究会の中で、これらの文化には触れていた。絵を描く上で大いに参考になっている。

 漫画だけでなく劇画、浮世絵など絵に関しては守備範囲が広い道也だった。


(川越は絵の町でもあるからなぁ……)


 なお、川越を代表する絵師は橋本雅邦。川越藩のお抱え絵師の子であり、明治維新後は東京芸術大学で日本画の教授となった。教え子に、前時代を代表する画家である横山大観らがいる。


 その雅邦の絵は老舗に某和菓子屋に併設されている美術館で見ることができ、道也は幼い頃に何度も鑑賞していた。そこには浮世絵もあり、自然とそちらにも興味を持ったのだ。


 あとは、川越市立博物館の隣に川越美術館もあるので日本画や西洋画などの本格的な絵にも触れる機会があった。これらの建築物が転移してきたことは道也にとっては幸いであった。


(……漫画に出会ってからは、思いっきりそっち方面に行っちゃったけどな……)


 それがよかったのか悪かったのかは、わからない。ただ、その方面に行ったことで初音たちや子どもたちに喜ばれる絵が描けるようになったのは確かだ。


 いつも筆やペンを持っていた手で今は銃を持って戦うようになっているのだから、自分でもそのギャップに驚くばかりだが――それが、異世界で、そして、戦乱で生きるということでもある。


 ともあれ、道也たちは用意されていた席に座り、鰻重が出てくるを待つことになったのだが――階段を登って三富新がひょっこりやってきた。


「やあやあ今日は戦闘に続いて案内まで、お疲れさん! 日頃の頑張りに報いる意味でも今日は出血大サービス! 特上の鰻重を御馳走しようじゃないか! でも、さすがに税金で全額負担したら市民から一揆とか打ち壊しとか起こされるかもしれないからアラタちゃんからもポケットマネーをいくらか出そう! ま、四人の活躍は目覚ましい上に支持率で言えばボクよりも上だと思うから、大丈夫だと思うけどねぇ! ともかく、今日は無礼講だ!」


 相変わらずの白衣&メガネという目立つ格好の新は、いきなりマシンガントークを開始していた。その勢いのままヤマブキに話しかける。


「ああ、そうだ、ちゃんと挨拶してなかったね! 初めまして、ヤマブキちゃん! ボクは小江戸川越市長の三富新! 通称アラタちゃん! まあ、この町で一番偉い人だと思ってもらえばいい! でもま、堅苦しいのは苦手なので気軽にアラタちゃんと呼んでくれ! よろしく!」


「……よ、よろしくなのっ」


 新の持つ独特の雰囲気に気圧された様子で、ヤマブキは挨拶を返した。


(……まぁ、新さんの変人オーラはすごいからなぁ……)


 魔王の娘すら恐(畏)れさせるのだから、すごい人なのかもしれない。


 ともあれ、新も加わり、六人で鰻を待つ。


 ちゃんと備長炭でじっくりと焼くので、時間がかかるのだ。

 老舗の高級店だけあって、手間暇がかかっている。

 素材も、新伊佐沼付近で獲れたものを厳選しているらしい。

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