第1章 4話 人は、依存する

私は今ブログのなかにある、ショートメッセージ機能で、とある人物とやりとりをしている。もちろん、やりたくてやってる訳ではない。


「彼は、どう?落ちそう?」


「……」


とある人物とは、30代の男性会社員。彼とは共通の趣味で繋がっていた。達也にバレるまでは、そこそこ仲良かったし、楽しく普通にやり取りしていた。だが、達也が目をつけてからは私の意思は関係ない。私に教え込んだ心理誘導がどれ程使えるものなのか、試すと言って指示を出してきた。

彼からの指示は「相手に好意を抱かせ、自分のためならどんなことでもしてくれる人に仕立てあげること」だった。


「ねぇ、返事は?」


「ごめん。たぶん、あと少し」


「そっか、頑張ってね」


達也が教えてくれた心理誘導は、心理学の本になら載っていることが多かったが、彼の経験を元に言葉遊びを交えて教えるもんだから私自身の実力はかなり高まっただろう。

しかし、彼はこれを善いことのために使おうとしてる訳じゃない。彼の欲を満たすために、私に教えたと言っても過言ではないと思う。

ただ、悪いことばかりじゃないのも確かで、私は上手く人の心を動かして中学3年の頃には、逆ハーレム状態だった。いじめは終息を見せ、むしろ女子たちの憧れとも呼べる男子たちが大事にしてくれる。私の立場は、確かに変わっていた。


「人の好意を得るのに、有効なことはなんだと思う?」


「相手の記憶に残ること、でしょ?」


「そう、正解。そして、相手に見返りを求めない小さな親切をすること。人はね、感謝できる生き物だから、大切にされていると思うとそうしてくれた相手に少なからず依存できるんだよ。何かに依存していないと不安なんだろうね」


達也は、そう言うと私とやり取りしている男性のコメントを読んだ。私の言葉の運びや見せ方に所々注意を交えて。


「ほら、この人も同じだね。話を聞いてくれる君に少し依存している。こうやって自分の時間を削って相手しているんだから。留目はそうだなぁ……」


「会いたい……だよね?」


達也の顔を皆に見せてやりたいよ。ニヒルな笑みってこういうことを言うんじゃないかな?怖いくらい笑顔。


「正解。ここまで空想的な立場の君に心を絆されているからね。その空想を現実に変えてあげよう。君に一度でも会えさえすれば、彼は君のものになる」


「でも、ネットの人に会うのは危ないことだよ?」


達也は善は急げだと、携帯を取り出すと何処かへ電話を掛ける。呼び出した相手はすぐに電話に出たのだろう、二言三言話をすると達也は携帯をパタンと閉じてポケットに仕舞った。


「僕のものを傷つけさせるわけないだろう?大和が君に同行する」


大和、というのは彼がここ3年くらいで集めた仲間の一人だった。なんでも警察官をしているらしい。

最初は、あきらさんと私の3人しかいなかったが、徐々に色々な理由や事情で助けた人達を自分のものとしてそばにおき始めた。その年齢は、子供から大人まで多岐にわたる。皆に共通していることは、達也のことを尊敬していること。崇めている人までいるというんだから、宗教のようにさえ感じる。


「大和さんが?」


「うん、そう。会うのは、公園がいいね。君は頃合いを見て、彼を呼び出して。もちろん、これは君のお披露目だからね?ただ今から会おうとか、つまらない文句は使わないこと、いいね?」


私が頷くと、達也はわしゃわしゃと私の頭を撫でた。

お披露目というのは、心理誘導のこと。これを他人に示すことを彼はお披露目と言った。

これから先きっと、沢山の人に誘導をかけていくのだろう。私はそれを楽しめるほど、精神的に強くはなかったが、彼から見放されることのほうが怖いことだと知っていた。だから、彼に背むこうなんてこれっぽっちも考えていなかったんだ。


 

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