中間発表。ありがとうございます。
「クエルクス!」
ユークレースの城内である。窓の外から聞こえる潮騒を心地よく思いながらクエルクスが書庫で調べ物をしていると、大仰に音をたてて扉が開いた。そして音のした方へ首を回すや否や、クエルクスの体の動きが止められる。
「すごいの! すごいの! すごいの!!」
クエルクスの自由を奪った当の本人は、叫びに近い高い声をあげる。クエルクスが口を開くより前に、ラピスはまくし立てた。
「この間の催し物でね、ユークレースがとりあえず諸国の中で次の段階まで進めるのですって!」
ラピスは嬉々として「すごい! 信じられない!」と繰り返すのだが、悲しきかな、クエルクスの方はそれどころではない。
「クエル? どうしたの? 嬉しくないの?」
ラピスがやっとクエルクスの首に回していた腕を緩めた隙に、クエルクスは即座にラピスの肩を掴んだ。押し返した。
「お……願い、ですから、落ち着いて……ください」
「あらクエルクス嬉しくないの?」
「嬉しいのは山々ですし感謝しなくてはいけませんけれど——」
こう息もつけないほど引っ付かれては、こちらの心臓がもたない——ただ、ラピスが喜ぶのはわかる。それは理解できる。なにせあの旅は大変だったのだから。
* ♪ * ♪ * ♪
鐘楼の鐘が夕方の訪れを知らせる。シレア国の王都シューザリーンでは、雪峰山脈の稜線を朱に染めて、山の向こうへ日が沈もうとしていた。
そんな静かな春の夕暮れだと言うのに、王城の廊下にはばたばたと靴音が鳴り響き、白木の扉が乱暴に開けられる。
「姫様ぁっ!」
叫びながら駆け込んだ青年に、落ち着いた澄んだ声が返ってきた。
「あまり音を立てるとまた大臣に小言を言われるぞ、シードゥス」
「あっはい、でも殿下、この知らせは大臣にとっても……ってお二人ともなにそんなに落ち着いて」
焼き菓子が盛られた皿の乗った茶卓を前に、王子と王女が珍しく二人揃って休憩をとっている。何とも優雅な光景である。王女が茶器を口から離し、感動してつぶやいた。
「わあ、これ美味しい。お豆からこんな美味しい飲み物が作れるのね。あ、シードゥス、言おうとしたこと当ててみましょうか」
「えっもうご存知なんですか?」
「ああ、先ほどこの珍しい飲料を紹介してくださった客人から報せを受けた」
王女は水さしに入った白い液体を杯に注ぐと、「飲む?」とシードゥスに手渡した。
「もうご存知なら。しかし妙に落ち着いてますね」
「落ち着いているって言うのかしら。嬉しくて、信じられなくて、なんだかまだ頭がまとまらない感じ。いつも肝心なところはお兄様なのに」
妹の嘆息を軽く否定しつつ、兄王子も言い添える。
「まさか、と思ったな。シレアほどの小国が通るとは。本当に」
こちらも予想以上に冷静に見える。兄王子では願い叶わずのところだったと言うのに。
下男が意外な反応に立ち尽くしていると、背後で再度、扉が音を立てた。
「姫様っ! 殿下っ!」
「今日は客が多いな」
「あら、大臣が息を切らすなんてところは滅多に見られるものじゃないわね」
喜色露わな大臣に、兄妹は揃って涼やかである。なるほど、とシードゥスは王子側近がここに来ない訳を理解した——大臣と兄妹のやりとりに付き合うのが面倒だったに違いない。
***
こんばんは。中間選考の結果、まさか今日とは思いませんでした。
仕事の方がやることが多かったものですから、水凪らせんさんに教えていただいて初めて結果を知りました。はい、私も先ほど豆乳ヨーグルトを美味しくいただいたところです。ありがとうございます。
中間選考、長編ファンタジー二作品
『時の迷い路』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054889868322
『楽園の果実』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894170460
共に通っておりました。
嬉しいです。嬉しいのです。と同時に、まさか、という感想が正直で。
楽園は星100も行っておりませんし、「時の〜」は期間中にいただいたレビューや星、また期間中に完読いただいた読者様も、少なかったのに。
以上の数値で言えば、昨年落ちた「天空の標」の方がよほど多かったはず。
なので、信じられない、と言うのが正直で、なんというか、頭の中が意外に静かです。なんて言ったらいいのでしょうね、この状況。
通ったのはキャラクター文芸。部門選択が良かったのでしょうか。
落ちるの当然だろうな、と思っていたので、嬉しい、と同時に、「最終は残れないだろうな」という気持ちが一緒にあって、不思議な気分です。
なにせ三月に落ちるのがわかるから、次に出せるところはビーンズ文庫かキャラクター大賞か……次に出すと言う前提だとコンテスト中間発表結果は早い方がいいな、と思っていたので。
最終は残れる気が、今からしていません。通って行った他の作品、読ませていただいたのは本当に面白くて書籍化行くだろうな、と思いますし、そうでないものも、耳に入る評判からして素晴らしい作品だと思うので。
あ、でも誤解しないでいただきたいのは!
読んでくださった皆様に、本当に本当に感謝なのです!
それは心からなのです!
そして私もやっぱり、書籍になって欲しい。シレアとユークレース、本になったらどんなに嬉しいか、想像もつきません。でもやはり本になって欲しい。
でも、「これを本で置いておきたい」「書籍で読みたい」「腰を据えて読みたい」
そういうご感想やレビューを複数いただけたことに感謝しつつ、そのご感想が現実になってほしいと、
心から思う気持ちは本当です。
まずはご報告と、お礼を申し上げます。ありがとうございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます