第12話 ドラゴンオーラ
創世記1の感想は、本の文末から、空中モニターのキーボードでのタッチ入力や手書きなどで送れるようになっている。
マイページからでもメールが可能だ。メアドを入力できればiPadからも送信可能だと説明があった。
なので使い慣れたiPadで、僕は感想文の作成を始める。
メモアプリで書き進めておけば、勝手に保存してくれるのでログが消える事もないので安心だ。
「やっぱり四方祇先生へ…の方だな。本を売りたい人なら、創世主扱いよりは作者の先生扱いの方が好まれる気がする。
創世主様になると嘆願書みたいな雰囲気だし」
僕は“なれる読者“であった事、その時の連載を楽しく読んでいたこと、その物語の世界に自分が移住し生活できる事が楽しいですという事をまず書いた。
実体験のお話はストレートに通じるだろう。
ついでに、現地の人との交流ができないので、クエストに新たに違う入り口のからの分岐を作って欲しいなど、改善して欲しい部分も書いてみた。
少し迷ったが、自分の理由も。
地球にいた時は引きこもりで、人と会う事を避けて今の土地に降り立っていると。
最後には第二世界での良いところ、まだ移住して数日だが、自分が体験して感動した所をたくさん記載した。主に料理した時の美味しさに感動したこと等だ。
キャラ絵待ちなのか、画像添付も受け付けている様だったので、料理の写真などを残しておけば良かった…と僕は少し後悔した。
とりあえず完成したので、送信っと。
送信後、創世主クエストの達成通知が届き、僕は無事にクエストの達成アイテムの、ドラゴンオーラなる名称がついたケープコートを手に入れたのだった。
ドラゴンオーラは羽織ったまま、手が出せるようになっているので作業しやすい。
マント系の装備をつけている人でなければこちらの方が使い勝手が良いだろう。マントは風に靡くしね…。
地球でよく見るウールタイプのケープではなく、レザータイプのケープで、ウエストをベルトで固定する様になっていた。なかなか格好良い。
iPadの起動ついでに僕はSafariで入り直した。
僕が移動してきたときは、第二地球への移住をお勧めする画面以外開けなくなっていたが、UFOが出現した(僕が移住した)日の昼過ぎには復旧されたようだという事が、SNSの履歴を検索して分かった。
どうやらネット利用がOFFになっていた間にUFO内から各国首脳陣へのテレパシー通話があった様なのだ。
通話後に軍備を固める国があれば、日本のようにユル募をかけて通常通りの国もある。
3日目の今日も、ニュースサイトのTOPページでは例の5つの光の話、第二地球に関しての政府や都知事からの通達などが上がっているだけだった。
僕は中継を切り取った一部の動画を見る。
「5つの光…UFOから伝えられた情報では、現在の地球の自浄作用により、年々大災害が増えてゆくとの事です。第2ステージへの移住希望者は速やかに移動してください。目を閉じると移住への説明ページが、全ての国民に出現します」
日本の政治家は第二地球への移住を推奨している様だが、コメントには“まずお前が行け“という批判しかない。
中には、他国の軍配備を見て先読みし、“宇宙戦争待ったなし“という様な発言も…。
『私達は、現在の第1ステージでは、プレイヤーの増加・環境資源媒体への負荷につき、システムの自己修復が幾度となく発生し、自然災害が増加傾向にある事。
これは、第1ステージの創世主“ماه طولانی با دم“様の提唱した
「全てに平等で美しくあれ。反する者は無に帰すべし」
という意志に従うものであり、今後も災害が増える事を、第一地球に降り立った時にお伝えしましたが、伝わらなかったのでしょうか?』
「え?天の声さんって、一昨日の地球にもいたの?」
思いがけず天の声と話す事になる。伝わらないといえば伝わらないだろう。
理解しようとすると、自分たちの生活は、創始者が作ったゲームのデータや、ホログラム世界の様なものという理解になるだろうし…。
「国民にも分かる様に言い換えたという事で、この場合は政府の説明でも良い気がするよ?」
『そうなのですね』
日本の場合率先して動く人などまずいないだろう。
利益や安全が確保されてからや、“みんな“が移動を始めてから動くという人が多いはずだ。
放っておいても、周りで人が減ったら移住してくるだろうと僕は思っていたのだが、移住した端から地球上でその人物の記憶が抹消されるって、天の声が言ってたっけ?
日本に限って言えば、移住推進の営業をしなきゃ無理っぽい気がするな…。
人間は自分の所属する場所で、視点や考え方が変わると言うが、僕も既に第2ステージの住人としての考え方になっている様だ。
お迎えムードになっている。
『“相田道流“に、創世主“四方祇“から通話希望通知が届いています、受けますか?』
天の声さんは驚くべき事を僕に伝えた。
「え!?え…ええ……ちょっと困るかも、えっどうしよう」
初対面の人と話すのは心臓が持たない気がする。
『お困りですね。承りました。』
それから天の声さんは黙ってしまった。
断った後に、どうしようと僕の頭はぐるぐると考え始める。
創世主とお話しできるというのはとても貴重な時間だったのかも知れないのに、僕はもったいない事をしたかな…。
というか、物凄く失礼な事をしてしまったのかも…。
『創世主“四方祇“からのメッセージを受信しました』
15分ほど経った頃だ。天の声さんが再び声を発した。
感想を送信したメールアドレスへの返信メールを開くと、文字がびっしり埋まっていた。
僕はずっと電話を断ったことを悶々と後悔していたのだが…逆に四方祇さんは僕にメールを打っていたという事なのか!?
「あばば…」
自然に声が出る。
『……?』
天の声さんが真顔で首を傾げる犬のような反応を醸してきたので、感動と恐縮の感情を含めた感嘆詞だよ…と適当な事を伝えておいた。
緊張して目が滑るが、何度か読み直し意味を捉える。
四方祇さんは創世主クエストで初めて感想を貰った事や、なれるでも僕が読者だった事を知って喜んでくれた様だ。
四方祇さんは地球の方に行き来できなくなったらしく、なれるの方は投稿ができなくなったらしい。
僕のiPadでは投稿作品ページが見えているので、操作をしたいのであれば天の声さんに頼むのもありなのではと、感想を読みながら口した。
『創世主“四方祇“は地球の媒体にアクセス可能になると、第二地球での仕事をしなくなります』
そういう事でしたか…。
それにしても、感想を送った作者の方と交流ができるなんて感動だ…。
気持ちが落ち着いてきて、さっきまでは単語を拾って読むだけだった僕も、ようやく文面を理解できるようになってきた。
四方祇さんは僕が引きこもりをカミングアウトした事にも触れていて、それだけ人を想いやれるという事だと思うし、真っ向勝負をせず、回避能力が高いのは素晴らしい事だよと言ってくれていた。
母と同じ様な解釈なのか。
社会に出てからの方が役に立つ気がするねと、暖かく励ましてくれていた。
第二地球には、就職できる企業がまだ無かったり、職業を選択式の世界にしてしまっている自分に言える事では無いかもしれないけど…と、まとめられていて、クスッと笑ってしまった。
「クエストの設定上、現地交流以外の進行を増やすのは難しかったので、創世主権限で、道流くんと交流したい存在を増やす事にしました。さて、君は逃げ切れるかな?」
最後のこの文章だけは何度見ても僕の理解が及ばない。
やっぱり通話を断られた事で、お怒りだったんじゃないだろうか…
創世記2を購入したときに、その時に感想と一緒に謝罪しようと僕は決めた。
その日の夜から、ベッドをガラス蓋で覆うのはやめて、中華鍋ドームに変更した僕だった。
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