第11話 読書感想文

朝、日の出の頃起床した僕は、前日に仕掛けた籠を取りに川へ向かった。

地形を把握したかったので今朝は歩きだ。方位だけを頼りに歩くと川に着くまで10分程掛かってしまった。

無駄な徒歩だった…とはならなかったのは、道すがらで蛍の様に発光するタイプの生物を見つけたからだ。

蛍の様な虫形状ではなく、サッカーボールサイズのまりもの様な丸型で、空を漂っている物体だ。

所持リストに入れてみると、名称は“ツキノコマリ“と言う菌類との表示がある。

説明を読むと、乾燥すると集合体となり発光しながら浮遊する。湿気を吸って湿ると地面に潜むそうだ。

乾燥した日であれば日中も発光して漂っているらしいが、太陽光があるのでよく見えない。

日中の月の様な存在というのが名前の由来だそうだ。

スパイスや薬として用いられるそうだが、僕的には、見つけた時のツキノコマリが懐中電灯くらいの明るさだったので、日が暮れてからの灯りとして使うつもりで確保した。


さて、籠の引き上げだが。職業をどうするか。

イメージ的に農業にするとタニシなどが大量に入りそうで、料理人にした場合は、形状的にうなぎなどが入ってくる気がする。

新しく出てきた“魔術師“もあるな…一応選択をしてみた。

籠を引き上げようとすると滅茶苦茶重くて、無理に引き上げようとしたら、足が滑って川に落ちてしまった。

幸い、羽衣の書を懐に入れていたので、服を濡らす前に宙に浮けたのだけれど肝心の仕掛けた籠は川底だ。諦めるしかないのか…。

しかし、水面に映る自分の姿を見て、僕はふと閃いた。

「やった!成功だ」

水面から浮かび上がった籠が、網目から水を滴らせつつ、宙を浮いている。

羽衣の書で籠にも魔法をかけてみたのだった。

水圧が掛かって重いとはいえ、人体よりも軽いのだ。自分を浮かせるより楽々である。

引き上げた籠の中身を、僕は草むらへ引っくり返す。

釣れていたのは12cm前後の派手な色の魚と、丸い…エイ!?見た目がカブトガニに見えたが、箸で突いてみると表面はぷにぷにと柔らかい。

「エイって河で釣れるんだ…食べれるんだっけ?確か、尻尾に毒がある種類が居たよね。」

とりあえず気になるものは所持リストに入れてゆき、川藻や小さめな魚などは川の中に戻してゆく。

所持リストを見ると、得た魚は主に観賞用として売買が可能だった。

海老蟹同様、食用としての出荷は不可能となっている。

食べられないのかと思ったが、職業を料理人に設定すると調理例が出てきたので一安心だ。

一番可食部の多い丸いエイを調理してみるとして、派手な色の魚は1匹500YEN〜3000YENとなっているので、ショップで販売してみよう…。売れなかったら魚が食べたい時に頂きます。

丸いエイは“ヒラべ“という名称で、煮込み料理に合うらしい。

鮮度が良ければムニエルの手法で、焼く調理でよく食べれられるとのことだ。

さて、どうしよう……。


少し考えた後、僕は川辺でヒラべを捌いて、滑りが強かった上側の皮を剥いだ。

身の部分の真ん中には、サンドイッチの具のように骨が入っていた。

骨を取ろうか迷ったが、取るとなると過食部が減るし。

軟骨らしいので今日は取らずに調理するか。

ペットボトルの水で洗い流して、食べない部分は川に蒔いた。

魚を調理すると魚臭くなるから生活場所では調理を行いたくなかったりする。

同様に、煮付けにしても煮詰めるのに時間がかかるせいか、結構周囲が魚臭くなる。

なのでヒラべはムニエルにする事にした。

塩胡椒を身に振り、小麦粉をまぶすのだが、昨日かき揚げを作る時に天ぷら粉を開けていたので、天ぷら粉でも良いだろう(食べるのは僕だし)

火炎魔法では火力を絞る調節が難しいのもあり、カセットコンロで調理した。

フライパンにオリーブオイルを入れて、ヒラべを蒸し焼きにし、ついでに昨晩分けておいたおにぎりもアルミホイルで巻いて蓋の上で温めてみる。

火を止めてヒラべの横にマキマキを入れて予熱で調理。

完成〜!…にしても良いのだが、そういえば昨日の蟹が手付かずのままだ。

こっちの世界に来てから汁物がなかったので蟹の出汁で味噌汁を作る事にした。

味噌汁の場合は魔法で鍋に熱湯を作った。僕がお風呂を沸かす時の要領だ。

蟹は出汁が出やすいように半分に切って…蟹が赤くなり火が入ればほぼ完成。

液味噌と、味噌汁の具セット(わかめ、巻麩、乾燥ネギ)を入れた器に蟹出汁を注ぐだけで蟹出汁のお味噌汁だ。


朝ごはんはヒラべのムニエル、マキマキ添え。

そして、おにぎりと蟹出汁のお味噌汁

「いただきます!」

1人しかいないのに挨拶はおかしいかもしれないが、誰もいないので気にする必要もないという事で。

「うわぁ…ヒラべもとろける食感。骨も食べれる」

ヒラべはムニエルの調理法が良かったのか、脂が乗っていたのか、その身を口に入れるとじゅわっと脂が広がり、舌を動かすだけでとろりと身が溶けた。

一緒のフライパンに入れていたので、ヒラべのエキスを吸ったマキマキも付け合わせに最高だった。

「骨はちょっとコリコリするから、次回は唐揚げにして食べてみたいな。また釣れますように」

結構量が多く、三人前はありそうなヒラべのムニエルだったが、あっという間に食べ終えてしまった。

蟹出汁の味噌汁はあまり馴染みのない味だったがこちらも美味しい。

おにぎりと一緒に、お腹の満足度を上げてくれた。

蟹のサイズ的に身の部分は食べれないので、丸ごと食べれる調理法や、殻の再利用の方法も考えたいな。

さてと、食べ終えたらマキマキの収穫に向かおう。

僕は普段の生活圏に飛翔して戻り、2時間で20キロのマキマキ収穫〜出荷を行った。


今日は創世記1の、読書感想文を提出して早くクエストを達成せねば、だ!

夜の内に“創世記1を最後まで読む“のクエストは達成し、ドラゴンヘルムなるものを貰ったが、ヘルメットというよりも、ドラゴンマスクであり、ゴム形状の被り物だった。被るととても暑くて臭い。

対魔物避け効果があっても、身につけるには色々とハードルが高かった。

“感想を送る“の方のクエスト達成アイテムは、ドラゴンの爪がボタンになっているケープコートだ。

牙ではなく爪って、本数的にドラゴンの身が心配になるのだが…きっと爪が伸びたものをカットしたものだろう。

“創世記2を購入する“のクエスト達成アイテムがドラゴンソードだった。こちらはまだ本が発売されていないので待ちの姿勢だ。

ソードはドラゴン攻撃用で回復が早い生物に対してリジェネ効果があるという説明だった。

その他は防具で、ドラゴンのオーラを発し、他の生物を威圧する力が備わっているそうだ。

ドラゴンと同様、状態異常への耐性が強い。

とにかく、夏休みの虫取りスタイルしかセット装備が支給されていない僕には、ケープコートというちょっと小洒落た存在が必要だ。

「感想の書き出しって、四方祇先生へでいいのかな?創世主様の方がいい?」

悩む僕の姿を、骨のない生首状態のドラゴンマスクが返事をせずに、潰れた顔で見つめていた。

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