第9話 魔法の書

食後、明かりもないし、する事も無いので寝る事にした。

今までの生活に比べるとかなり早い就寝だが、灯りが無いと人の体は自然と寝るモードに入ってしまう様だ。

寝ている間に何者かに襲われる不安もあったので、フライパン用の硝子蓋(丸型)を巨大化して上に被せ、防御用に置いてみた。

卵焼き用フライパン専用の蓋もあったのだが、外が見えないのと、獣がぶつかって来たらズレると思ったのだ。

硝子蓋の場合、表面が強化ガラスだし、ドーム形状の曲面なので衝撃も逃しやすいと思う。

あと、良い感じに卵焼きパンの長方形の角にフィットするサイズに調整したので、ぶつかられてもズレ無いだろう。

寝ている間に窒息しないように空気孔も広めに必要だしね。

側から見ると背の低いスライムみたいな感じだろうか?(スライムがいる世界観なのかは知らないけれど)

地面から弓形の何かが生えたようなドーム形状である。

そんな訳で、どこからともなく響く虫の音を聞きながら、奇妙なフライパンベッドで安眠を貪る事で、僕の第二地球1日目は終了したのだった。


翌朝、日の出前に目が覚めた。

携帯食を少し齧ってから、僕はマキマキの収穫を行う。

それ以外、特にする事もないのでね…。

昨日の分と併せて、100メートル四方程は刈り終え。7時ごろか、太陽が眩しくなった辺りで一旦休憩に戻った。

「よし…今日はマキマキを出荷してみよう」

職業を農業にしていると、第二地球の大手の卸売り業社に出荷が出来る様なのだ。

ショップで個人販売を行うよりは値は下がるが、ショップで頻繁に売買が可能なのは主に地球からの移住者が利用するものらしい。

現地民の場合、店舗を構えた商店に赴いて利用する様なのだ。

移住者は瞬時に届くネット通販として利用可能で、現地民は遠くのスーパーまで買い物にゆく様な感じだ。

ショップの基本説明を読むと、現地の商店の商人になるには登録と審査があり、取り扱える商品の種類数も店の規模で決められている。

マキマキならば薬屋などの取り扱いとなる様だなと、マキマキを売買する取り扱いショップの名前で僕はそう判断した。

移住者の優位性はありがたいのだが、現地民に不満はないのかが気になる所だな。

それは置いておいて、移住者の場合だが貰った携帯食もまだあるだろうし、好き好んでマキマキ(見た目がゼンマイ)を購入するとは思えなかったのだ。

売る方の僕もマキマキの在庫が大量にあるので、現地の人を相手に販売を行う方が安定収入になるだろう。

所持リストのマキマキのページから、出荷ボタンを押すと買い取りページに飛ばされ、1単位での買取の料金が表示される。

単位は、1束だったり、1箱だったり、kgだったり。

束にする紐も、入れる箱も持っていなかった僕は、直接送れるkg販売で選択した。

買い取り額では一番安くなるが、表示された買取金額は20kgで5万3000YENだった。

特に問題はないので販売を行うと、一瞬で残高に入金が済まされた。

「凄い…1日でこんなにお金が稼げるんだ…」

農家の人の収入に比べた場合、高いのか安いのか想像ができないが、未成年の僕にとっては大金だ。

所持総額の入金履歴を改めて確認した僕は、マキマキ収穫への意欲も湧いて昼が来るまでに追加で20kgの収穫を済ませ、再び出荷したのだった。


そんな感じで、何度かショップを見る機会が増えて気づいたのだが。

ショップを見るたびに毎回、“移住後48時間限定セール“のバナーが出てくるのだ。

こういう課金を煽る要素は押してはいけないだろうと思っていたので、今までは見るまでもなく表示を消していたのだけれど、もしかすると掘り出し物もるのかも知れない。

マキマキの出荷で収入を得た事で気持ちの余裕になり、僕は覗いてみる事にした。

「高ぁ…ぃ……ですね」

やはりハードルは高かった。

セールページで紹介されている品物は超掘り出し物では99%オフセールになっているが、最低額の商品でも10万YEN台なのだ。

転移の巻物もあり、半額の50万YENでの販売だった。

巻物の他に、転移の書というMPの使用で何度も使えるアイテムもあった。こちらは99%オフで、100万YENだっ。つまり、転移の書の元値は1億YENという事!?

書の説明を読むと、魔法を使えない人にも魔法が使える物という事だ。

転移の書と違い、他の魔法書は一律20万YENだった。

火炎の書

氷化の書

治癒の書

麻痺の書

石化の書

羽衣の書

である。

セールの品最安値で回復薬10本セットが10万円であるのをみると、2倍の額ではあるが消耗品ではない治癒の書はお買い得なのかも知れない。

あと、現在僕がいる土地だと、日本のように山が無いので湧き水なども自然で濾過はされず、水場があってもその水は蒸留しないと飲めないだろう。

魔法で出てくる氷なら合成した純水だろうし、お高くても氷化の書と、火炎の書を組み合わせて水の確保もしたい所だ。

万が一猛獣が出てきた時にも、攻撃用にも使えるので買うしかない!

そんな感じで、初給料が入ったテンションの僕は、2冊の書を購入した。


早速、書を試そう。

僕は職業を料理人に選択し雪平鍋を取り出す。

氷化の書に掲載される初期魔法の、アイスニードルを3本出し、拡大させた雪平鍋に入れる。

その氷柱を炎魔法のファイヤーで溶かしてみるとお湯が出来た。

所持リストにカップ麺があったので沸かしたお湯を注ぐ。

3分後、カップ麺をもぐもぐしながら、僕は細かな確認作業をする。

MP消費はアイスニードルが1回で1000MP、ファイヤーが1回で500MPの使用。

魔法のレベルによって消費MPの大小はある様だが、書は装備扱いになるようだ。手に持つ・懐に入れておくなどの所持でMPの上限も50000MP増量された。

僕のMP残量的に見ても魔法の使い放題ができそうだ。

「魔法を使えばお風呂にも入れそうだな。今日は寝る前に入ってみよっと」

一気に40万YENを使ってしまったが、満足のゆく買い物が出来て良かったと思った。

ただ、一点気になる事も発生したのだった。

“あと1商品購入で、転移の巻物プレゼント“の文字だ。

課金煽りだ…。煽りだと分かっているのにもう一点を選ぼうとしている僕が居た。

治癒の書はお買い得なのが分かっているが、羽衣の書というものも気になる。どうも飛行魔法の一種の様だ。

飛行が出来るのであれば、鬱蒼と茂る、この地の樹の枝を剪定して採光が出来る様になるだろう。

地を這う獣対策には、高所に逃げられる事はアドバンテージになる。

悩んだ末に僕は、治癒の書・羽衣の書を買い足した。

煽りには乗ってしまったけれど、転移の巻物も確保し、消費以上に精神的な安心を得たのだった。


食後、羽衣の書を発動させて空を飛んでみた。

羽衣の書の魔法は2つしかない。飛んで移動するか、早く飛んで移動するかの二択だ。当然早く移動する方がレベルが高くなりMPの消費も増える。

書を懐に入れて装備することで、職業欄に魔法使いが出てきて選択可能になっていた。

魔法使いの場合MPの残量が10倍上昇し、魔法に使う消費MPが10分の1になるようだった。

僕の場合はMPよりHPの方が明らかに少ないので、林業を選択し木の枝を剪定する作業を行なった。

林業の選択で、なんの抵抗もなく切れる太い枝を、僕はスパスパと高枝切り鋏で剪定し、上空まで出た。

木の上は壮大な風景が広がっていた。上3分の2は青い空、下3分の1は緑の森。

どんどん高度を上げると、空の面積が広がり、遥か遠くには海。

真逆の方向を向くと岩山が見えた。

慣れない高所なので、木の上より高い部分まで飛んできてしまい不安でもあるが。この土地がどの様になっているのかを確認しておかなければ。

「あった河だ!」

高い位置から下を見ると、森の葉脈のように大小の川が沢山枝分かれしているのが分かった。

川や雨季がなければこんなに生い茂った森は作られないだろうから、川はあるとは思っていたのだ。

上空から見て一番近場の水場へ僕は飛んぶ。

「やっぱり空を飛ぶと早いんだな3分くらいか…。

魚とかいるかな?美味しいけれど、流石にマキマキだけ食べるとなるとしんどいよね、魚が取れるなら食べたいな」

僕は武器である虫取り網を取り出し、水面近くを飛翔しながら川の水を網ですくった。

網の中には大量に蠢く虫が取れていた。

僕の短い悲鳴が森に響く。

…おぞましくて、体の震えが止まらない…。虫取り網を川に落とすかと思ったよ…。

職業を林業にしていたからだろうか?次は職業を料理人へ変更し、すくってみた。

すると今度は海老・蟹系の生物が沢山取れていた。

というか、虫取り網だからなんだろうなこれは…。

甲殻類が虫扱いになっていると思うと食欲が下がるというか…エビカニを食べすぎた場合に今後アレルギーを発症しないか気になはなる。

魚を獲るにはどうすれば良いかを考えていると、ツタヤで籠が編める事を僕は思い出した。

僕はツタヤの情報から編み方の手引きを見つけて、籠を編んでみる事にした。

1時間後完成したのは入り口が狭くなっている壷状の籠だ。

川べりに投げ入れて、吊るして置くのにも丁度良いと思う。

その中にさっき取れた海老蟹を数匹入れて、僕は籠を川に沈めた。

夜の間置いておいて、明日の朝引き上げに来よう。

残った海老蟹は、魔法で作った水を張った鍋に入れ、夜ご飯までの間泥抜きだ。

鍋を持って飛翔し、僕は再びマキマキの収穫作業へと戻った。

今日使ったお金の分を収穫して稼がなければだ!

その日の夜は魔法を利用したお風呂に入ったり、火炎の魔法で焚き火の確保もできたので、前日よりも少し遅い就寝時間となったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る