第6話 転移の巻物

日中の草原に立っていた僕は、腰を落ち着ける場所を求めて歩いた。

幸い100m程歩いた距離に、隕石か何かなのだろうか?2メートルほどの岩があったので、そこまで歩き岩影に座る。

その場所から、追加で1km程歩けば林もあったが、行く気にはならかった。

その林にどんな動物がいるかもまだ分からない。

今まで住んでいた街中とは違い、獣と遭遇したら戦う必要があるだろう。

とりあえず何か武器になる様な物を探してみよう。

「さっき貰ったものの中に、使えそうな物とかあるかな?」

アイテム取得履歴から、ログインギフトの宝箱と、クエストの達成褒賞を確認してみる。

▼宝箱の中身はこんな感じだった。▼


・転移の巻物(1回分)

・創世主からの推薦状

・回復薬(24本)

・寝具6点セット1式

・洗面用具

・携帯食7日分


取り出した巻物を開くと、中身は世界地図だった。

これは目を閉じてみるタイプではなく、ちゃんと肉眼で見えて、触れる物だ。

「へえ…巻物で、この世界のどこへでも移動できるのか」

地図の図形としては地球地図のままだが、“決定“と“キャンセル“の文字が存在を主張してくる。

また、地図上には大小の○が点在した。

○の中に書かれた数字が微増減を繰り返しているので、想像するに人口の数なのだろう。

確認の為に、天の声にも聞いてみると“リアルタイム計測時の人口“で正解だった。

ちなみに、創世主からの推薦状というのは移住に必要な推薦状。回復薬はどんな重症でも一瞬で治せるアイテムらしい。

回復薬を利用すれば、移住して来た地球人の持病も完全回復との事だ。

その他の、初めての一人暮らしセットの様なアイテムは、字面から察した通りの馴染みある物だった。


地図(巻物だが)は、押してみると直上に空中ディスプレイが出現した。

地図上の土地のリアルタイム映像が確認できる。某デジタルマップのリアルタイムビュー版の様だ。

地図所有者の現在地にはポイントマークも現れ、行き先を決定すれば陸地の経路ナビとしても使える。

(でもなぁ…余計なお世話かもしれないが、悪用されるんじゃないのか?これ…)

映し出される映像には、カメラの視点を変えると住居の中もバッチリ映っていた。狙って探した訳ではないのだが、場所によっては裏庭で半裸で水浴びをしている女性の後ろ姿なども…。

道徳的に気になったので天の声に聞いてみた所、STORYの“君の願いが次々に叶うだろう“という文言が引用された。

『創世主は欲望を制限しておりません。が…プライバシーの観点から、改善に努めます』

どうやら天の声は会話学習型らしい。犯罪者予備軍が気付く前に改善されますように…と僕は願った。

地図が見せる映像の雰囲気としては、よく転生モノの舞台になる中世といった雰囲気だ。

今までの世界よりは人口は少ない様だけれど、城が有る様な大都市ともなると、それなりに映り込む人の数が多い。

建物の数だけ人がいると思おう。

城下町は僕の転移先としては却下となる。


▼次はクエスト報酬の確認だが▼

・装備1式セット宝箱(選択型・Aランク以上確定)

・回復薬(12本)

・50万YEN(この世界で使える通貨 1YEN=1円)


武器の確保は出来る様で、ひとまずホッとした。

回復薬はログインギフト宝箱と同じ物だ。

消耗品だろうから、増えるのはありがたい。

通貨だが、貰ったのは50万だったが、表示残高には250万程手持ちがあった。

天の声に聞くと、元いた世界での僕名義の金融資産…金融機関が把握していた金額が、そのままこちらの世界に持ち越しされたらしい。

僕が自分で貯蓄したものもあったが、主に両親が僕名義で貯めていた貯金や保険の様だった。

第二世界のカウントは地球の金融機関の情報と紐づいているそうで、引き出されたお金やタンス預金の場合は、所持リスト内に記載していなければノーカウントとの事だ。

あと、世界各国からの移住者の為に、各国の生活水準を目安に、妥当な金額に調整されるそうだ。

ただ、第二地球の創世主が日本人なので、日本からの転移者は日本円の価値のままらしい。

日本円が世界基準通貨になっている世界か。


ちなみに、目を閉じて確認ができるページは、捻りもなくマイアカウントページという名称だった。

ショップという画像ボタンも存在し、手持ちのお金の残高内であればショップ内の品物が購入ができる。

購入商品は一瞬で所持リスト内に転送されて来るそうだ。

移住者は所持リスト内の物を販売する事もできる。

所持リスト内部から出したものは、収納する事もできるが、新品とは違い、同じ物でも耐久度は下がるので、使用した場合は別のものとして所持リストの枠を一つ別に使うそうだが、便利過ぎる機能だ。

ただし、それに慣れてしまった場合の注意点もある。

第二世界の住民から購入した物は所持リスト内には入れることができないらしいのだ。

現地にある店で購入した品は、自分で持つか、居住スペースに置くか、消費や転売や削除をするか、作り替えるか。

作り替えるというのが気になったので、掘り下げて天の声に聞いてみると、転移者は第二地球にある品物の再利用で、新しいく製品を作り替えた場合、ショップで販売を行うこともできるとの事だ。

作り替えるというのがイメージし辛いな。装飾や着色などだろうか?僕などには縁のない職人技のような気がする。

望まれている移住者の主な役割としては、創世主の作った第二世界をより充実させ、移住した自分達の願望を満たして行く事…だそうだ。

「移住者は全員、この世界の住人よりは優遇されていて、その余裕を利用して第二世界を充実させる行動をとれば良いのか…」

僕の独り言を、大正解です!と天の声は褒めて?くれた。

『第二地球の住人と会話を行う事で、転移者には第二地球攻略のヒントが与えられます』

天の声は親切で教えてくれたのだろうが、こちらは聞かなかった事にしよう…。

ピンポイントで会話とか…僕以外の誰かが攻略してくれるだろう。

装備一式セット宝箱の内容に目を通した後、僕は再び転移の巻物を開き、次に取るべき行動を考える。

手持ちの食料と水、ショップ購入でしばらくの生活は凌げるだろうけれど、草原の真ん中での暮らすというのは現実的では無いだろう。

(数日様子を見てからになるだろうけど、死んでも戻れないんだし、住む場所を決めなきゃな…)

そう思った時だった。


「ねえ、ほら‼︎あそこ人がいる!」

「マジか!俺らより早くこっちに来てる奴いたんだな」

「誰が声かけに行く?」

「……そう言う塔矢が、適任」

僕が岩影で作業をしている間に、新たに人が転移してきたらしい。

声から察するに男女混合の四人グループだ。

僕は岩の日向側に回り込み、身を隠す。

一瞬だけ見えたが、宝箱の中身だろうか、クオリティの高いコスプレ衣装(いや、Aランク装備なのだが…)を四人とも纏っていた気がする。

「あのーー…こんにちは〜。えっとー僕たち怪しい物ではありませんー

 ……少しお話しできますか?」

カチャカチャと装備の金属が擦れる音で、グループが近づいて来るのが分かった。

対人を拒否する僕には、その音は絶望でしかなく。

逃げたい一心で地図上の人口密度の少ない地域を選択し、“決定“を押した。


「あ…あれー?誰も居ない」

道流がさっきまで居た空間を見て塔矢と呼ばれていた青年は呟く。

「……エリーナさんの見間違いだった?」

「いや俺も見たぞ、忍」

「ん〜転移の巻物ってやつ?私達も移動先を早く決めない?」

エリーナと呼ばれる女性の見た目は明らかに日本人だ。

その名称は第二世界でいうアカウントネームだ。

プロフィールページにて、初回のみ無料で変更が可能だ。

エリーナの提案に乗り、四人は先程までの道流と同様、岩が作る日陰に腰を降ろし転移の巻物を眺め始めた。




(………また…やってしまった)

先程の地図上での日本の位置にあった僕の現在地マークは、現在赤道上の島に移動していた。

後悔する僕の目の前には、ジャングルが広がっている……。

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