第2話 朝ごはん
天空に出現したライトのせいで、遮光カーテンを閉めていても普段よりも室内が明るい。
異常な状態に焦りつつ状況を確認する為にネットの情報を眺めたが、どうやらネット上はパニックは一通り過ぎ、お祭り騒ぎの様である。
SNSの個人アカウントは見たこともないスピードで流れ、実況ツイートや大手新聞社のツイートのカウンターが壊れ気味の数字を叩き出している。
人々の報告を見ても、空では5つの光が浮いたままで特に変化は無いらしい。
確か…第1ステージが攻略され、第2ステージへ行けとか言われていたけれど、一体どういう意味なのか。
まあ、UFOから発せられたメッセージのようなので、日本人とも限らない。
翻訳のミスかも知れないな。
ふぅ…と一息ついて、スタンドセット状態にしていたiPadのキーボードを折り込み、タブレット状に戻した。
こんな状況で寝直す気にもなれないので朝食でも摂ろう。
スウェットの上からパーカーを羽織り、折り畳んだiPadを片手に抱え1階へ降りた。
僕は冷蔵庫から朝食に使う食材をまとめて取り出す。
食パン1枚を袋から出し、ミックスチーズ一つかみと個包装のカマンベールチーズ1ピースをパンに乗せトースターに掛けた。
焼き上がるまで5分くらいかかるだろう、その間はおかず作りだ。
フランパンを火に掛け、ベーコン2枚を敷き焼き始める。
1分も経つとベーコンの脂部分が透き通りぱちぱち跳ねるほど油が出てきた。
2枚の肉をひっくり返し、出てきた油の上に卵を割り入れる。
ジュワーという、香ばしい音が室内に響くので、フライパンに蓋をして火を止めた。油よけの意味もあるが、パンが焼けるまでの残り時間で、予熱調理だ。
洗ったベビーリーフをキッチンペーパーで水気を取り、ミニトマトとガラスの器に入れて、最初にサラダが完成した。
使い切っていない食材を冷蔵庫に戻すついでに、好みのドレッシングを取り出す。
今日は柚子ドレッシングにしよう。
大きめのトレイにサラダ、ドレッシング、箸などを乗せてゆき、パンとベーコンエッグを盛り付ける為の皿を配置した。
後はチーズトーストの完成を待つだけだ。
トーストは盛り付ける前に蜂蜜を垂らし、ブラックペッパーを振りかける予定だ。
蜂蜜とチーズのピザが好きな僕は、母がカマンベールチーズを買ってきた時にはチーズトーストを作るのだった。
ピザ生地程ではないが食パンでも美味しく作れるので、気分は満たされるのである。
焼き上がりを待つ間、粉末カップスープにお湯を注ぎ、僕はテレビ前のソファに移動した。
空に浮かぶ怪奇現象に関しての新しい情報がないか、手ではスープを混ぜながら画面を見ていると、朝の情報番組から画面が切り替わる。
移動先は首相の緊急記者会見の中継だそうだ。
現在、5つの光が空に現れてから1時間ほどらしいが、緊急会見というのは、通常に比べるとなかなかのスピード感なのではないだろうか?
“チーン“というトーストが完成した音が一瞬気分を日常に戻し、僕を再びキッチに立たせる。
半分にカットしたトーストと、黄身がいい具合に半熟のベーコンエッグを盛り付けると、朝ごはんが揃ったトレイを持ちテレビ前に戻った。
テレビ前のソファとテーブルでは、普段はお茶をする程度だ。
テーブルとソファの高低差が気になるが目の前のテレビ画面も気になるので仕方がない。
中継が飛んだが、首相官邸の生放送はまだ設置の途中らしい。
長いCMが終わっても、現地取材に赴いたアナウンサーの女性が現状報告を行っているだけだ。
とにかく、パンが冷めないうちに食べてしまおう。
サラダにドレッシングを掛けて、箸で取れる一口をパクリ。
トマトの酸味が口内に潤いを与えてくれて、入眠後3時間で起こされた僕を、起きて活動を始めようという気分にさせてくれる。
次は、半分にカットされたハニーチーズトーストを、箸を持っていない左手に持ってかぶりつく。
これはチーズに焦げ目をつける焼き方をするので普通のトーストより焼き時間が長い。
まずは裏面のザックリした歯応えが口内に伝わって、チーズを乗せて焼いた表面からのジュワッと甘じょっぱさが追ってくる。
咀嚼するとチーズの味が口と鼻腔を刺激した。
ウマい!
2口、3口と止まらない〜!
半分以上食べた所で口の水分が持って行かれ、僕はスープに口をつけた。
一口目は平気だったが、2口目からはまだかなり熱い。
火傷するかと思った…とろみがあるので冷め難いようだ。
箸の行先は、再び最初に潤いを与えてくれたサラダに戻り、次は慎重に…ということでサラダの後はベーコンエッグの解体を始めた。
油が抜けたので硬めの板状になっているベーコンを箸で摘むと、ぷっくり浮き上がっていた目玉部分にぷすりと刺す。
すると、とろ〜り半熟の黄身が流出してくる。
見た目は食べ物系番組の様に編集された動画には及ばないが、美味しいが確約された半熟卵の演出!
ベーコンと目玉焼きにはソースの様につけ食べ、チーズ部分が少ないパンの耳にも黄身をつけて味変だ。
テレビ前のテーブルに運んだトレイ内で、自分の好みの食べ合わせを探しながら孤独のグルメという名の朝ごはんは食べ進められるのだった。
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