第64話 願い事の光。奇跡の再開。

「…ちゃん、キッちゃん。」


車から見える景色はまだ薄暗い。でも、他にも沢山の車や人達、中には車から顔を出す犬の姿が見える。この場所は初日の出を見るには絶景のスポットとネットに書いてあった。


そして、ここで願い事をすると叶うとも…。


私はキッドを起こし、水分補給をさせた。


「はい。お水。あのね、ここはキッちゃんと、必ず来ようと思ってた場所の1つなの。」


「キッドの脳炎が治りますように。」それ以外の願い事等ない。

私はキッドを毛布にくるみ車の外へ出た。

辺りがざわざわと騒ぎだす。


「もうすぐだぞ。」「ご来光だ!!」


少しずつ少しずつ…

新年と共に太陽が顔を出し、辺り一面を照らし始めた。


「キッちゃん、明けましておめでとう!!」「……?」「だよね(笑)分からないよね。でも、おめでとうなんだよ!!」


とても綺麗な景色。輝いていて眩しくて…まるで神様の様。

私は両手を合わせキッドの病気が治るように何度も何度も祈り続けた。


「キッちゃん。来年も…必ず見に来ようね?」

私はキッドの顔に頬擦りしながら言った。

「必ず…また2人で必ず見に来よう…必ず。」


神様、お願いします。私の命よりも大事なこの子を、まだまだ私の手元に置かせて下さい。

一緒に生活させて下さい。姿を見させていて下さい。

私には…この子だけなんです。


「実は…もう1つキッちゃんにサプライズがあるんだぁ!」

そう。キッドとしたかったランキング5位以内に入る憧れていた夢。

それは、「ペンションに泊まる事」。

ずっと下調べをしていたら、ペット可のコテージが見つかった。値段もリーズナブルで、とても清潔感があるその場所を目にした途端、私は有無を言わずに予約をしてしまっていた。


沢山の動物がいて、キッドにもいい気分転換になるのではなかろうかと考えた今回のプラン。キッドは喜んでくれるかな!?


「さ、どこかで一休みしたら行こうか!キッちゃん!!」「……」「何だか…嫌そうね(笑)」


キッドの真ん丸な目が棒になっているときは気乗りしていない時。それでも私は行く!!行ったりキッドだって心変りするかもしれない。

私はまだまだ時間があった為、コンビニ等で時間を潰しペンションへと向かった。


「着いたよキッちゃん!!空気が美味しいねー!?」


沢山の人達と動物達。大型犬からキッドの様な小型犬まで、沢山のペットを飼っている家庭の集合体が私の心を弾ませた。


「こんにちは!!同じチワワちゃんですね!」「あ、はい。何歳ですか!?」「13歳のおじいちゃんなんです。」「13歳!!でも、元気そうですね!」


声を掛けてくれたのは、40代半ばの男性。リードの先を辿って見てみると、そこにはトボトボと歩く同じチワワの老犬ワンちゃんがいた。


「出来る限り、長生きさせてやりたいと思ってます。」「私も…同じ気持ちです。」「13歳。それでもまだまだこの子と暮らしたい。この子がいない生活なんて考えられません。」「そうですよね。家族ですものね。」


優しい目でチワワちゃんを見る飼い主さん。心がホッと温かくなる。

ここにいる人達は、きっとみんな同じ気持ちなのだろう。

「ペット」ではなく「家族」。

…そう、大事な我が子の様に思っているのだろう。


「突然引き留めてすみませんでした。」「いえ!!お話出来て嬉しかったです。」「お互い、大事に育てましょうね。」「…はいっ!!」


男性と別れ、キッドの散歩もそろそろ終わりにしてお部屋に戻ろうとしたその時だった。


「…かおりさん?」「か、風間さんっ!?」

偶然も偶然。奇跡と言っても過言ではない。遠くはなれたこの地で、会う確率がとても低い風間さんの姿がそこにあった。


「えーっ!会えて嬉しいわっ!!」「ビックリです!お久しぶりです!」「…運命よ(笑)泣きそう…」「そ、そんなっ!!」


キッドとミルキーちゃんも、とても嬉しそう。

互いに尻尾をフリフリしながらクンクンと匂いを嗅ぐ

ぎ合っている。


「今日はここに泊まるの!?」「はい、プチ贅沢旅行です(笑)」「私達もなのよ!!ねぇ!ちょっと家のペンション来ない!?」「いいんですかっ!?」「是非っ!!」


こうして、私は風間さんの泊まるお部屋にお邪魔する事となった。


「キッドちゃんは食べちゃ駄目な食べ物ある!?」「いえ!大丈夫です。」「そう、じゃぁミルキーとキッドちゃんにおやつタイムね!」


風間さんが出してくれたのは、ペット様のケーキ。

…そう。私がキッド誕生日に毎月渡している大好物。


「うわぁ…!!良かったね!キッちゃん!」

シーーーーーン。キッドはいつもの「待て」の儀式をしている。


「キッちゃん(笑)今日はいいのよ(笑)よしっ!!」


バクバクバクバクッ…!!

「あぁっ!キッド!!ミルキーちゃんにも食べさせてあげて!!」「ミルキーがキッドちゃんに食べて貰いたいみたいね(笑)いいのよ、大丈夫。」「でもっ…!!」「ミルキーはキッドちゃん大好きだから!!」「す、すみませんっ…」


楽しい時間。

風間さんは紅茶と持参した者らしき洋菓子を私に出してくれた。


「あれからどう?」「症状は進んでますが、進行は穏やかです。」「そう…、こんなに元気なのにね。」「でも、1日1日を大事に過ごしていこうって決めたんです。」「…素敵な心掛けね。」


キッドはミルキーちゃんとフカフカのベッドで眠ってしまっていた。

私は風間さんと心置きなく喋り倒し、日頃の不安や風間さんの愚痴等を聞きながら過ごしていると、あっという間に2時間が経過。外は真っ暗になりかけていた。


「じゃぁ、そろそろ帰ります。」「そう…。またお会いしましょうね。」「勿論です!!またキッドを連れて遊びに行きますね!!」「いつでも!!待ってるわね。」「キッちゃん、行くよ!ミルキーちゃん、またね。」


こうして、私は風間さんの部屋をあとにし自分の部屋へと戻ってきた。

ここからは私とキッドの貴重な2人のラブラブ時間。

眠りにつくまでキッドを膝の上に乗せ、私もウトウトと居眠りをしながらまったりとした時間を過ごし夢のペンション宿泊計画はあっという間に終わりを告げた。



そして、翌朝。私はまた来年も必ずキッドと来ると近い、悔いの無い日々を送って過ごす事を心に決め、帰路に向かって車を走らせた。













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