第60話 キッドの異変。
「キッちゃん8ヶ月のお誕生日おめでとう!!」
今日でキッちゃんはは8ヶ月の。人間でいうと何歳になるのかな?
きっとまだまだベビーちゃんだろうけど、私にとっては大事な大事な彼氏。小さな彼氏なんだ。
「よーーし、キッド。待て!!」シーーーーーン。
この待ての時のキッドがとてつもなく可愛い!!
目をウルウルさせて、まだかまだかと鼻がピクピク動いている。
意地悪じゃないけど、ずっと見ていたくなる光景であった。
「よしっ!いいよ!」バクバクと食べるキッドの勢いは、本当に見ていて気持ちがいい。
「相変わらず凄いねぇ(笑)でもね、今日はもう1つプレゼントがあるんだよ!!」
そう。元気過ぎるキッドには、もう1つのプレゼント。気に入ってくれるといいんだけどさ…。
キッド顔の前に差し出したのは、虫の形をし、噛むとブビーブビーと鳴くオモチャ。
「キッちゃん!それ!」「……」「あ、あれっ!?もう一回ね!」
起きに召さなかったかな?食べ物に関する事と、散歩は大好きなんだけど、オモチャを与えるのは初めての…
「ブビーブビー!」
ダダダダダッ!!「えっ(笑)気に入ってくれたの!?」「グウゥゥ…」「あはは!オモチャだから大丈夫だよ!?」
キッドは首をブンブン振り回しながら人形と戦う。
気に入ってくれて良かった。安心した。
実は、離婚をしてから貯めていた貯金で生活をしていたが、それがいつまでも続くのはとても困難。「働く」という選択肢をあたしは選んだ。
「良かった。気に入ってくれたんだね。実はね、私働きに出なきゃ行けなくなるの。だから、キッちゃんに少し寂しい思いをさせちゃうんだ。」
人形に夢中のキッちゃんは、一瞬遊びを辞めたものの再びガウガウと格闘し出す。
「朝は早いんだけど、夕方のお散歩には帰って来れるから…我慢してね。仕事が終わったら飛んで帰って来るから。」
理解出来ないキッドは首を少し傾けながらあたしの話を聞いていた。
「あたしも本当はキッドと一緒にいたいんだけど、それじゃぁ生活して行けなくなっちゃうから…。全部貯金使うわけに行かないし。だからお仕事、頑張るね。」
こうして、私は次の日から朝になるとキッドを起こし、朝ご飯を食べさせた後「仕事」に出掛けた。
仕事の内容は母の知り合いから紹介してもらった会社の事務。パソコン中心と電話対応になるが、ご家族で経営されている会社の為アットホームでとても仕事がしやすかった。
そして、お昼。キットの事が気がかりで仕方ないけれどここは我慢。
寂しがってないだろうか?
あたしの存在をウロウロと探しているのではないだろうか?
色々な事が頭を過るが、残り半分と割りきり私は仕事に専念した。
「かおりさん、お疲れ様。今日はもう大丈夫よ。」「え?でもあと1時間残って…」「初日で疲れたでしょ?先はまだまだながいのだから、今日はゆっくり休んで。」「ありがとうございます!」
私は急いで帰り支度をし、車で我が家へと向かう。
キッドは何してるのかな?寝てるかな?
もうすぐ帰るから待っててね、キッド…。
「ガチャガチャ」
「ただいまっ!キッド!!」
家に到着したあたしが声を張り上げると、キッちゃんは「キャウーン!!キャンキャン!」とあたしの足に尻尾と身体を絡ませながら飛び付いて来た。
「ごめんね。寂しかった!?」「クゥーン…」「ごめんね。よし!お散歩行こう!!」
良かった。元気でちゃんとお留守番していてくれた。とーってもおりこうさん!!
それから、すぐにあたしとキッちゃんのお散歩。いつものごとく、キッドは電信柱や草むらをクンクン匂いを嗅いでは私がちゃんといるかどうかの確認をチラチラとしてくる。
この表情が堪らなく可愛い!!
「キッちゃん、明日はママ休みだからずっと一緒にいようね!!」「キャン!!」
お散歩デートが終わり、私はキッドに夜ご飯をあげる。
そして、夜はキッドと私の団欒。幸せの一時…。
キッドの顔をジーッと見ていた時、あたしはキッドのほんの少しの異変に気が付いた。
「キッちゃん、ママの方を真っ直ぐ見てごらん?」
何かがおかしい。キッドの身体が真っ直ぐ向いていない。顔だってそうだ。片眼だけであたしを見ているように感じる…。
「どうしてずっと顔を右に傾けてるの?どうしたの?」
あたしが左右に移動してみも、やはり身体も目もあたしを追うように右側だけを使って見ている様に思えてしまう。
「やっぱりおかしい。明日病院に行こう。」
次の日の朝。
私は有無を言わさずキッドを車に乗せ、病院へと車を走らせた。
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